
今回は、箱根の古い別荘を一棟貸切ゲストハウスにリノベーションした70歳のオーナーのインタビューを通じ、収益の実現だけでなく、ゲストハウス運営の楽しさやデュアルライフの充実を得られたケースを紹介します。
年を取って持て余し、売却を検討した別荘だったが…
今回も引き続き、ゲストハウス開業・運営に関する実際の声を、インタビュー形式でご紹介します。
お話をうかがったのは、箱根で一棟貸切ゲストハウスを運営しているBさんです。60歳で別荘を購入し、70歳からゲストハウス事業を運営していらっしゃいます。前回ご紹介した記事、『秩父「駅から車で20分・築100年の民家」がリノベで大変身?』の物件と同様、ゲストハウス開業の経緯から運営の実状まで、幅広くインタビューしました。
ゲストハウス
基本情報
●最大収容人数:8名
●延べ床面積:120㎡
●アクセス:箱根彫刻の森駅より徒歩10分
主な特長
★温泉やレジャーが豊富な箱根/強羅エリアの別荘を用途変更した一棟貸切旅館
★大人数の利用にも対応可能でのびのびと過ごせる
★不定期でゲスト向けの体験イベントを開催している
――ゲストハウスとして開業する前に、一度は別荘の売却を検討されたそうですが?
そうなんです。60歳のときに箱根に別荘を購入して10年が経ったころ、体力も衰えて通うのが億劫になっていました。維持費もばかにならないし、利用しないなら売ってしまおうかと検討していました。
――なぜすぐに売却しなかったのでしょうか?
正直なところ、せっかく購入した物件だから、頻繁に通わなくても一定の収益が見込める手段があるなら残しておきたい、という気持ちがありました。遊び盛りの小学生の孫がいて、この子にとってはよい遊び場になると思ったし、娘家族と交流できるのも楽しいですし。
――なるほど。それでゲストハウス事業投資に注目したのですね?
はい。ネットで調べていたら、いくつか情報が載っていました。そのなかで、別荘の旅館業許可の取得から運営までのセットアップを一括して請け負ってもらえる会社のうち、多数の実績がある会社に依頼しました。

維持管理の手間は軽微、施設の運営は奥様の生きがいに
――開業までは請け負ってもらっても、実際の運営はご自身でなさるのですよね?
そうなんです。ですが、常駐しているわけではなく、定期清掃も外注ですので、あまり手間はかかりません。
――ゲストハウスは貸し出すだけでなく、ご自身でも利用をなさるスタイルですか?
はい。夫婦で使うだけでなく、娘の家族と集まることもしょっちゅうです。地元の人たちと交流して、大人数でワイワイやることもありますよ。
――ご自身が別荘として利用する際、何か不便に感じることはありますか?
私たちが利用する週末の期間は予約できないようにブロックしておき、利用しない平日の間をゲストに貸し出していますので、不便はありません。また、私たち以外にも頻繁に人の出入りがあることで、別荘はむしろよい状態を保てています。
――運営にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
現在は、別荘管理費用の発生はありません。宿泊客がいたときに発生する清掃などの費用のみです。月にもよるのですが、自分たちが別荘を利用していない、平日の売上げが月平均で25万円ぐらいですので、コストを引くと、月およそ15万円程度の利益になります。固定資産税を賄えて、ちょっとしたお小遣いがもらえるといった感覚ですね。
――収益のほかに、ご自身の周りで変化はありましたか?
はい、じつは大きな変化がありました。僕と妻は結婚してだいぶ経つのですが、共通の趣味もなく、それほど仲のいい夫婦ではありませんでした。妻に別荘の購入や売却の相談をしても、どこか他人事な感じだったんです。
ところが、ゲストハウスを開業するにあたって、妻がかなり積極的になりました。ちょっとした小物や家具などのレイアウトにも真剣で、Airbnbのレビュー欄で「飾ってある絵や小物が可愛かった」といったコメントをいただくと、とても嬉しそうです。まるで旅館の女将のように生き生きと活躍する妻を見て、ゲストハウスをはじめてよかったなぁ、と思っています。
――奥様は、施設レイアウトのみに携わってらっしゃるのでしょうか?
いいえ。以前からそば打ちが趣味だった僕と一緒に、最近は妻もゲストハウス内で「そば打ち体験」を実施しています。Airbnbは宿泊だけでなく、「エクスペリエンス」カテゴリーから現地でできる体験を検索できる機能があるのですが、まだそちらには登録するほどではないため、ゲストの希望がある場合だけ不定期で行っています。いまではそば打ちが夫婦の共通の趣味になました。
大人も子どもも息抜きできる「田舎の家」
――今後の課題や、挑戦してみたいことはありますか?
私は、このゲストハウス運営を「新しい事業」と考えているんです。手間があまりかからないものの、工夫次第で成果が生まれ、実績も実感できる。ぜひこの事業を伸ばしていきたいですね。ここ最近検討しているのは、BBQ設備一式と、雨天時のタープテント、あとは出張で利用されるお客さんの会議用ホワイトボードなどの導入です。それから、レンタサイクル用の自転車も3台ほど購入する予定です。
――貴重なオーナーインタビューにご協力いただきありがとうございました。

今回は特別に、オーナーの娘さんにもコメントをいただいきました。
――お父様がゲストハウス事業投資をはじめられたことを、どうお考えですか?
定年退職後、あまり元気がなかった両親が、生き生きと事業について語っている姿を見て、嬉しく思います。私自身も、別荘に行くのが楽しみになりました。清掃もきれいで、子どもも「遊びに行きたい」とせがんできます。憧れの二拠点生活がこんな形で実現できるなんて、父と母に感謝ですね。私も夫も関東出身で、息抜きに帰る「田舎の家」のような場所がないんです。ですから、子どもにとってもそういう場所にできたらと考えています。
――お子さんにとって、のびのびできる場所ということですね。
はい。それに加えて、子どもの教育にもよいと感じています。うちの子どもは東京の保育園に通っているため、虫や草木に触れたり、四季を実感する機会がなかなか持てません。箱根の別荘に遊びに行くと、子どもは遊びを通じていろんな発見をしているようで、生き生きしています。自然と触れ合うという意味でも、いい情操教育になっていると感じます。別荘の近くにお住まいの皆さんにもとてもよくしていただき、私たち夫婦と子どもにとって、新しい田舎のコミュニティーに属するメリットや、学びがとても多いです。
<終わりに>
今回は、別荘をリノベーションによるゲストハウス事業を実現したオーナーに、インタビューさせていただきました。節税・収益化といった金銭的なメリットだけでなく、運営の楽しさ、家族との絆の再確認、地域との交流機会の増加といった、思いがけないさまざまな利点も得られたようです。
維持・管理に困っている別荘をお持ちの方は、売却を考える前に「ゲストハウス事業投資」という新たな選択について検討するのもいいかもしれません。
浅見清夏
ハウスバード株式会社 代表取締役
鈴木結人
マーケティングチームリーダー
竹内康浩
建築デザインチームマネージャー