もし銀行がなかったら、社会と企業にどんな不便が生じるか?

もしも銀行がなかったら、日々の生活にどんな面倒・不便が生じるでしょうか? 銀行の本業は「預金を集めて貸し出す」ことですが、それによって経済の発展を促進しているのです。今回は、銀行の役割について初心者向けに解説します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、今回が最終回です。

銀行は「預金を集めて貸し出す」のが本業

銀行はさまざまな仕事をしていますが、その本業は「預金を集め、貸出をする」ことです。「資金を右から左に流しているだけで、なにも作り出していない虚業なのに金を稼いでいてズルい」などといわないで下さいね。

 

魚屋だって魚を右から左に動かしているだけで金を稼いでいますが、彼らがいなければ我々の生活は大変不便でしょう。銀行はそれと同じか、それ以上の働きをしているのですから。

 

筆者が魚を食べたくなったとき、漁港まで買いに行くのは非効率ですから、魚屋がまとめて魚を仕入れて、小分けして売ってくれれば便利です。同様に、筆者がお金を貸したくなったら、借り手と直接交渉するのではなく、銀行がまとめて預かって貸出してもらえれば便利なのです。

 

銀行が役に立っているのは、それだけではありません。プロの目利き能力も重要ですし、「大数の法則」も活用しているのです。銀行のない国では、どのような困ったことが起きるのかを考えると、銀行の有難さがわかるはずです。

個人が「お金の借り手」を探すのは大変なので…

筆者が老後資金を貯めているとして、タンスに入れておくのは心配ですから、銀行がなければ、だれかに貸すのが合理的でしょう。しかし、借り手探しは容易ではありません。相手がきちんと借金を返す意思と能力を持っているか否かを見極めなければいけないからです。

 

借り手候補者に返済する意思と能力があるか否かを見極めるには、それなりの訓練が必要ですから、訓練を受けた銀行員が判断する必要があります。契約書の書き方、担保の取り方等々についても同様でしょう。

 

銀行のない国では、筆者は借り手の見極めもできず、契約書も作れず、怖くて老後資金を貸し出すことはできません。ただ、筆者にとっての問題はそれほど深刻ではありません。貸出ができなければ、タンス預金をしておけばよいからです。

 

問題は、資金の貸し手候補より借り手候補の方が深刻です。銀行がないと、貸し手が怖がってタンス預金をしてしまうため、借り手が借金することができないからです。借り手個人が住宅ローンを借りられなければ家が買えませんし、借り手企業が借金できなければ工場が建たず、日本経済は発展しないでしょう。

 

以上、銀行員と一般人の能力の差(受けている訓練の差)があるから銀行が必要だ、という話でしたが、この点については、以下では忘れておきましょう。一般人が銀行員並みに借り手を見極める能力等々があると仮定しても、なおかつ銀行のない国では困ったことが起きるのです。

 

銀行が「万一の事態」を承知のうえでお金を貸す理由

銀行員がいくら借り手の意欲と能力を見極める能力が高くても、間違えることもあるでしょうし、借り手に事故が起きて返せなくなることもあるでしょう。仮に、返済されない確率を1%としましょう。

 

筆者としては、当然貸出を躊躇します。借り手としては、「高い金利を払いますから貸して下さい」というでしょうが、それでも筆者は貸さないかもしれません。貸せば、100分の99の確率で高い金利が稼げて儲かりますが、100分の1の確率で大切な老後資金を失ってしまいますから。

 

しかし、筆者が貸さなければ企業は工場が建設できず、日本経済は発展しないでしょう。

 

筆者が貸さないのに銀行が貸出を実行するのは「大数の法則」を使っているからです。

 

大数の法則というのは、確率や統計のむずかしい話ですが、ひとことでいえば、「借り手の数が多ければ、倒産する会社の数は会社数に過去の倒産確率を掛けた数に近いはずだ」ということだとしておきましょう。

 

過去の倒産確率が1%だとすれば、「100社に1社の割合で貸出が回収不能になる」と予想できますから、1万社に対して貸出をする際に、あらかじめ1%だけ高い金利を要求すれば良いのです。

 

そうすれば、100社に1社の割合で回収不能になっても、銀行としては損をすることはないので、安心して貸出を行えるわけです。

銀行の安定的な経営・運用に利用される「大数の法則」

上記の議論は置いておきましょう。筆者には企業を見極める能力があり、しかも貸出は100%確実に返済されるとします。それでも、筆者は老後資金を企業に貸し出すことを躊躇するでしょう。

 

それは、「筆者が急に病に倒れて老後のための資金が直ちに必要になる可能性」があるからです。

 

しかし、銀行なら貸出が可能です。100人の預金者から老後資金を預かるとして、確率的にそのなかのひとりが病に倒れて資金が必要になって預金を引き出しに来るとします。

 

銀行は、100人から預かった金の99%を貸出に使い、1%を金庫に保管しておけばいいのです。預金客が100人だと不安ですが、「100万人いれば、約1万人が引き出しに来るはず」という大数の法則が使えるからです。

銀行は「短期資金」を「長期資金」に転換できる

老後のための資金だけではありません。預金者たちが一時的に銀行に預けている資金でさえも、銀行が大数の法則を使えば工場建設資金として貸し出すことができるのです。

 

筆者が今日預けて明日引き出すお金、A氏が明日預けて明後日引き出すお金、B氏が明後日預けて明々後日引き出すお金…それらは、個々人が工場建設のために貸し出しすることはできません。しかし銀行なら、それらを使って工場建設資金を貸し出せます。

 

「100万人の預金者がいれば、1万人が預金を引き出しに来る一方で、1万人が預金を預けに来る」ということが大数の法則で予想できるなら、預金の残高は変わらないでしょうから、安心して預金を貸出に使うことができるからです。

 

本稿は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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