ライバル企業間の駆け引き…「値下げ競争」がなくならない理由

企業間の駆け引きでしばしば見られるのが「値下げ競争」です。企業が目指すのは顧客の独占による収益アップですが、ライバル同士で値下げ競争を繰り返し、疲弊してしまうケースも少なくありません。今回は、どのような理屈において値下げ競争が繰り広げられるのか考察します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第45回目です。

A社社長「値下げしてB社の客を奪うか、現状維持か…」

拙稿「熾烈な値下げ合戦も…赤字会社が操業停止できない苦しい事情」では、企業の固定費と変動費の関係等々から熾烈な値下げ競争が発生しかねないメカニズムについて記しました。今回は、ライバルとの駆け引きという観点から値下げ競争について考えてみましょう。

 

A社とB社がライバルとして客を奪い合っているとします。A社の社長は、値下げしてライバルから客を奪うべきか、値下げをせずに現状維持すべきか、以下のようにを考えているとします。

 

「B社が値下げをするかどうか、わからないが、我が社として値下げをすべきか否かを決めなくてはならない!」

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「とりあえず、B社が値下げをしないと仮定しよう。我が社も値下げをしなければ、小利益のままだ。我が社が値下げをすれば、B社から顧客を奪えるので、B社は大損となるだろうが、我が社は大利益となるだろう。そうであれば、我が社は値下げをすべきだろう」

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「次に、B社が値下げをすると仮定しよう。我が社が値下げをしなければ、B社に顧客を奪われてしまうので、B社は大利益だろうが、我が社は大損だ。我が社も値下げをすれば、顧客を奪われることはないが、値下げした分だけ収益が悪化するので、B社も我が社も小損を被ることになるだろう。そうであれば、我が社は大損より小損を選ぶべきだから、値下げすべきだろう」

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「Bが値下げをしてもしなくても、我が社の採るべき選択肢は値下げである。悩む必要はない、値下げをしよう!」

B会社も値下げを敢行し、A・B両社とも事態悪化!?

B社の社長も、まったく同じように考えて値下げをするでしょう。その結果、昨日までは両社ともに小利益を稼いでいたのに、今日は両社ともに小損を被ることになるわけです。

 

両社ともに正しい判断をして正しい行動をしたのに、両社とも事態が悪化してしまった、というわけですね。

 

上記をまとめたのが下の表です。これは、「ゲーム理論」における「囚人のジレンマ」という有名な話を、安売り競争のケースに応用したものです。

 

[図表]ゲーム理論「囚人のジレンマ」を安売り競争に応用したケース

 

これは深刻な問題です。両社ともに正しい判断をしているわけですから、「値下げする」という判断を変更する理由が見当たりません。つまり、両社とも明日も値下げをし、明後日も値下げをし、永遠に値下げを続けて倒産してしまう、という可能性さえあるわけですから。

 

「カルテル」を結んでも、相手の行動は制御できない

打開策として思いつくのは、カルテルです。A社とB社が相談して「お互いに値下げはやめよう。そうすれば、両社ともに小利益を確保し続ける事ができるのだから」と決めればいいのですね。

 

場合によっては、お互いに値上げしよう、といった相談もなされるかもしれません。ほかにライバルがいなければ(寡占の状態ならば、と呼びます)、2社ともに値上げをすることで顧客が減らずに利益率が上がると期待できるからです。

 

しかし、これは容易なことではありません。まず、カルテルは独占禁止法に違反しますから、公正取引委員会に見つかると罰せられます。

 

それ以上に問題なのは、各社には「カルテルに違反するインセンティブ」があることでしょう。

 

A社の社長は考えます。「B社と、値下げしないと約束した。B社がそれを守るとする。我が社が約束を破って値下げをすれば、B社から顧客を奪うことができて、大儲けができるはずだ。それなら値下げすべきだ」と。

 

A社の社長は、さらに考えます。「もしもB社が約束を破って値下げをしたとしよう。我が社が約束を守って値下げせずにいると、顧客を奪われて大損してしまうが、我が社も約束を破って値下げすれば、小損で済む。それなら、値下げすべきだ」と。

 

結局、A社は値下げを選択し、B社もまったく同様に値下げを選択し、約束はまったく守られない、ということが容易に予想できるわけですね。

 

カルテルに違反した会社に対して制裁を加えることができるのであれば、違反する会社は出にくいかも知れませんが、私企業同士の契約に違反したからといって、制裁をするのは容易ではありません。

 

カルテル破りが法律違反なら罰金を科すこともできるでしょうが、法律に違反しているのはカルテルを守っているほうですから、それは無理です。さらには、裁判に訴えて「お前は約束を破ったから、損害賠償を請求する」ということもできませんから(笑)。

 

もっとも、手段がないわけではありません。「繰り返しゲームにおけるしっぺ返し戦略」というのがオーソドックスな手段でしょうが、筆者にとって目からウロコだったのは「家電量販店の最安値宣言がライバルに対する脅しだった」ということです。これについてはまた、次の機会に。

 

本稿は、以上です。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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