借金を抱えた従兄と「大モメ」…後継社長が亡父を恨んだワケ

日本には、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。実際富裕層の間では、「知らなかった」では済まされない、ドロドロの相続トラブルが発生しているのです。新月税理士法人の佐野明彦氏が、事例をもとに解説します。

借金を抱えた従兄「株式を買い取ってほしい」

《トラブル事例》会社発足時に名義貸しを頼んだ親族保有株の買い取りを求められたケース

 

中古車販売事業を手がける五代良雄社長が亡くなってちょうど1か月後、後を継いだ長男のもとに株式の買い取りを求める連絡が入った。連絡してきたのは、父方の従兄である。3年前に母親が亡くなった際に五代自動車の株式を相続したのだが、それを買い取ってほしいと言う。

 

故人である母親の小谷智子は良雄社長の実姉だ。30年前に五代自動車が発足した際、出資して株式をもらったと従兄は言うが、後継者である長男にとっては寝耳に水の話だった。

 

「聞いてない」では終われない
「聞いてない」では終われない

 

古い事情を知る従業員に訊ねると、当時は株式会社を興す際には発起人が七人必要だったため、実姉に頼んだらしいことが判明。どうやら良雄は妻と小姑に当たる小谷智子の折り合いが悪いため、そのことを家族には隠し、後は忘れてしまっていたようだ。

 

ただ古株の経理担当者は「単に名義を借りただけであり、小谷智子の出資はなかった」と言う。後継社長はそのことを従兄に訊ねるが「出資はあった」と言うばかりで、水掛け論になってしまう。

 

五代自動車は良雄社長の手腕もあって、この30年のうちに急成長してきた。上場していないため正確な株価は不明だったが、改めて試算すると従兄が求める株式を買い取るためには数億円の資金が要ることがわかった。

 

会社にそんな資金は到底ない。用意するには好調の店舗をいくつも手放したり、高利での借入を受けたりといった手段しかない。後継社長はなんとか経営にダメージが出ない範囲の金額で交渉をまとめようと頑張ったが、従兄は大きな借金を抱えているらしく応じてくれない。結局は裁判となり、裁判所が決定した額は従兄の主張に近い大きな額だった。

 

なぜトラブルの元になる名義株をきちんと処理しておいてくれなかったのか、後継社長は父親をひどく恨むこととなった。

 

親族に名義貸しを頼んだケース

「名義貸し」が相続トラブルをドロ沼化させる

「名義株」というのは名義を借りて他人に引き受けてもらっている株式のことで、本当の所有者と名義上の所有者が異なります。名義株が発生する原因はさまざまですが、《トラブル事例》のように起業の際に名義だけを借りたというケースはよく見られます。

 

平成2年の商法改正後は、発起人が1人でも株式会社を作れるようになりましたが、それ以前は最少でも7人の名義が必要でした。そのため親族や従業員、友人などに名義を借りることがよくあったのです。

 

名義を借りる際に出資を受けていなければ、株の実質的な持ち主はオーナー社長です。ですから、お互いが事情を知る社長と名義人が元気なうちはあまり問題が起きません。

 

《トラブル事例》は代表的なケースですが、この場合も良雄社長と姉が生きていれば、姉弟間には合意があるので「高額で買い取れ」といった請求が出てくる危険性はほとんどありません。そういう安心感があったからこそ、姉から名義を借りたはずです。ただ、そのまま歳月が流れて、どちらかに相続が発生した時などは事情が変わってきます。

 

《トラブル事例》では、妻と姉の折り合いが悪いため、社長が名義株のことを隠していましたが、他にも妻に隠す理由としては「前妻が株主」というケースなども考えられます。

 

婚姻関係にある間は、利害関係が一致する妻の名義を借りるのは理にかなっていますが、離婚後は名義株を引き取っておかないとトラブルの元になります。後妻に名義株の存在を明かせなければ、隠れた名義株が長く存在することになるかもしれません。

 

このように隠されている事情はさまざまですが、いずれの場合も大きなトラブルにつながるとは考えていないため、ズルズルとその状態を引きずることが多いようです。そして《トラブル事例》のように、歳月を経る中で本当の所有者が社長であることの証拠が曖昧になってしまうことは珍しくありません。この場合は、もし裁判ということになると、次のような事実関係を調べることで名義株なのかどうかを判断します。

 

●会社発足のために名義を借りたという念書があるか

●株式を持つための資金は誰が出したか

●配当は受け取っていたか

●名義を換える時には贈与税や相続税の申告をしたか

 

ただ、こういった判断基準はあるものの、当事者が亡くなるなどで当時の事情を証明する証拠が散逸してしまうことがあります。そのため、名義人が株式を持つに至った事情を証明することは難しくなります。

 

名義株だと証明できなければ、株式に基づく権利の行使は名義人のものにならざるを得ません。買い取りの交渉はもちろんですが、経営に関わるさまざまな権利を行使されたり転売されたりと、後継社長にとって大きなトラブルの火種になってしまいます。

株式の種類によっては「買取請求」に応じる必要がある

上場株であれば市場で売買することができますが、非上場株は簡単に売れません。そのため《トラブル事例》のように、株式の種類や状況によっては名義人が会社に対して株式の買い取りを求めることがあります。

 

たとえば「取得請求権付株式」は請求があれば会社が取得しなければならない株式です。種類株の一種で、株主の方から「この株を買ってください」と請求できる権利がついた株式なのです。

 

第三者への譲渡を制限する「譲渡制限株式」も買い取りの対象になることがあります。これは所有者が第三者に株式を譲渡する時には会社の承認が必要な株式です。株式は経営権と一体のものですから、不都合な人が持ち主になると経営が不安定になるなど大きなリスクが発生します。そのため、非上場会社では自社株に譲渡制限を付けていることが一般的です。

 

この株式は譲渡する時には会社の承認が必要なので、ライバル会社や反社会的な団体などに株式を持たれてしまうことを予防できます。

 

ただし譲渡を制限する代わりに、譲渡制限株式を持つ株主から「株式を売却したい」という求めがあった場合、会社側は次のいずれかの対応を選択することになります。

 

① 第三者への譲渡を認める

② 会社が買取人を指定する

③ 会社が買い取る

 

先にも説明した通り、株式が第三者の手に渡ると経営が不安定になりますから、できる限り②もしくは③を選びたいところです。ただ、②の場合は資金力があってしかも信頼できる人物や組織が買い手として手を上げてくれなければ実現できません。そんな買取手は簡単に見つかりませんから、かなり難易度の高い手段と言えるでしょう。現実的には③を選択することが多いのですが、こちらは会社に資金力があることが前提となります。

 

こういった種類株以外に、会社の重大な意思決定の「反対株主」の株式も買取請求の対象となります。

 

会社経営では合併や分割、事業譲渡など重大な決定を下すことがあります。株主がこれに反対の考えを持つ場合、上場株なら市場で売り払うことで投資した資本を回収することができますが、非上場株ではそれができません。

 

買い取ってくれる人を個人的に見つけるのも煩雑です。そのため会社側の重大な意思決定に反対する株主には、会社側に株式の買い取りを請求する権利が認められているのです。

 

買取請求が出されたら、会社側は株主側と買取価格の協議を行います。上場株なら市場価格が目安になりますが、非上場株の場合には妥当と思われる範囲で希望額を出し、両者の希望とすり合わせていくことになります。

 

交渉が決裂した場合は裁判になり、裁判所が買取価格を決めます。その基準になるのは、会社の資産から負債を引いた純資産や、会社が獲得する将来のキャッシュフローなど状況によってさまざまです。注意したいのは、こういった方式によって算出される株価は、相続税の算定における財産評価とは異なるということです。

 

状況によっては、裁判所によって決定される株式の価格は、相続税評価額に比べてはるかに高額になるので、買取請求をされた時には大きな資金を要する可能性が高くなります。

 

好調の企業でも余裕資金をあまり持っていないケースは少なくありません。資金がなければ株式を買い取るために事業用の資産を売却したり、借入を増やしたりといった対策をとることになり、事業に大きなダメージを生じることがあります。

新月税理士法人 代表社員

平成17年3月税理士登録 平成23年5月新月税理士法人設立
お客様の人生に添ったタックスプランを設計するタックスデザイナー。争いになる前の相続人同士の関係に配慮した細やかな調整から事業承継および相続のための株価算定、納税猶予などの資産税対策を通じてオーダーメイドの生涯タックスプランをデザインする。

著者紹介

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佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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