父の借金を子が相続放棄…返済のお鉢が回ってきた叔父の怒髪天

親が残した多額の借金を、ひとりっ子の立場である子どもが「相続放棄」した場合、相続関係に生じた変化によって、別の親族に返済義務が生じることがあります。今回は、司法書士が事例をもとに「相続放棄」の仕組みを解説します。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

「多額の借金」を残して亡くなった、自営業の父

「ギャンブル好きの父が、多額の借金を残して…」

「赤字会社の社長が突然…」

 

世間ではこのような話をよく耳にします。被相続人に負債がある場合、法定相続人は「相続を放棄する」という選択をすることで、被相続人の借金返済を免れることができます。しかし状況によっては、相続人が相続放棄することで、親族に思ってもみないトラブルが降りかかる可能性もあるのです。

 

ここでは事例をもとに、相続放棄の注意点について解説します。

 

*  *  *  *  *  *  *  *  *

 

ある日、会社員のAさんのもとに、救急病院から一本の電話が入りました。それは、Aさんの父が出先で倒れて救急搬送され、急逝したという知らせでした。

 

Aさんは就職して以降実家を出ており、父とはあまり交流していませんでした。父は高齢でしたが、長い間健康食品販売の自営業を営んでおり、食べるに困るようなことはない、子どもにお金の心配はかけないから大丈夫だ、と常々口にしていました。

 

ところがです。父の遺品を整理したところ、複数の金融会社から借入があることが判明しました。一社あたりの借入金は数十万円から数百万円で、合計すると、一般的なサラリーマンのAさんにはとても払い切れないものでした。父が暮らす狭いマンションは借家で、借金を相殺できる資産はなにもありません。

 

Aさんの母は数年前に亡くなっており、ほかにきょうだいもいません。この負債をひとりで相続したところで払えないため、Aさんは相続放棄を決意しました。

 

相続を放棄するためには、家庭裁判所での手続きが必要です。Aさんは専門家の手を借りることなく、書籍などを参考に必要な書類を集め、ひとりで手続きを進めました。

 

手続きはかなり煩瑣でしたが、なんとか無事に終わりました。

 

これで区切りがついたと安心していたある日、Aさんのところに電話がありました。

 

「はい、もしもし…?」

 

電話してきたのは、父方の叔父でした。

 

「おい、なんで兄さんの借金を俺たちが背負わなきゃならないんだ、説明しろ!」

 

「えっ?」

 

「だから、なんで俺たちが兄さんの借金を払わなきゃならないんだ!『Aが相続放棄したから』って、こっちに借金取りが回ってきてんだぞ!」

 

きちんと相続放棄の手続きをしたのになぜ? どうして父の借金は帳消しになっていないのか、そもそもなんで叔父さんたちのところへ? Aさんはあわてて近所の司法書士のもとに駆け込みました。

 

「自営業だった父が、かなりの借金を残したまま亡くなりました。父の借金のことは、なにも知りませんでした。このような状況では相続放棄しか選択肢を思いつかなくて、自分で手続きを行ったのですが、叔父から突然電話があって。借金の請求が、3人いる父方の叔父たちのところへ行ってしまったようなんです。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか? 私はちゃんと手続きしました」

 

Aさんが一気にまくしたてると、司法書士は落ち着いた声で説明を始めました。

 

「じつはAさんのようなケースは、相続において気をつけないといけないことのひとつなんです。ひとり息子が相続放棄をしてしまうと、相続関係に変化が起こってしまうからです」

 

 

子どもが相続放棄したら、親きょうだいが相続人に

亡くなった人のひとり息子(娘)が相続を放棄した場合、その息子(娘)ははじめから相続人ではなかったことなります。すると、相続人の両親は「子どもがいない夫婦」と同じ相続関係になります。その結果、亡くなった人の両親(子どもから見た祖父母)が存命だったら、その人が相続人となります。また、すでに両親がない場合で、きょうだい(子どもから見たおじおば)がいる場合は、その人が相続人になります。

 

① 亡くなった方に妻とひとり息子(娘)がいる場合

  (亡くなった方)父=母(相続人)

           |

           子(相続人)

 

②ひとり息子(娘)が相続放棄した場合

  (亡くなった方)父=母(相続人) 

           |

           子(相続放棄→はじめから相続人でないことになる)

 

ひとり息子(娘)が相続放棄した結果

亡くなった父の妻(相続放棄した息子・娘から見た母親)だけでなく、亡くなった父の尊属(祖父・祖母)やきょうだいが存命の場合、その方たちも相続人となります。

 

Aさんの場合はすでに母と祖父母が亡くなっているため、子どもであるAさんが相続放棄することで、相続関係に変化が生じ、叔父たちが相続人の立場になってしまったのです。

 

こうした場合、前もって親戚に連絡し、協力して相続放棄の手続きを行うべきでしょう。先順位で相続放棄をした人の手続きが終り次第、すべての相続人が順々に相続放棄をしていくことが必要です。

 

また、「相続分の放棄」と「相続放棄」について混同している方も少なくありません。そのような方々は、「亡くなった方の遺産を一切受け取らないという遺産分割協議書に実印で捺印したから、自分は一切相続と関係ない」とお考えになっているようですが、そこも注意が必要です。

 

「相続分の放棄」と「相続放棄」とのいちばんの違いは、「相続分の放棄」は相続分がなくても「相続人」であることには変わりがないため、借金などの負債から逃れることができない、という点です。

 

一切のリスクなく相続と無関係になりたければ、現在の日本の法制度上、家庭裁判所での「相続放棄」しか方法がないのです。

 

 

近藤 崇

司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

横浜市出身。横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。新宿区と横浜市に事務所を構える。取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

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