親子間の意外な盲点…事業承継の成否を握る「対話」の重要性

事業承継の円滑化・成功には経営者と後継者の話し合いが非常に重要です。親族内承継であればきちんと行われていて、承継もうまくいくだろうと思われがちですが、実際は反対のケースが少なくありません。今回は、事業承継における「コミュニケーション」の役割と重要性について見ていきます。

親族内承継では、事業承継に向けた対話が圧倒的に不足

事業承継を巡っては、経営者(引き渡す側)にも後継者(引き継ぐ側)にもそれぞれ考えや思いがあるはずです。それが大きくすれ違うと、うまくいくはずの事業承継もうまくいかなくなってしまいます。

 

その点、親子間の事業承継であれば、お互いに理解し合っているため、うまくいくのではないかと思いがちですが、実際はむしろ逆のようです。親子間での事業承継をスムーズに進めるため、また承継後の企業経営が順調にいくように、コミュニケーションを円滑化することの重要性について考えてみます。

 

事業承継というと、経営者(引き渡す側)と後継者(引き継ぐ側)の間できちんと話し合いが行われているというイメージがあるかもしれません。親子間での事業承継であれば、なおさらそうでしょう。

 

しかし、実際にはその反対のケースが少なくないのです。下記図表1は、【親族内承継】【役員・従業員承継】【社外への承継】というパターン別に、後継者を決定し、事業を引き継ぐうえで苦労した点を示したものです。

 

(出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」82ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
[図表1]事業承継の形態別、後継者を決定し、事業を引き継ぐ上で苦労した点 (出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」82ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

 

【親族内承継】パターンでは、ほかのパターンに比べて、苦労した割合が少ない傾向があります。「特になし」という回答が最も多くなっています。

 

その一方で、「後継者と対話する機会を設けること」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」という点で苦労したという割合がほかのパターンとさほど変わらないという点が目を引きます。親族内といっても、そのほとんどは親子間でしょう。にもかかわらず、「後継者と対話する機会を設けること」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」がどうも十分にできていないようなのです。

 

さらに、次の図表は【親族内承継】パターンと【役員・従業員承継】パターンにおいて、積極的後継者候補(事業を継ぎたいと考えているがまだ合意は取れていない)と消極的後継者候補(前向きではないが事業を継ぐかもしれないと考えている)に分けて、事業承継に関する会話の頻度を調べたものです。

 

(出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」226ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
[図表2]後継者候補と現経営者の間での、事業承継に関する会話の頻度 (出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」226ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

 

これを見ると、積極的後継者候補(事業を継ぎたいと考えているがまだ合意は取れていない)のほうが消極的後継者候補(前向きではないが事業を継ぐかもしれないと考えている)よりも「あまりしていない」または「していない」と回答した割合は少ないのですが、それでも5割以上を占めています。

 

事業承継に関する会話を「あまりしていない」「していない」ことと、先ほどの「後継者と対話する機会を設けること」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」に苦労していることからも、後継者候補と現経営者の間でコミュニケーションが圧倒的に不足していることが分かります。

 

確認しないまま、“なんとなく”後継者がいない事態に

事業承継の問題に詳しい専門家の間では、「後継者不足とは後継者候補が“いない”のではなく、継ぐかどうかが“はっきりしていない”だけだ」という声もあります。

 

親子の間で、事業や会社を継ぐかどうか確認しないまま、ずるずると時間が経過し、そのうち“なんとなく”後継者がいないということになってしまっているケースがかなりあるでしょう。

 

なぜ、親子の間でありながら、事業承継についてのコミュニケーションがそんなに行われていないのでしょうか。しかし、よく考えてみると、「親子だからコミュニケーションを取って当たり前」という考え方自体、間違っているのかもしれません。直接会うことが少なくなるから会話をする機会も減ります。どの家庭でも、子どもが小さいころならばいざ知らず、大人になり、実家を離れてしまえば、年に会うのは2~3回。たまに帰省しても、たいして話は盛り上がらないということもあるでしょう。

 

また、親のほうとしては、面と向かって事業承継のことを切り出し、万が一「その気はない」と言われてしまうと、それまでです。どうしても気後れして、それとなく探りを入れようとしたりします。

 

さらにいえば、中小企業の事業承継では多くの場合、会社の負債を引き継ぐことになります。業績が芳しくなければ、会社の詳しい業績や財務内容を親のほうから切り出すことはまれでしょう。

 

それならば、子どものほうから事業承継の話を切り出せばいいかというと、これも難しいようです。なかには、積極的に親の事業や会社を継ぐことを早い段階で決意するケースもありますが、多くの場合は「親の意向によっては、ひょっとしたら継ぐかも」くらいの感覚ではないでしょうか。

 

実際、後継者として決まった人(引き継ぐ人)が現経営者から認められたきっかけについてのアンケート調査をみると、「現経営者に対し事業を継ぎたいと伝えた」というケースは1~2%しかありません。

 

(出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」225ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
[図表3]後継決定者が後継者として認められた契機 (出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」225ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

 

現経営者が創業者である場合、一番多いのは「分からない」です。引き継いだ場合であっても、“なんとなく”ということが多いのです。

 

なお、現経営者が3代目以降(後継決定者が4代目以降に就任する予定)になると、事業や会社も数十年以上続く老舗になってくるため、「子どものころから継ぐことが決まっていた」という割合が大幅に増えています。長く続く企業はそれだけ、後継者問題のリスクも下がってくるといえるようです。

 

日常会話を意識的に増やすことから始める

それでは、不足しがちな経営者の親子間でのコミュニケーションはどうやって改善したらいいのでしょうか。

 

大上段に振りかぶって「事業承継の話をしよう」などといっても、うまくいくわけがありません。ここは、当たり前のことを当たり前にやるしかないでしょう。

 

第一歩は、日常会話を意識的に増やすことです。データ上でも、日常生活に関する雑談の頻度と、事業承継に関する会話の頻度は正比例の関係にあります。

 

(出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」226ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
[図表4]後継者候補と現経営者の事業承継に関する会話・日常生活に関する雑談 (出所)中小企業庁「2019年版中小企業白書」226ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

 

日常生活に関する雑談の機会が少ないと、事業承継に関する会話もできていません。逆に、雑談の機会が多いと、事業承継に関する会話も進むのです。食事のとき、車で移動するとき、あるいは一緒にお酒を飲みながら、なんでもいいので雑談の時間を意識して作り出しましょう。

 

コミュニケーションを改善していくにあたっては、信頼できる第三者の力を借りるのもひとつの手です。具体的には、現経営者の親族、会社の役員や従業員、顧問の税理士や会計士などが適しているでしょう。

 

当事者の2人だけでは話が直截的になりやすく、感情的になってしまうこともあります。そこに双方が信頼している第三者が入れば、客観的な立場からのアドバイスをもらえ、スムーズにいく可能性が高まります。

 

また、特に顧問の税理士や会計士であれば、会社の財務諸表など数字についての詳しい説明を受けることができ、後継者候補と現経営者の間で将来に向けた、まさに経営戦略についての議論もしやすくなるでしょう。

 

創業の思いや経営理念を引き継ぐ方法は「対話」のみ

後継者候補と現経営者の間のコミュニケーションがはかれるようになったら、話題としてぜひ取り上げたいのが創業の思いや経営理念です。事業承継で引き渡す(引き継ぐ)ものとしては一般に、社員や取引先といった「人」、自社株式、事業用資産、債権や債務などの「資産」、技術・技能などの「知的資産」の3つがあるといわれます。

 

このうち「知的資産」のなかに含まれるのが、創業の思いや経営理念です。思いや理念には物質的な形があるわけではないので、コミュニケーションによってのみ引き継ぐことができます。

 

そもそも、事業承継のプロセスにおいて、現経営者は意識するしないにかかわらず、過去から現在までの歩みを振り返り、自分の経営に対する思い、価値観、信条を再確認することになるでしょう。

 

同時に、後継者はそうした現経営者の思い、価値観、心情を受け止め、自分なりに次の経営に生かしていかなければなりません。

 

100年、200年と続く老舗企業はほぼ例外なく、時代が変わっても受け継いできた思いや理念を大切にしているものです。老舗企業でなくても、事業承継を機会に、そうした思いや理念を後継者候補と現経営者の間で再確認し、明文化するといいでしょう。さらに、それを社員や取引先とも共有しておけば、経営の軸が安定していくはずです。

 

中国の古典『論語』には、「温故知新」という有名な言葉があります。「子曰(しいわ)く、故(ふる)きを温(たず)ね新しきを知れば、もって師となるべし」と記され、過去の出来事や前に学んだことを振り返り、新しい考え方や知識を見いだしていくことの大切さを説いたものとされます。

 

自社の思いや理念を承継することはまさに「温故」にあたり、そこから自社の新たな成長の道筋を求めていくことは「知新」にほかなりません。親子で創業の思いや経営理念について語り合えるということは、経営者ならではの醍醐味ともいえるでしょう。

 

<まとめ>

 

事業承継を円滑に進めるためには、当事者である後継者候補と現経営者のコミュニケーションが欠かせません。ほんのちょっとしたきっかけでコミュニケーションが深まり、そこからお互いのモチベーションも上がっていけば、事業や会社そのもののあり方も変わっていくでしょう。そういう意味で事業承継は、中小企業が成長していくための大きなチャンスなのかもしれません。

 

100年企業戦略研究所は、「“経営の新常識”を作り、日本の未来を切り拓く」という株式会社ボルテックスのミッションを推進し体現していくことを目的に2018年に設置された社内シンクタンク。日本に数多く存在する長寿企業の事業継続の秘訣を研究・分析し、100年続く企業づくりに寄与する優れた知慧や叡智を多くの企業経営者の方々に広くご提供することを使命としている。
https://100years-company.jp/

著者紹介

連載中小企業経営者におくる「100年企業」を目指すためのノウハウ

本連載は、株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が運営するウェブサイト「100年企業戦略ONLINE」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら