
日本が「長寿企業大国」であることをご存知でしょうか。とはいっても、すべての業種の息が長いのではなく、規模などをよく見ていくと、いくつかの傾向があることがわかります。そこで本記事では、日本の老舗企業の共通点を探っていきます。
業歴100年以上の老舗企業は日本に約3万3000社ある
よくいわれることですが、日本は世界でも珍しい「長寿企業大国」です。信用調査機関の調査によると、業歴100年以上の老舗企業は日本全国に約3万3000社あり、しかも毎年1000社以上のペースで増えています。このままのペースでいくと、あと7年もしないうちに4万社を超える勢いです。

老舗企業を業種の大分類別に見ると、社数が最も多いのは「小売業・卸売業」の45.5%で、次に「製造業」が25.1%と続きます。かなり前から製造業の空洞化が議論されていますが、社歴の長い製造業が多いことは、ものづくり大国ニッポンの面目躍如といったところでしょうか。この2業種で老舗企業全体の約7割を占めています。
一方、「その他」(同4.4%)に含まれる「金融」(同0.8%)は国内経済の発展にともない、経営規模を拡大するため吸収合併が行われてきた影響もあるでしょう。
さらに、業種を細分類別に見ると、「貸事務所」(894社)がトップであり、2位は「清酒製造」です。酒造りそのものは大昔から行われてきましたが、事業としての清酒は1300年ほど前から始まったといわれ、それ以来、全国各地に広く根付いてきた産業です。中小の酒蔵はかなり減りましたが、それでもまだ相当の数があるのでしょう。
そのほかには、「旅館・ホテル」や「酒小売」、「呉服・服地小売」、「婦人・子供服小売」など、消費者向けのいわゆるBtoC関連の業種が上位を占めています。これらの老舗企業は基本的に、社会のなかで人々の暮らしに寄り添う身近な事業を手掛け、しかも堅実に経営を続けていることで長寿となったと考えられます。
「身の丈に合った商売」をした中小が老舗企業になる
同調査で年商規模別に見ると、老舗企業数が最も多いのは「1億円未満」となっており、全体の4割強を占めます。また、「1億~10億円未満」が4割弱です。年商としてはかなり少なく、中小企業基本法の定義でいう中小企業、それも小規模事業者に該当するケースが大多数だと考えられます。
一方、年商規模が大きくなるにつれて割合は小さくなり、年商500億円以上の老舗企業は全体の1.7%に過ぎません。
ただし中小企業や小規模事業者はもともと数が非常に多く、年商規模(事業規模)が大きくなるほど社数は少なくなる点を考慮しなければなりません。
老舗輩出率の視点で見てみると、年商「1億円未満」「1億~10億円未満」の企業のなかでの老舗輩出率は2%前後、つまりおおよそ50社に1社が老舗企業です。これ対して、「500億円以上」になると15.05%、およそ7社に1社が老舗企業という計算になります。
しかしながら、老舗企業のなかで中小企業、小規模事業者の絶対数が多いことは事実であり、大変注目される点です。これは無理に規模の拡大を追求せず、身の丈に合った商売を堅実に続けてきたことの表れではないでしょうか。大企業や急成長企業が、必ずしも老舗企業になるわけではないのです。
事業規模が拡大すると人、モノ、金などの経営資源もそれに合わせて必要となり、事業環境に大きな変化が生じたとき、迅速かつ的確な対応がしにくいという一面があります。
また規模の拡大を追求しない、身の丈に合った商売を堅実に続けるといっても、それは単に同じことを続けるだけではありません。外から見れば事業内容や企業規模が変わらないように見えて、実は業務の合理化や無駄の排除を徹底していたり、製品やサービスを絶えず磨き上げたりと、時代に合わせて変化しています。そういう“筋肉質”な中小企業が、老舗企業になっていくのです。
「貸事務所」に分類される老舗企業の秘密
先ほど触れたように、細分類別の業種では「貸事務所」が最も多くなっています。一般的に考えて「貸事務所」は比較的新しい業種であり、ほとんどは戦後、それも高度経済成長期以降に登場したものです。
すなわち、「貸事務所」に分類される老舗企業の多くは、もともとは別の事業を営んでいたものの、保有不動産の活用のためオフィスビルなどの経営に乗り出したり、あるいは企業が資産を増やしていく過程で、賃貸用不動産としてオフィスビルを取得し、不動産賃貸業に乗り出したりしたのです。
そういう意味では、昔からほぼ同じ事業を続けてきたであろうほかの老舗企業とは、かなり性格が異なるのです。
逆にいうと、現在は様々な事業を本業としている企業でも、新しい事業として不動産賃貸業、特に「貸事業所」を手掛けることで、老舗企業の仲間入りがしやすいということがいえるのではないでしょうか。
老舗企業が手掛けている業種のなかで「貸事業所」は、ある程度資金力は必要ですが、そのほかはさほど特別なノウハウの蓄積やネットワークがないとできないわけではありません。老舗企業へ至るひとつのルートがそこにはあるのです。
<まとめ>
日本は世界でも珍しい長寿企業大国ですが、実際の老舗企業の業種や規模などその中身をよく見ていくと、いくつかの傾向があることがわかります。中小企業にとって将来に向けて経営戦略を考える際、100年企業の前例をひとつの材料としてみるとよいのではないでしょうか。