「ふくろ」がやぶれ失明の危機も…白内障手術のリスクとは?

本記事は、はんがい眼科・板谷正紀院長の著作、『「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術』より一部を抜粋して、白内障手術のリスクについて見ていきます。

水晶体を包んでいる「ふくろ」の構造とは?

[図表1]は眼球の構造を模式的に示したものです。眼球は全体が強膜と呼ばれる丈夫な膜で包まれています。この図から、その内部が水晶体を包んでいる「ふくろ」を境に前と後ろに分かれているのがおわかりになりますでしょうか?

 

[図表1]眼球は水晶体の「ふくろ」を境に前と後ろにわかれている
[図表1]眼球は水晶体の「ふくろ」を境に前と後ろにわかれている

 

眼球が、水晶体を包んでいる「ふくろ」を境に、前と後ろに分かれると説明した本に私も出合ったことはありません。しかしこれは日々患者さんの眼球に手術をおこなっている眼科医の実感からでてきた言葉です。

 

先に水晶体を包んでいる「ふくろ」がやぶれると、いっきに難度の高い手術になると書きました。その理由もこうした眼球の構造にあります。

 

水晶体より前の部分、この図でいえば虹彩や角膜などは、水晶体も含めて、網膜など後ろ側の部分にくらべてかなり丈夫にできています。ですからメスで切ったり超音波をあてたりといった手術にも耐えられるのです。それに対して網膜など後ろ側の部分は、脳と同じ非常に脆い神経の集合体です。その脆弱な部分が傷つかないように守っているのが硝子体です。

 

このまったく性質の異なる2つの部分を分けているのが水晶体なのです。もし白内障の手術中に、この「ふくろ」がやぶれてしまうと、どうなるでしょうか。

 

これは眼科医にとって手術中にもっともおこってほしくない状況です。「ふくろ」がやぶれると、まず、それまで水晶体によって押さえられておとなしかった硝子体が、硝子体の圧で前に飛び出してきます。そうなると硝子体の後部とくっついている網膜など脆弱な神経組織が引っ張られて、孔が開いて剝がれたり腫れたりします。

 

当然、眼底に障害が発生するリスクが高まります。網膜が剝がれるというのは、すなわち網膜剝離であり、失明の危機に瀕するたいへんなことなのです。網膜の中心が腫れるとゆがんで見えたり視力が落ちたりします。

 

[図表2]水晶体の「ふくろ」がやぶれると大事になる
[図表2]水晶体の「ふくろ」がやぶれると大事になる

 

また希には水晶体を包んでいる「ふくろ」に丸く孔をあけている(水晶体前囊切開)ときや超音波乳化吸引術を行っているときに「ふくろ」がやぶれ、最悪のケースでは水晶体の核が硝子体の中に落ちてしまうことがあります(水晶体核落下)。こうした手術中に発生する予期せぬ問題のことを術中合併症と呼びます。

 

こうなるといくら白内障手術の技術が高くても、白内障手術だけを専門にやっているクリニックでは手が出せません。途中で手術を中断し、患者さんを大学病院や、私たちはんがい眼科のように硝子体や網膜などを対象にした硝子体手術の専門家がいるクリニックに紹介する以外に方法がなくなります。ハッピーなはずの白内障手術が、失明の淵に立たされるのです。

 

私たちはんがい眼科には、こうした白内障手術の途中で「ふくろ」がやぶれ硝子体の手術になってしまった患者さんが頻繁に紹介されてきます。そのような患者さんもハッピーにするのが私たちの使命です。

「白内障手術」は安全な手術であるが…

このように白内障手術は、水晶体をつつんでいる「ふくろ」を温存できるかどうかにすべてがかかっています。我々は、いかに短時間の手術の中でパーフェクトに「ふくろ」を守る手術を行うかに人生のすべてを注いでいるのです。手術前日は、好きなお酒も飲まないのです。

 

白内障手術は、5~10分ほどで終了し、日本では年間100万人がうけている超メジャーで安全な手術と考えられていますが、それには「水晶体を包んでいる『ふくろ』がやぶれない限り」という留保がつきます。白内障手術は時間が短いから診療報酬を減らしてやろうという医療行政の風潮があるようですが、その短い時間に駆使する技術は眼科医の人生を懸けた凝縮した技術であることをお伝えします。

 

先にふれた術中合併症のほかにも、さまざまな原因から水晶体をつつんでいる「ふくろ」はやぶれることがあります。白内障以外に目の疾患がない場合はいいのですが、問題なのは、さまざまな理由で目のほかの部分にも問題がおきている場合です。

 

たとえば水晶体全体を眼球に固定しているチン小帯と呼ばれる部分が脆くなっていたり、一部が裂けていたりすることがあります。あるいは高齢の人に多いのですが、水晶体の核が固くなり、超音波で砕くのが難しくなることもあります。

 

こうしたリスクをかかえた白内障は「ふくろ」がやぶれ、難度の高い手術になる可能性があることから、私はハイリスク白内障と呼んでいます。白内障手術をおこなう際に、もっとも大切なことは、事前の検査でこうしたハイリスク白内障の兆候をいかにキャッチし、それに適した手術の方法を選び「ふくろ」の破損をいかに防いでいくかにあります。

入念な検査と慎重な手術をしても合併症はゼロではない

このように標準的な白内障手術であっても執刀医は、万が一を想定し、常に水晶体を包んでいる「ふくろ」に意識を集中して手術に臨んでいます。

 

「ふくろ」がやぶれるといった事態がおきなければ、10分以内ですむ手術ですが、そこには濃密な緊張感がみなぎっています。とくに「ふくろ」に丸い孔をあけ(水晶体前囊切開)、水晶体の核をくだいて吸い出す(超音波乳化吸引術)ときは、もっとも緊張が高まる瞬間です。

 

事前に入念な検査をしても、手術をはじめてみたらチン小帯のゆるみがみつかり、通常の力の入れ方では、うまく切開ができないようなこともあります。

 

「なんとかもちこたえてくれ」

 

そんなときは、これだけ症例を重ねてきた私でも、祈るような気持ちになることもあります。

 

しかし、これだけ入念な検査と慎重な手術をおこなっても、術中合併症はゼロにはならないのです。ですから問題は、どうしてもある確率でおきてしまう術中合併症にいかにうまく対処して術後の高い視力を守るかということになります。

「硝子体手術」に対応できるクリニックを選ぶべき理由

先にもふれた水晶体をつつんでいる「ふくろ」がやぶれ水晶体の核片が硝子体の中に落下してしまったようなケースには、どう対処すればいいのでしょうか。

 

[図表3]いちばんやっかいな水晶体落下
[図表3]いちばんやっかいな水晶体落下

 

この場合は、硝子体手術専用の機器と特殊な液体をつかって眼底に沈んだ水晶体の核を浮かせます。さらに浮いてきた核に超音波をあて砕いて吸引します。

 

こうなると、もう白内障手術ではなく硝子体手術になります。従って硝子体手術用の設備がかかせませんし硝子体手術の訓練をうけた医師がいなければ対処できません。

 

現在白内障手術をおこなっている眼科のクリニックで、この硝子体手術に対応できるところは多くはないのです。もし硝子体手術に対応できないクリニックで白内障手術をうけている途中に、たとえば水晶体の核が硝子体に落下したらどうなるでしょうか。症状にもよりますが、最悪の場合、硝子体手術のできる大学病院へ搬送されることになるでしょう。これでは10分で終わるはずだった白内障手術が、日帰りどころか入院を必要とする大手術になってしまいます。患者さんには大きな負担がかかります。

 

私たち、はんがい眼科は患者さんをこうした最悪のケースに陥らせないため、白内障だけでなく、硝子体や眼底疾患の手術に精通した医師とスタッフが常にこうした事態に対処できるように準備をしています。ですから万が一水晶体核の落下という事態がおきても、すぐさま硝子体手術に移行。硝子体の中に落ちた水晶体の核をとりのぞき、最適な方法で眼内レンズを装着し、完璧に白内障手術を完了させることができます。もちろん、たとえハイリスク白内障でも「ふくろ」を傷つけずに手術を全うするのがわれわれのプライドです。

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科院長が教える!ライフスタイルに合わせた「白内障手術」ガイド