手術中にメスが見えることはある?「白内障手術」の実際

本記事は、はんがい眼科・板谷正紀院長の著作、『「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術』より一部を抜粋して、白内障手術における、自分のライフスタイルに合わせた眼内レンズ選び方について見ていきます。

白内障手術は具体的に何をするのか?

白内障手術は日帰り手術と入院手術に分けられます。入院手術も、1、2泊入院の短期滞在手術になりました。白内障手術は、創口が2、3ミリと小さく術後の目の安定が早く、翌日から感染にさえ気をつければ普通に生活できます。このため、ご自宅で普段通りにお休みいただきながら手術を行える日帰り手術が増えています。入院期間も短くなっています。

 

点眼薬で麻酔

 

まずは点眼薬をつかって麻酔をおこないます。目薬をさすだけなので麻酔による痛みはまったくありません。いわゆる局所麻酔なので、意識ははっきりしています。耳も聞こえますし、しゃべることもできます。万が一、痛みがあったり気分が悪くなれば、声を出して訴えることもできるので安心です。

 

ただ後で述べるようなハイリスク白内障の目には、「テノン囊下麻酔」をおこないます。これはテノン囊と呼ばれる組織の下に麻酔液を注射しておこなう麻酔の方法です。テノン囊は、しろめ(結膜)の下にある組織のことです。テノン囊下麻酔は、持続時間が長いことと、目の表面だけでは無く目の中の虹彩などにも効果がありますので、手術時間が10分を越えそうな難症例や虹彩を器械で触れる必要性がある症例に有効です。注射というと痛くないのかと思われるでしょうが、点眼麻酔をしたうえで行いますので、痛みは心配いりません。

 

とはいえ標準的な白内障手術ではテノン囊下麻酔の出番はまずないので安心してください。

 

角膜切開・強角膜切開

 

白内障手術は歯医者さんのように電動式のリクライニング椅子に座った状態で受けます。手術はすべて顕微鏡をつかっておこないます。手術中に見えるのは目の前にある顕微鏡の光源だけです。よく手術用のメスや、そのほかの機器が自分の目を切るところが見えたという話がありますが、それはまったくの「都市伝説」です。実際には顕微鏡の光源の光がまぶしくて、それ以外のものはあまり見えません。歯医者での歯を削るような高音の恐い音もしません。歯を削っている間の飲み込めない水が口の中に溜まる息苦しさもありません。ご安心を。

 

手術はまず水晶体を砕いたり、吸引したり、眼内レンズを入れたりするための小さな切開を入れるところからはじまります。当院の場合は、2.4㎜と小さな切開です。方法は角膜切開と強角膜切開の2通りがあります。角膜切開は血管が無い角膜を切りますので、出血がほとんどありませんが、傷の治りは比較的遅くなります。強角膜切開は、血管が豊富な結膜を切りますので、角膜切開よりは出血しますが、それでも少量です。血管が豊富なゆえ、傷の治りは早いのが特徴です。結膜を切ると緑内障手術が効きにくくなるリスクが高まりますので、緑内障のある方には角膜切開を選んでいます。

 

切開の後、そこからゼリーのような粘りのあるヒアルロン酸ナトリウムを注入します。これによって水晶体と角膜の間に十分な空間ができ、その後の手術がうまくできるようになります。

 

手術の手順を説明すると、目が動いてしまったらどうしようと心配される患者さんがおられますが、まったく気にすることはありません。あまりギョロギョロ動かされてはこまりますが、ちょっと視線が動くのは人間の生理現象として当然ですから、リラックスして顕微鏡の光源の方を見ていていただければ大丈夫です。そもそも目は拍動などで常に微妙に動いていますから、手術をする医師も、それをサポートするAI機器も、眼球が動くことを想定していますから、安心してください。

 

水晶体をつつむ「ふくろ」を切開

 

ヒアルロン酸を注入すると、いよいよ白内障手術でもっとも大切な場面になります。専門用語で「水晶体前囊切開(CCC)」といいます。水晶体をつつんでいる「ふくろ」(水晶体囊)の前側(前囊)の部分を、直径5.5㎜ほどに、まるく切りとるのです。

 

角膜切開でつくった小さな孔(ポート)から、細い針を曲げた器具やピンセットのような器具を挿入して切り取っていきます。このCCCの切開口から次の水晶体の中身を吸い取る操作を行うのです。CCCが考え出されてから水晶体の「ふくろ」は破損しにくくなりました。眼内レンズも確実に「ふくろ」の中に入れることができますし、真ん中に固定しやすくなりました。CCCを確実に行うことが、安全な白内障手術の第1歩なのです。

 

このとき威力を発揮するのが後でも述べる白内障手術ガイドシステムです。この機器は事前の検査結果などをもとに、患者さん毎に異なる理想的な水晶体前囊切開の位置や大きさを手術用の顕微鏡の視野に投影し、正確に指示してくれるのです。

 

水晶体を細かく砕いて吸い出す

 

水晶体をつつんでいる「ふくろ」に丸く切開できたら、一段落です。つぎは、この切開口から超音波で水晶体核と呼ばれる「ふくろ」の中身を砕いてミルク状にし、外に吸い出す手術(超音波乳化吸引術)になります。

 

白内障手術は、多くの医師や研究者がさまざま知恵を出し合って現在の術式に進歩してきました。この超音波乳化吸引術と呼ばれる術式は、アメリカのケルマン先生が発明した超音波乳化吸引装置を基にして発展してきたものです。超音波を出して砕きながら、同時に砕いたものを吸い取っていく超音波プローブが活躍します。

 

この装置をつかって超音波で水晶体をくだく前に、チョッパーという金属製の細い器具を用いて水晶体をケーキを切るように4分の1程度に割っていきます。ケーキも大きな丸いままでは食べることは困難で、小さく切って食べるのと同じです。超音波プローブは、細分化された水晶体を吸い付け、その上で超音波をあてると水晶体の核は細かく乳化して吸引できるようになります。

 

超音波乳化吸引術の間は気が抜けません。超音波プローブが発する超音波は破壊力があり、吸引する力も強いのです。それに対して、水晶体の「ふくろ」は0.01~0.04㎜と非常に薄い膜ですので簡単に超音波プローブに吸い込まれて破れるのです。これを破囊といいます。

 

ここでもし「ふくろ」が傷ついたり、やぶれたりすると、もう標準的な白内障手術ではなくなり、いっきに難度の高い手術になってしまいます。

 

慣れた術者は、水晶体の中身だけに超音波を当てて吸引し、「ふくろ」には近寄らないようにして行うことに長けていますので、ほとんど破れることはありません。それでも戦闘機の空中戦のように瞬間瞬間の動体視力と反射神経で行っている部分もあり、破囊はゼロにはなりません。特に、水晶体の「ふくろ」や水晶体周囲の構造に問題を持つハイリスク白内障は「ふくろ」が破れるリスクが高まります。それでもわれわれは、愛を込めて水晶体のふくろを守る手術を行います。

 

残した「ふくろ」に眼内レンズを入れる

 

ここまでの過程で「ふくろ」に異常がなければひと安心です。

 

こんどは「ふくろ」に空けた丸い切開口から、再びゼリーのような粘りのあるヒアルロン酸ナトリウムを注入し、いったん「ふくろ」をふくらませ眼内レンズを入れる準備をします。つぎはいよいよ眼内レンズの挿入です。眼内レンズを半透明な筒のようなものに入れて先のすぼまった先端に押し出すと眼内レンズは丸く折りたたまれていきます。この細い先端を最初に作った切開口から挿入します。

 

「ふくろ」の中に挿入された眼内レンズは、ゆっくりとひろがり、固定用の足(ループ)が「ふくろ」の中にレンズを固定してくれます。ここまでにかかる時間は5分から長くて10分ぐらいです。ただし、時間が短いから簡単な手術というわけではないのです。術者は全身全霊で自分の技術と経験を10分という短い時間に込めて行なっているのです。

 

レンズの位置を確認し「ふくろ」の内部を清掃

 

最後にレンズの挿入位置を確認したら、注入したヒアルロン酸ナトリウムを吸引によって取り除き、眼内レンズの後ろと前をきれいにします。この作業は手術後の眼内炎や高眼圧といった合併症の確率を少しでも減らすために入念におこないます。

 

[図表1]標準的な白内障手術の手順

手術ガイドシステムによって、高い精度の手術が可能に

ここまでの説明でおわかりいただけたように、白内障手術は眼科医がすべて手で行う手術であり、時間は短いですが高い正確性と確実性を必要とする技術の凝縮された手術なのです。当然、経験と腕が必要です。しかし、最近では手術の進歩に伴って、眼鏡をかけて見えたら良しとする時代から、より患者さんのさまざまな希望に合った見え方を追求する「オーダーメイドな白内障手術の時代」となってきました。

 

具体的には、乱視を矯正する白内障手術や多焦点眼内レンズを用いた白内障手術になりますが、このような最新の手術は高い精度が必要になります。このような場合の最新白内障手術の精度を高める目的で、白内障手術ガイドシステムが開発されました。

 

例えば、乱視矯正用眼内レンズを挿入する場合に一つ問題がありました。眼内レンズの乱視軸を外来で検査して決めた位置に正確に固定することが必要です。ところが、座位での目の位置と仰向けでの目の位置はずれるという問題がありました。目の持つ回旋という働きのためです。このため、常に正確に乱視軸を固定することが容易ではなかったのです。

 

白内障手術ガイドシステムは、まず外来で白目の血管のパターンを記憶します。そして、手術当日の直前に白目の血管パターンを目印に正確に固定すべき乱視軸の位置を指し示してくれるのです。人の手でできないことは機器やコンピューターに任せることも大事なのです。でも心配ご無用。白内障手術ガイドシステムを使ったからといって手術の費用が増えるわけではないのです。もうからないのに白内障手術ガイドシステムを用いるのは、すべては患者さんの笑顔を見たいからです。

 

次に多焦点眼内レンズ。多焦点レンズの機能を最大限生かすために、レンズをできるだけ真ん中に入れたいですし、CCCも多焦点レンズの刻みにかからないようにしたいですね。何しろ今の日本では高いレンズですから。白内障手術ガイドシステムは、理想的なCCCの大きさである5.5㎜(入れる眼内レンズの直径で多少変わりますが)の円を光学的ど真ん中に投影します。我々は、投影された円に沿って丁寧にCCCをしていけば良いのです。

 

今後さらにAI機能を持つオーダーメイドの白内障手術ガイドシステムが進歩していくに違いありません。

はんがい眼科 院長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科院長が教える!ライフスタイルに合わせた「白内障手術」ガイド

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

白内障を治せば人生が変わる!ずっと忘れていた「見える喜び」を取り戻せば、人生は、もっともっと楽しくなる。

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