東京の不動産市場が曲がり角の様相を見せるなか、大阪の注目度が上がっている。2025年には「万博」という五輪に匹敵するイベント開催を控え、国内外の投資マネーが大阪に向かい始めている。本連載では、大阪ではまだまだ数が少ない投資不動産専門会社である、株式会社ゼストエステート専務取締役の菅氏に、大阪の不動産市場の現状と、投資対象としてのポテンシャルなどを伺った。今回は、国内外の投資家が大阪に注目する理由となっている、万博やIR誘致計画を中心に見ていく。

2025年「大阪万博」の経済効果は、推定2兆円

「東京オリンピックの開催決定は、日本全体の不動産業界に良い影響を及ぼしましたが、やはり局所的なバブルを迎えたのは東京で、大阪は過小評価されてきたという気がします。しかし、2018年に大阪が万博の開催地に選ばれたことで、状況が大きく変わりました」と語るのは、株式会社ゼストエステート専務取締役の菅氏。

 

各国の物産や技術を展示する意義を持つ万博の歴史は古く、日本の初参加は江戸時代にまで遡る。その後、初めて日本で開催されたのは1970年のこと。開催地には大阪が選ばれ、国内外から6,000万人を超える入場者を集めた。

 

また1990年には「国際花と緑の博覧会」が大阪で開催され、入場者は2,000万人を超えた。今回、大阪で開催が決定したのは「日本国際博覧会」で、その想定来場者は約2,800万人、想定経済波及効果は約2兆円と考えられている。

 

「東京ではオリンピック後に目立った国際イベントが予定されていないこともあり、今後、活況は大阪へシフトしていくと考えられています。何しろ開催まで、まだ5年以上の猶予がありますから、不動産への注目度もジリジリと高まっていくはず。国内の投資家にも、充分チャンスが残されています。またオリンピックの会期が2ヵ月程度なのに比べ、万博の会期は半年間に及びます。こうした特性が、より高い経済効果を大阪にもたらすとされています」

 

また万博の開催決定に伴い、大阪では大規模な再開発計画が進んでいる。会場となる夢洲(ゆめしま)に、一大集客拠点が構築されるのだ。

 

負の遺産が、国内外から観光客を呼ぶ「誘客装置」に

万博の開催決定に伴い、大阪では大規模な再開発計画も進んでいる。万博の会場となるのは、大阪市の西端にある「夢洲(ゆめしま)」だ。新都心開発の一環として1980年代に造成された人工島だが、その後、開発は進まず、広大な空き地が広がるだけで「負の遺産」と称されてきた。そんな夢洲に白羽の矢が立ち、急速かつ高度な再開発が進行している。

 

「現在、大阪市内から夢洲に向かうための交通手段はバスしかないのですが、新たに鉄道が延伸され『夢洲駅』が誕生する予定です。これにより、住民や観光客の流れに大きな変化が起こるでしょう。もちろん駅周辺には大型ホテルや商業施設が誕生します。大阪メトロはすでに、50階越えのタワービル建設を発表しており、2024年の開業を目指しています」

 

さらに夢洲には、万博の会期終了後にも大きな期待がかけられている。2016年のIR推進法成立を受け、現実的になってきた統合型リゾートの開業場所として、国内でも最有力の候補地となっているのだ。国際会議場などの施設はもちろん、劇場やスポーツ施設、そしてカジノが併設するIRが開業すれば、夢洲は大阪のみならず、国内でも屈指の観光スポットになる。国際イベント開催に伴う期間限定の好況ではなく、安定的な価値の付与が認められることとなるだろう。

 

「インバウンドの状況を見てみると、現在は関西国際空港から『ミナミ』と呼ばれる難波や心斎橋までで、観光客の流れが止まっています。『キタ』にある梅田は、東京でいうと新宿に匹敵する繁華街なのに、観光客の数がグッと減るのです。夢洲は『キタ』よりさらに先の『ニシ』に位置しています。万博やIR誘致に伴うこれからの再開発で、すべてを繋ぐ鉄道網が整えば、各エリアにビジネスチャンスが訪れるでしょう」

 

文化遺産が数多く存在する京都や奈良へ向かう拠点として、現在も観光客から人気の大阪だが、今後はさらなるインバウンド効果が期待できそうだ。

 

今はコンテナターミナルくらいしかない夢洲が、劇的な変化を遂げる
今はコンテナターミナルくらいしかない夢洲が、劇的な変化を遂げる

 

再開発、リニア新幹線…ビッグプロジェクトが目白押し

このほかにも、大阪には多くのプラス要因がある。その筆頭が、UR都市機構が民間企業と協働して推進している「うめきたプロジェクト」だ。梅田駅北側の再開発計画で、第1期はすでに完了しており、六本木ヒルズ同様の複合施設「グランフロント大阪」や、知的交流施設「ナレッジキャピタル」などが誕生し、市民生活に新たな価値を賦与している。

 

現在は第2期の開発が進行中で、難波エリア直通の「なにわ筋線」の開通に伴い、「北梅田駅」(仮称)が設置される予定だ。

 

株式会社ゼストエステート専務取締役 菅氏
株式会社ゼストエステート専務取締役 菅氏

「第2期の開発の完了は、万博開催前年の2024年と発表されています。今回の目玉は4万5,000㎡にも及ぶ広大な都市公園の造成で、敷地内にはホテルや商業施設も建設される予定です。また公園の周辺には民間宅地も整備されるので、地価上昇や人口流入が大いに期待できます。

 

また2045年には、東京~名古屋間で整備が進むリニア中央新幹線が大阪まで延伸される予定です。開業すれば、東京から大阪への移動は1時間程度に縮まります。不動産投資は、物件を買ったら終わり、ということではありません。特に1棟物件への投資の場合、その運用は長期に渡ります。10年後、20年後と、先々に大きな経済効果をもたらすビッグプロジェクトを控えた大阪は、不動産投資の観点でも大きなアドバンテージがあるといえるでしょう」

 

これまで国内では常に二番手に回ってきた大都市・大阪が、本来の力を十二分に発揮し始める日も、そう遠くない。現状の一歩先を行くべき投資家であれば、その可能性に注目せざるを得ないだろう。

 

次回は、大阪で優良物件を掴むコツについて、より具体的な話を伺うことにする。

 

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取材・文/西本不律 撮影(人物)/有本真大
※本インタビューは、2019年11月8日に収録したものです。