東京の不動産市場が曲がり角の様相を見せるなか、大阪の注目度が上がっている。2025年には「万博」という五輪に匹敵するイベント開催を控え、国内外の投資マネーが大阪に向かい始めている。本連載では、大阪ではまだまだ数が少ない投資不動産専門会社である株式会社ゼストエステート専務取締役の菅氏に、大阪の不動産市場の現状と、投資対象としてのポテンシャルなどを伺った。

好調な東京の不動産市場に広がる、五輪後の不安

「東京オリンピック開催決定の翌年、2014年ごろから、東京の不動産価格の上昇は本格化しました。たとえば20㎡のワンルームマンションでも『東京と大阪では価格が倍近く違う』といった状況になったのです。海外の投資筋による購入が多く、具体的には中国マネーの影響が大きかったのではないかと思われます」

 

株式会社ゼストエステート専務取締役の菅氏は、そう振り返る。

 

株式会社ゼストエステート専務取締役 菅氏
株式会社ゼストエステート専務取締役 菅氏

「ここ数年、東京には資金が集まりすぎているという印象です。現在は頭打ちの状態であり、東京オリンピック後は下降線をたどる可能性が高い。また多くの海外投資家が、オリンピック開催後に購入物件を売却する可能性も高まっています。価格が上がりすぎていたので、下がり幅も大きいのではないか、という不安が広がっています」

 

2013年の東京五輪開催決定とともに東京の不動産に投資した人は、2019年に保有期間が5年を超えて譲渡益が短期譲渡所得(所得税30%)から長期譲渡所得(所得税15%)に変わる。このタイミングで、物件を売却して利益を確定させようという投資家が増えるのは当然の見立てといえる。

 

東京と大阪の間には、家賃相場にも差がある。一般社団法人全国賃貸管理ビジネス協会が実施した2019年9月の調査によると、ワンルームマンションの家賃相場は東京が6万8,000円で、大阪が5万5,000円という結果だった。

 

ここで、基本的な(表面)利回りの算出法をおさらいしてみよう。

 

表面利回り=(年間の家賃収入÷物件価格)×100

 

つまり東京では、大阪より高い家賃収入が得られるものの、分母となる物件価格はそれを上回って高額になるため、利回りが著しく低下してしまうのだ。

 

「日本全体の不動産に関していうと、今後『価格が跳ね上がる』という期待は持てそうにありません。大きなキャピタルゲインを得られる可能性は極めて低い。特に下降線をたどり始めた東京では、その傾向が顕著です。これからの国内の不動産投資では、インカムゲインで堅実に利益を上げていくしかないのです」

 

インバウンド、オフィス需要……勢いを増す「大阪」

「たとえば一棟マンションを例に挙げると、東京と大阪では物件に大きな価格差があるため、利回りにも3〜4%の違いが出てきます。同じ投資をするなら当然、高利回り物件のほうが良いはず。理に適う大阪に、注目しない手はないのです」

 

東京オリンピック開催の余波は全国的に波及しており、もちろん大阪の不動産市場も好況が続いている。しかし、東京と決定的に異なるのは、大阪の場合、オリンピック以降も不動産価格が高水準で推移する可能性がある点だ。

 

ひとつの要素として、近年、大阪ではインバウンド需要が非常に高まっている。観光客数では東京のほうが多いが、大阪を訪れる外国人観光客は消費欲が非常に旺盛であり、勢いでは東京を凌駕するといわれている。

 

「大阪ではオフィス需要も好調ですね。大阪都心のオフィスビルの空室率は0%台で推移しており、オフィス不足が続いています。新たにオフィスビルができると、すぐに満室になることも珍しくありません」

 

大阪のなかでも特に訪日外国人でにぎわう難波
大阪のなかでも特に訪日外国人でにぎわう難波

 

東京と大阪、基準地価には倍近くの差がある

大阪は、日本を代表する大都市である。それにも関わらず、東京と大阪の不動産では大きな価格差がある。そのことは、基準地価を比較しても明らかだ。東京都心3区の基準地価は、中央区610万円、千代田区504万円、港区423万円、一方、大阪都心では中央区343万円、北区320万円、西区115万円となっており、倍近くの差がある(価格は2019年の基準地価/㎡、1万円未満省略)。

 

「そのような価格差が生まれる要因は、まずは人口の違いでしょうね。東京と大阪では、700万人以上の人口差があります。東京では住居を求めている人の数が多いため、利便性の高い物件は競争力があり、家賃も高く設定できます。

 

しかし東京はここ数年、首都として、またオリンピックの開催地として、国内外の投資家から過剰に評価されてきたと思います。大阪が安いというより、東京が高すぎたのです。大きな格差が生まれたのも事実ですが、オリンピック以降の伸びしろが大きいのは、むしろ大阪のほう。価格差に注目して大阪の物件に投資するなら、今はいいタイミングですね」

 

菅氏の言葉にもある通り、オリンピック以降の停滞が深刻と考えられる東京に比べ、大阪では近い将来、インパクトの強いイベントや再開発が数多く控えている。

 

そのひとつが2025年に大阪市で開催される『万国博覧会』である。国内では14年ぶりの開催で、その経済効果は2兆円にも上ると考えられている。東京での不動産投資に行き詰まりを感じている投資家は、将来有望な大阪へ目を向け、真剣に知識を深めておく必要があるかもしれない。

 

次回は大阪の持つ高いポテンシャルについて、より具体的な内容を紹介していく。

 

取材・文/西本不律 撮影(人物)/有本真大
※本インタビューは、2019年11月8日に収録したものです。

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