食中毒を出し事業で大失敗…借金社長、「終活」はどうする?

いつの時代もなくならない「相続トラブル」。富裕層の人は、一体何に悩んで相続対策をするのでしょうか? 新月税理士法人の佐野明彦氏が、事例を紹介し、対策法を解説します。

借金するも「うまくいっている」と嘘をつき続ける社長

《トラブル事例》会社が多額の借金を抱えるケース

 

外食チェーン店を経営する四条社長は新しく展開した店舗で食中毒を出してしまい、大きな借金を抱えることに。そして、キャッシュフローが悪化する中、ついにはそれまで付き合ってきた各銀行に返済スケジュールの変更をお願いするほどとなってしまった。

 

返済スケジュールの変更などの影響により、当面の間、銀行からの融資が困難になった。そのため、仕方なくあちこちから個人的な繋がりを利用して借入資金を作ることになり、借金も当初の想定より大きく膨らんでしまった。

 

自分の相続に際して後継者が育たない場合、会社をたたむ必要があるが、すべての資産を売却しても、ようやく借入が返済できるがどうかという状況であった。

 

個人の資産は潤沢にあるが、事業に使ってしまうと老後の生活に不安が残る。若い頃から支えてくれた妻は最近病気がちなので心配をかけたくない。最近では少しの出費でも気にかけているようだ。そのため、四条社長は事業のことが話題になると「うまくいっている」と嘘をつき続けている。

 

なんとか事業を盛り返して借金を返済していきたいところだが、心労もあり自分の体調にも最近は不安を感じるようになってきた。自分にもしものことがあった場合、妻や娘の生活だけでも何とかしなければと考えると、不安でいてもたってもいられない。

 

事業に失敗して大きな借金
事業に失敗して大きな借金

配偶者の特別控除を利用して自宅を妻に贈与しておく

事業には運不運がつきものです。経営手腕にかかわらず、苦境に陥り大きな借金を背負ってしまうことは珍しくありません。しかも、《トラブル事例》のように「家族に心配をかけたくない」と、事業で大きな借金を抱えながらも隠しているケースが意外に多いのです。

 

返済するあてがあればよいのですが、後継者がおらず返済計画に少しでも無理がある中で健康に問題を感じたりすると、家族がどうなってしまうのか不安が募ります。そういったケースで検討したいのが「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」という特例です。

 

通常、住まいを家族に譲ろうとすると贈与税がかかります。地価の高い住まいなら大きな額になりますから、お金があってもなかなか決断できないでしょう。ところがこの特例を使うと、2000万円までの範囲なら無税で渡すことができるのです。さらに、年間の贈与税の非課税枠110万円を加算すると2110万円をいっきに贈与することが可能です。

 

適用されるためには以下のような条件があります。

 

●結婚期間が20年を過ぎていること

●贈与されるのは居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金であること

●贈与された年の翌年3月15日までにその不動産に住んでいて、その後も住む予定であること

※詳しくは国税庁HP「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」をご覧ください

 

なおこの特例は、同じ配偶者からの贈与の場合、一生に一度しか使うことができません。

 

生前贈与によって住まいを妻の名義にしておけば、いざという時に妻が住まいを失うことはありません。また、被相続人が亡くなる前の3年間の贈与は相続時に戻されて計算されますが、この贈与の適用は戻されることはないので、配偶者にとってはとてもよい制度です。

 

ただし、ここでの話は社長が破産してしまうような状況ではなく、個人の財産で十分返済できる範囲の借入のことです。大きな借金がある状態で住まいを贈与すると、贈与の状況によっては債権者を害する行為(詐害行為)として、贈与が取り消される恐れがありますので、実行前には弁護士や税理士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

老後の生活のため、「相続時精算課税制度」を利用する

同様に財産を生前贈与する方法として、贈与税の特例措置である「相続時精算課税」の利用があります。

 

《トラブル事例》のようなケースでは相続時にはほとんど何も残りません。まだ若く、財産を相続しなくても自力で生活費を得られる子供はまだしも、高齢になった妻は老後の生活不安が残ります。いくら借入を返済できる個人財産があっても、老後に突然、財産が減ってしまう事態は、大きな精神的ダメージとなります。

 

そこで「相続時精算課税」を利用して子供に資産を贈与します。そして、その子供の扶養を通じて妻の老後生活をある程度賄える額の財産を贈与しておくのです。

 

暦年課税方式での贈与では、年間110万円までの非課税枠があります。「相続時精算課税」はそれに並ぶ贈与税の特例です。贈与税の課税方式として、納税者は「暦年課税」か「相続時精算課税」を選択できます。

 

「暦年課税」は1月1日から12月31日までの1年間に贈与した財産に贈与税率を掛けて納税する方法です。この場合だと、年間110万円の非課税枠があります。一方、「相続時精算課税」は、贈与時には贈与税が免除され、相続が発生した時に贈与時に渡した財産を加算して「相続税」として精算するものです。

 

たとえば1000万円を贈与する場合、通常なら約4分の1を贈与税として取られてしまいますが、相続時精算課税を選んだ場合には、相続税の非課税枠内に相続財産の総額が収まれば税金はゼロで済むこともあります。平成27年の改正相続税法施行で非課税の範囲である基礎控除額が縮小されましたが、それでも相続税の非課税枠はかなり大きめです。

 

相続財産の額がもしこの非課税枠からはみ出たとしても、贈与税に比べて相続税の税率は低いので、相続時精算課税を使うことで贈与税をかけずに早期に財産を渡すことができます。相続税も少額であるため、納税額を大幅に縮小しながら生前贈与を実現できるのです。

 

この制度の利用条件は次のようになります。

 

●財産を贈る人は親もしくは祖父母、受け取るのは子供もしくは孫

●贈る側の年齢は贈与をした年の1月1日において60歳以上

●受け取る側は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上

 

なお、相続時精算課税を選択すると、後になって暦年課税方式に戻すことはできません。相続時に相続財産と見なして精算できるのは2500万円までです。この制度を選択した上で、それ以上の額を贈与した場合は、2500万円を超える分について、一律20%の贈与税が課税されます。

 

贈与税の税率としてはかなり低い方ですから、可能なら2500万円という枠を超える贈与を検討してみてもよいでしょう。

 

ただし、《トラブル事例》のようなケースでは、母親である社長の妻を子供が扶養していることが前提です。両者が不仲の場合は使えないので注意が必要です。また、状況によっては「詐害行為」と見なされることもあるため、慎重な対応が求められます。

新月税理士法人 代表社員

平成17年3月税理士登録 平成23年5月新月税理士法人設立
お客様の人生に添ったタックスプランを設計するタックスデザイナー。争いになる前の相続人同士の関係に配慮した細やかな調整から事業承継および相続のための株価算定、納税猶予などの資産税対策を通じてオーダーメイドの生涯タックスプランをデザインする。

著者紹介

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佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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