アジアNo.1都市から陥落も…「東京」の弱みと強みを徹底分析

ロンドン・NYと並ぶ国際競争力を持つ東京ですが、発展が著しいアジア圏においてはいつ他都市に追い抜かれるかわからないというのが現状です。東京が今後も発展していくためには、強みを伸ばし、弱点を克服することで総合力をアップさせていくことが重要です。※本連載は、『新・東京進化論』(幻冬舎MC)の一部を抜粋したものです。

発展のため、アジアにおける絶対的優位性を構築すべし

ロンドン、ニューヨーク、東京。これが世界の主要都市トップ3ですが、興味深いことに、それぞれ立地する地域が分かれている。ヨーロッパのロンドン、北米のニューヨーク、アジアの東京。

 

しかし、アジアにおける東京の地位は、ヨーロッパのロンドン、北米のニューヨークほど安泰ではありません。実は東京は、アジアのなかで終始ナンバーワンの地位にあるものの、アジア2位以下のシンガポール、ソウル、香港とのスコア差はそれほど大きくありません。

 

その理由は21世紀以降、アジア全体の都市力が向上しているから。今後、東京がスコアをガクンと落とすようなことがあれば、あるいは、シンガポールなどが急激にスコアを伸ばすことがあれば、その順位は容易に逆転してしまいます。東京がこれからも発展し続けていくためには、まず、アジアにおける地位を盤石にしておきたいところです。

 

そこで今度は、アジア他都市に対する、東京の強みと弱みをまとめてみました。それが図表1。方向性としては、強みを伸ばし、弱みを克服すればいいことになります。

 

※アジア他都市のなかでもGCPI総合順位の高いシンガポール、ソウル、香港の3都市と比較 出典:森記念財団都市戦略研究所
[図表1]指標別[アジア他都市に対する]東京の強みと弱み ※アジア他都市のなかでもGCPI総合順位の高いシンガポール、ソウル、香港の3都市と比較
出典:森記念財団都市戦略研究所

 

東京がアジアの他都市に比べて優れている点、すなわち東京の強みは、まず「経済」分野の、「GDP」「賃金水準の高さ」になります。東京は、GDP成長率こそアジアの他都市に及ばないものの、GDPそのものは極めて大きいのです。日本のGDPはアメリカ、中国に次いで世界第3位であり、東京都のGDPは約7200億ドルと、都市別でニューヨークに次ぐ世界2位。シンガポールやソウルなど、アジアの他都市の2倍以上です。この経済規模の巨大さは、東京の大きな武器になるはず。

 

また「文化・交流」分野では、「アーティストの創作環境」「歴史・伝統への接触機会」「美術館・博物館数」で、アジアの他都市を上回ります。東京は、アート作品のマーケットやアーティストのサポート体制が充実しているからです。また、「歴史・伝統への接触機会」はロンドンなどに比べれば少ないものの、アジア他都市に比べれば相対的に優位に立っています。美術館や博物館の数もアジアの他都市を圧倒しています。

 

「居住」分野では「総労働時間の短さ」、「環境」分野では「SPM濃度の低さ」、「交通・アクセス」では「公共交通の充実・正確さ」が東京の強み。ちなみに「SPM」とは、工場・焼却場・自動車などから排出される、煤塵(ばいじん)・粉塵(ふんじん)・PM2.5などの浮遊粒子状物質のことをいいます。

 

一方、アジアの他都市に比べて、東京の弱みといえるのが、まず「経済」分野の「GDP成長率」と「法人税率の高さ」です。東京はGDP成長率が低く、法人税率が高いので、企業にとって有利なビジネス環境とはいえません。

 

「研究・開発」分野では、「世界トップ大学」の指標でアジアの他都市に遅れをとっています。この指標は、イギリスの教育情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが発表している「世界の大学ランキング」がベースになっていますが、このランキングでは外国人教員比率や外国人学生比率が重視されるため、シンガポールや香港の大学のほうが、東京の大学よりどうしても高く評価されがちでもあります。

 

さらに「文化・交流」分野の「ハイクラスホテル客室数」も、以前からの東京の弱点。必要性がたびたび指摘されるものの、五ツ星クラスのホテル客室数はなかなか増えていかないのが現状です。

 

「環境」の「リサイクル率」「CO2排出量の少なさ」は、東京が特に悪いわけではないものの、現在の環境基準からすると、決して良いともいえません。「交通・アクセス」の「国際線直行便就航都市数」「国際空港へのアクセス時間の短さ」は、東京の長年の課題。直行便就航都市数や空港へのアクセスの点では、シンガポール・チャンギ空港や香港国際空港のほうが、羽田空港、成田空港より明らかに優れています。

 

規制緩和と法人税減税で世界一のビジネス環境を整備

以上見てきたように、東京が世界トップ2のロンドン、ニューヨークに対抗し、アジアエリアで絶対的優位を保つには、東京の弱みを克服し、強さに変えなければなりません。そこで例えば、図表2のような対策が必要になるでしょう。

 

出典:森記念財団都市戦略研究所
[図表2]東京の総合力向上に向けて 出典:森記念財団都市戦略研究所

 

●経済

 

「経済」分野でこれから必要になるのは、政治主導による経済成長施策(規制緩和・法人税率の見直し)を一早く打ち出すこと。

 

本書(『新・東京進化論』)第2章でも解説しましたが、これからも続く「都市の時代」は、集積こそが力になります。ヒト・モノ・カネ・情報は集積すればするほど、相乗効果でより大きなパワーを生み出すからです。ポイントは、集積すること自体にデメリットは存在しないこと。東京にはすでに数多くの優良企業が集積していますが、今後さらに発展していくには、外国企業を含め、今まで以上に多くの優良企業を誘致する必要があります。

 

そのため、政府も東京都も、東京に世界一のビジネス環境を整備し、より多くの外国企業を招致しようと考えています。第二次安倍政権が掲げた成長戦略の目玉、「国家戦略特区」構想でも、2014年以降、大胆な規制緩和を実現して、外国企業誘致の呼び水にしたかったはず。

 

ところが、岩盤規制の抵抗は予想以上に強いものでした。例えば、東京に来た外国人が医療を安心して受けられるよう、外国人医師が東京で医療行為ができるよう規制緩和しようとしたものの、厚生労働省と東京都医師会の抵抗が激しく、結局、都内4病院で5人の外国人医師の勤務が認められただけ。

 

そのうち、2017年に加計学園の獣医学部問題で国会が紛糾。結局、大きな成果を上げられないまま、国家戦略特区構想はいつの間にか下火になってしまいました。東京が、国際都市としてさらなる成長を目指すのであれば、「世界一のビジネス環境を整える」という当初の理想をもう一度掲げ、規制緩和に再チャレンジしなければなりません。

 

ただし、都市開発の分野では「国家戦略特区」制度の活用はうまくいっているので、それ以外の分野でもどのような枠組を設計するのがよいのかを検討することも必要になるでしょう。

 

経済についていえば、法人税率の見直しも重要なテーマになります。図表3は、GPCIで取り上げている世界44都市のうちから9都市を選び、法人税率の低い順に並べたグラフです。

 

好調な米国経済に加えて、2018年1月からの法人税率引き下げが米国都市のスコアアップにつながった。東京(29.7%)は35位とまだまだ法人税率が高い。トップ3都市ではロンドン(19%)が圧倒的に低く、アジア都市では香港(16.5%)やシンガポール(17.0%)が優位となっている。  出典:森記念財団都市戦略研究所
[図表3]法人税率の低さ 好調な米国経済に加えて、2018年1月からの法人税率引き下げが米国都市のスコアアップにつながった。東京(29.7%)は35位とまだまだ法人税率が高い。トップ3都市ではロンドン(19%)が圧倒的に低く、アジア都市では香港(16.5%)やシンガポール(17.0%)が優位となっている。
出典:森記念財団都市戦略研究所

 

ここで特筆すべきは、トランプ大統領の大幅減税政策により、連邦法人税率が35%から21%に引き下げられ、それによってニューヨークの法人税が34.0%、サンフランシスコの法人税が28.0%に引き下げられたこと。それが追い風になり、米国経済は好調を維持し、GPCIのスコアも大幅にアップしました。

 

東京も法人税率を29.7%まで引き下げていますが、他の国際都市に比べれば、まだまだ高止まりの状態。トップ3都市ではロンドンの19%が圧倒的に低く、アジアの各都市も北京、上海の25%、シンガポールの17%、香港の16.5%と、東京より軒並み低くなっています。法人税率の低さでいえば、東京は全44都市中35位。法人税率を少なくともロンドン並みに引き下げることができれば、今以上に外国企業の誘致が進むはずです。

 

以上のような、規制緩和法人税率引き下げが実現すれば、外国企業が東京に進出する際のハードルをぐっと下げることができます。しかし、それだけでは、企業誘致策としてはまだ不十分かもしれません。単に東京のマイナス面を払拭するだけでなく、プラス面をより世界にアピールしていく必要があります。

 

そこで必要になるのが、第四次産業革命への対応(IoT・AI・ビッグデータの活用)でしょう。18世紀のイギリスで、蒸気機関の発明から始まった産業革命を「第一次」とすれば、19世紀後半のアメリカで大量生産体制が確立したのが第二次産業革命、さらに20世紀後半、ICTの飛躍的発展により、全世界でアナログからデジタルへとシステム変更がなされたのが第三次産業革命といわれています。

 

こうした流れを受け、AI、IoT、ビッグデータを活用することで、21世紀以降、日々新たな産業やビジネスが生まれています。この第四の技術革新を「第四次産業革命」と呼び、国も東京都も「Society 5.0」の実現に向けて検討を始めています。

 

ちなみに日本政府は、「Society 5.0」をSociety 1.0(狩猟社会)、Society 2.0(農耕社会)、Society 3.0(工業社会)、Society 4.0(情報社会)に続く「超スマート社会」と位置づけており、産学官の連携で画期的な新技術が開発され、より豊かな社会のあり方を東京中心に発信していければ、東京の魅力はさらに高まるはずです。

 

それに関連して、もう一つ注目しておきたいのが、GPCIの「ワークプレイス充実度」という指標。従来型の職場環境を評価する「一人あたりオフィス面積」の数値に加え、2018年からは、新たな働き方のカタチである「コワーキングスペース数」で評価することにしました。なぜなら、2010年にニューヨークで誕生したコワーキングスペース・ビジネスの雄、WeWorkが世界中で事業を拡大しているからです。

 

コワーキングスペースは、広い意味でレンタルオフィスのカテゴリーに入りますが、起業家やフリーランサーなど見知らぬ者同士がデスクやオープンスペースを共有しながら働くという、今までにない働き方を提案しているところが新しい。利用者同士はゆるやかなつながりを持ち、そこに新たな交流、コミュニティ、ビジネスのアイディアが生まれる可能性を秘めています(詳しくは本書(『新・東京進化論』)第5章をお読みください)。

 

図表4はGPCI2018年の「ワークプレイス充実度」上位10都市を表したグラフ。これを見ると、新たな働き方がロンドンで早くも受け入れられつつあるのが分かります。WeWork発祥の地、ニューヨークでも同じ。そして東京でも、コワーキングスペースの活用が意外とスムーズにスタートしているのが見てとれるでしょう。テレワークも含め、わが国の「働き方改革」はまだ始まったばかりですが、この流れを見れば、一般に普及するのも意外と早いかもしれません。

 

※コワーキングスペース:月額/日額で契約できる職務空間。協働の場に限らない。カフェは除く。 出典:森記念財団都市戦略研究所
[図表4]ワークプレイス充実度 ※コワーキングスペース:月額/日額で契約できる職務空間。協働の場に限らない。カフェは除く。
出典:森記念財団都市戦略研究所

 

●研究・開発

 

GPCIの「研究・開発」分野で東京の弱点となっているのが、「世界トップ大学」と「スタートアップ環境」という二つの指標でした。これらを克服するには、大学の国際競争力強化と、スタートアップ環境整備・起業支援が課題になります。

 

「世界トップ大学」の指標は前述のとおり、イギリスの教育情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが発表している「世界大学ランキング」がベース。このランキングは英語圏に軸足を置いているようなところがあって、評価も多少バイアスがかかっているように思えます。

 

とはいえ、このランキングの順位を上げるのは比較的簡単です。なぜかといえば、評価基準が「査読数、教育&学生比率、教員一人当たりの論文被引用件数、外国人教員比率、外国人学生比率」などのように公表されているから。だとすれば、東京大学をはじめとする東京の大学で外国人の教員数と学生数を大幅に増やしていけば、ランキングは確実に上昇していきます。そして、最初は数合わせに近い発想ではあっても、実際に外国人の教員と学生が増えていけば、大学自体の国際性も高まり、学生たちにとってもプラスになるのではないでしょうか。

 

図表5は、最新のGPCIから「スタートアップ環境」の指標だけを抜き取ったグラフ。これを見ると、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、トロントといった北米都市や、ベルリン、ストックホルム、ロンドン、パリなどヨーロッパの都市の評価が高いのがわかります。アジア地域では、シンガポール(4位)、ソウル(9位)が上位に食い込んでいて、東京は北京に次ぐ18位。アジアのライバルにかなり遅れをとっているのが現状です。

 

東京(日本)の場合、新たに起業するには、業種によって都道府県、警察署、保健所、税務署、職業安定所などへの申請と許認可が必要になるなど、手続きが極めて煩雑です。しかも先ほど述べたとおり、法人税率が他のアジア諸国に比べて高く、これも新たに起業する際のハードルの高さになっています。

 

スタートアップ環境では、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストンといった北米都市や、ベルリン、ストックホルム、ロンドンといったヨーロッパ都市の評価が高かった。  アジア都市では、シンガポールが4位と高評価となっている。  東京は18位と遅れを取ってしまっているが、  ・インキュベーションオフィスに対するインセンティブの付与  ・小池都知事がベンチャー企業育成のため年間1000社の支援策を講じると表明  など、今後の伸びが期待される。  出典:森記念財団都市戦略研究所
[図表5]スタートアップ環境 スタートアップ環境では、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストンといった北米都市や、ベルリン、ストックホルム、ロンドンといったヨーロッパ都市の評価が高かった。
アジア都市では、シンガポールが4位と高評価となっている。
東京は18位と遅れを取ってしまっているが、
・インキュベーションオフィスに対するインセンティブの付与
・小池都知事がベンチャー企業育成のため年間1000社の支援策を講じると表明
など、今後の伸びが期待される。
出典:森記念財団都市戦略研究所

 

この指標でアジア1位のシンガポールは、シンガポール経済開発庁(EDB Singapore)という起業家・投資家サポートの専門機関を持ち、すべての手続きを1カ所で行えるワンストップサービスを基本にしています。しかも、法人税率はわずか17%。

 

今後、東京がシンガポールなどのアジア都市に対抗していくには、すでにJETROがその試みを始めてはいますが、起業の際の手続きを簡素化し、ワンストップ・ワンウィンドーで手続きが完結するようにするなど、大幅な制度改正が求められます。また、インキュベーション・オフィスを開設する企業に対して容積率アップのインセンティブを与えるなど、起業家支援にもっと独自の切り口があってもいい。東京都の小池知事は、「ベンチャー企業育成のため、年間1000社の支援策を講じる」とも明言しているので、期待しましょう。いずれにせよ、スタートアップ環境の整備については、今後も国レベル、都レベルでのアプローチが重要になります。

 

明治大学
帝京大学
一般社団法人 大都市政策研究機構
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構
一般財団法人 森記念財団 明治大学 名誉教授
帝京大学 特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構 理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構 理事長
一般財団法人 森記念財団 業務理事
一級建築士

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員の後、現職。現在、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向かう日本と東京のこれからについて語るために国内、海外で幅広く活動。また、東京都の競技施設の基本計画審会の委員も務めた。東京の研究をライフワークとして30年以上にわたり継続してきている。著書多数。テレビ出演多数

著者紹介

株式会社ボルテックス 取締役 CMO
100年企業戦略研究所 所長 

1960年東京都渋谷区生まれ。学習院大学卒業後、大手食品メーカーの経営企画、外資系保険会社での海外ビジネスを経て、2014年にボルテックス入社。マーケティング戦略の責任者(CMO)として国内外の企業、金融機関、コンサルティング会社とのパートナーシップ、チームコンサルティングを推進。「1社でも多くの100年企業を創出する」というボルテックスのミッションを推進し体現していくための社内シンクタンクとして2018年に設置された100年企業戦略研究所の所長を兼務する。趣味はクラシックの演奏と鑑賞。

著者紹介

連載データは語る…「東京」がさらに強い都市になる理由

新・東京進化論

新・東京進化論

市川 宏雄 天崎 日出雄

幻冬舎

オリンピックが終わっても、東京の景気は悪くならない! それどころか、少なくとも2030年まで、東京はこれまで以上に発展する! ビジネスマンの危機感を煽る記事が散見される近年。「オリンピック後の経済はダメになる」「…