父の事故死から2年…激怒した「隠し子」が母のために動いた!

日本には「知らぬが仏」という言葉がある通り、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。実際、富裕層の間では、まさに昼ドラのようなドロドロの相続トラブルが発生しているのです。新月税理士法人の佐野明彦氏が、事例を紹介し、対策法を解説します。

トラブル事例:「隠し子」を認知しなかった社長

産業用器機メーカーである二階堂機械の社長、二階堂義広には隠し子がいた。以前から付き合いがある女性、木下華子の子供、義男だ。

 

子供が出来た時には「うまないで欲しい」と伝えたのだが、華子は「あなたには迷惑をかけないからうませて欲しい」と泣きながら訴えてきたため二階堂社長は腹をくくった。ただ、ひどく身勝手ではあるが、この子のことを妻だけには知られたくなかった。

 

義男がうまれても華子から認知を迫られることは一度もなかった。それどころか、華子と二階堂社長が会うことはほとんどなくなり、自然と不倫の関係は終わっていった。

 

二階堂社長は責任を感じ、別れてからも何度となく援助の打診をしたが、華子はかたくなに断っていた。しかし、いつしか社長の押しの強さに負けて、義男が幼稚園に入るときから少しばかりの援助を受けるようになった。

 

二階堂社長は義男がとても可愛かった。いつも遠くから元気な姿を見ていると、華子に「うまないで欲しい」と言ったことをひどく後悔した。義男が小学校に入学する時には新入生が必要なもの一式を買い揃えてあげたが、ランドセルに書いてある名前が「二階堂義男」ではなく「木下義男」であることに何とも言えない気持ちになっていた。

 

そんな時、「名前は変えなくとも認知だけは……」と思うのだが、事業承継のことを考えると、どうしていいのかわからず、結局、認知ができずにいた。

 

二階堂社長には、正妻との子供に事業を承継させる準備が整うまでことを荒立てたくないという思いがあったのだ。ましてや自分の相続のこととなると、まだまだ現実味もなかった。ただ、自分が生きている間に華子と義男が十分な財産を受け取れるだけの処理をしなければならないし、正妻にも時期が来れば何らかの償いをしなくてはとも思っていた。

 

ところが、そんな状態を何年も続けてきたある日、二階堂社長は歩道に突っ込んできた車にひかれ、突如帰らぬ人となってしまった。

 

二階堂社長の急逝で華子は収入が激減し、家族の生活は一変した。母親の介護をしていた華子は、生活を支えるために昼夜を問わず働かざるを得なくなった。しかし、無理が続いたのか、ある時、華子もからだを壊してしまう。そのため、義男は間近に迫った大学進学をあきらめることにしたのだった。

 

大学進学を諦め…
大学進学を諦め…

 

そんな混乱が2年も続き、義男は父親のことをひどく憎むようになった。見るに見かねた華子の親族は、弁護士に相談して「認知訴訟」を起こすことを義男に提案した。義男はそこで父親が死んでから3年以内だと「死後認知」の手続きができることを知ることとなったのだ。

 

訴えが認められれば、自分も父親の財産の相続権を持つことができる──。母親は訴えをやめるように諭してきたが、二十歳になる義男は自分の決断を変えなかった。父親が自分たちのことをどう考えていたかは知るよしもないが、今は、母親に楽になって欲しいという一心で、弁護士事務所のドアを叩いた。

 

そして、二階堂社長が亡くなってから3年以内のある日、義男は弁護士を通じて二階堂社長の親族に連絡を取り、認知の手続きを始めたのである。

 

隠し子を認知していないケース
隠し子を認知していないケース

「子供の認知」は「最低限の愛情表現」と考えよ

事例のようなトラブルが起きるのは、経済的な理由もありますが、多くの場合、子供に対する愛情が伝わっていないことが原因にあります。

 

一般的な父親であれば子供への愛情があるのは当然ですが、ただ思っているだけでは子供には伝わりません。思い立ったらすぐに行動して認知や生活費の援助を確定させ、しっかりとそのことを伝えておくことが最低限必要だと考えます。

 

正妻やその子供などにとっても、社長の死後に隠し子からの訴えがあれば、社長本人だけでなくその愛人と隠し子にもひどい怒りを覚えるでしょう。ありえませんが、もし生き返って家族の心の痛みを知ると後悔するはずです。

 

死後に隠し子から認知請求がなされたら、正妻側からも不倫相手である隠し子の母親を訴える場合があり得ます。時効など複雑な事由は絡みますが、大変な騒動となることは間違いありません。懺悔をするなら、生前の相続対策を十分にしておくことが大切です。

 

今回の事例ではあまり関係ありませんが、「本当の子供かどうか」が問題となる場合があります。法律的には「本当の母親かどうか」という点は疑いがありませんが「本当の父親かどうか」は第三者からはわかりません。そのため、法的な効力をもつ「認知」という手続きがあるのです。

 

認知以外の方法で父子関係が認められるには「嫡出推定」という方法があります。嫡出推定とは、生まれてきた状況などから「その男性の子供に違いない」と推定することです。たとえば結婚しているというのは「嫡出推定」が成立する大きな要素です。

 

ただしこれについても細かな規定があり、民法772条では結婚してから200日以内に生まれた子供については「嫡出推定」を行わないことになっています。つまり法律をそのまま適用すると、いわゆる「できちゃった婚」の場合には、夫はその子の父親だとは推定されない可能性があるのです。これは妻が結婚前に付き合っていた男性がいるかもしれないということを排除できないからです(いろいろな判例があり法律家にお任せする微妙な分野になりますが、父子関係に争いがなければ、現実的には結婚している二人の子供となるでしょう)。

 

このように法で定められた条件に当てはまれば「嫡出推定」が適用されます。そうでない場合には、法律的な父子関係を結ぶために「認知届の提出」という手続きを取る必要がでてきます。

 

非嫡出子は「嫡出推定」に必要な条件に当てはまらないため、父親の認知がなければ父子とは認められないのです。こちらの場合も細かな条件はありますが、父親側にその意思があれば認知は簡単にできます。役所に認知届を提出し受理されれば戸籍に父親として記載され、法的に正式な父子と認定されます。

 

認知して父子関係が成立すると、出生したときに遡って法律上の親子関係に基づく「相続権」や「扶養義務」が発生します。非摘出子であってもこの権利関係は嫡出子と同じです。

 

一般的に母子家庭の生活は不安定なものです。側にいて一緒に生活できないのであれば、最低でも認知という形で気持ちを母子に示すことが必要です。相続はそこからスタートとなります。

新月税理士法人 代表社員

平成17年3月税理士登録 平成23年5月新月税理士法人設立
お客様の人生に添ったタックスプランを設計するタックスデザイナー。争いになる前の相続人同士の関係に配慮した細やかな調整から事業承継および相続のための株価算定、納税猶予などの資産税対策を通じてオーダーメイドの生涯タックスプランをデザインする。

著者紹介

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佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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