「夫の稼ぎが多いなら、家事は妻が負担すべき」は正しいか?

夫婦の就労状況を比較した際、妻の時給が低ければ、妻が家事を負担したほうが家計全体のメリットは大きいのでしょうか? 経済学では、別の選択肢を選んでいたら得られたであろう利益を「機会費用」と呼び、常にこれを念頭に置くことが重要だと考えます。ここでは、複数の切り口から「機会費用」の考え方を解説します。なお、本稿はあくまでも機会費用について考察するものであり、男女平等や夫婦のあり方について論じるものではありません。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第41回目です。

学園祭の焼き鳥販売より、焼き鳥屋のバイトのほうが…

学生のサークル10人が学園祭で焼き鳥を売り、3万円儲かったとします。1人あたり3000円の儲けですから、帰りに焼き鳥屋で一杯飲んで帰ることができ、青春の楽しい思い出となったことでしょう。よかったですね。

 

もっとも、金銭のことだけを考えるならば、学園祭で焼き鳥を売ったのは失敗でしたね。最初から全員で焼き鳥屋でアルバイトをしていれば、何倍も稼げたはずですから。

 

このように、少額の利益が稼げていても、ほかの選択肢のほうがさらに大きな利益を稼げるのであれば、その選択は誤りといえるわけです。もちろん、学園祭の焼き鳥売りは楽しいですから、金銭面だけで失敗と判断する必要はまったくありませんが。

 

夫婦2人で店番をして毎月20万円を稼いでいる零細商店があったとします。店を畳んで2人でアルバイトをすれば、20万円以上稼げるでしょうから、店を続けていることは正しい選択とはいえないでしょう。育児や介護をしながら店番をしているので働きに出ることができない、といった事情があれば別ですが、そうでなければ店を畳んで働きに出ましょう。

 

社内のエリートを集めた戦略部門が小幅の黒字を稼いでいるとき、社長は「エリートを集めているのだから、頑張ってもっと稼げ」と叱咤激励するのではなく、当該部署を解散してエリートたちを別の部署で活躍させる、という選択肢を考えてみましょう。そのほうがはるかに会社全体の利益は増えるかもしれませんよ。

 

このように、小幅の利益を稼いでいるが故に不適切な意思決定が温存されてしまうことが多いので、注意が必要です。最初から赤字なら、だれでも別の選択肢に気がつくのでしょうが。

部長がタクシー、ヒラ社員がバスで客回りをする理由

営業職員が客回りをするとき、部長はタクシー、ヒラ社員はバスを使うことが多いと思いますが、なぜでしょうか。「部長が偉いのだから当然だ」という社内政治のことは忘れて、機会費用の面から考えてみましょう。

 

「部長のほうが1時間あたりの給料が高いのだから、部長がバスで移動している時間の給料を考えたら、タクシーを使ってもらって少しでも客先で仕事をしてほしい」と考えた読者がいるとすれば、立派です。バスを使うことの機会費用として「部長がバスを待っている間に稼げたであろう利益」を得られなかったことを考慮しているからです。

 

ここからは余談です。欧米ならば、これで終わりでしょうが、日本企業の場合はひとつ考慮すべきことがあります。部長が給料が高いのは年功序列だからであって、ヒラより仕事ができるとは限らない、ということです。

 

「無能だが年齢が上だから部長職に就いている人」ならば、客先へ行っても契約がとれないでしょうから、ゆっくりバスを待ってもらいましょう。有能だけれども若いが故にヒラだ、という社員には、タクシーで客先に急行してもらって多数の商談をまとめてもらいましょう。

 

もちろん、余談部分は経済学者の意見であって、社内政治を考慮しておりませんので、実行に移す前に慎重に検討していただく必要はありますが(笑)。

 

有能な上司が抱える「無能な部下」だって役に立つ

有能な上司と無能な部下が、それぞれ営業の仕事と事務の仕事を1日4時間ずつ行っているとします。有能な上司は4時間の営業で10万円稼ぎ、4時間の事務で1万円稼ぎます。無能な部下は4時間の営業で5000円を稼ぎ、4時間の事務で5000円を稼ぎます。上司は11万円、部下は1万円稼ぎますから、二人合計で12万円です。

 

部下の日給が2万円だとすると、部下は給料分も稼いでいないことになります。そんなとき、有能な上司は「君のような無能な部下はクビだ」というべきでしょうか? そうではありませんね。

 

「私にとって4時間の事務は2万円の収入をもたらすが、この4時間を営業に使えば10万円稼げるのだから、4時間の事務を行っていることの機会費用は10万円だ。それならば、事務をやらずに8時間営業だけをやればいい。無能な部下に8時間事務をやらせればいいのだ」

 

ということになりますね。

 

その結果、上司は8時間の営業で20万円稼ぎ、部下は8時間の事務で1万円を稼ぎます。二人の合計の稼ぎは21万円に増えます。上司は部下よりも事務が得意ですが、上司にとって事務は機会費用が高いので、それを部下にやらせるほうがトータルの利益は増えるのですね。部下に日給2万円を払っても、雇っておく価値があるわけです。

夫が妻より時給が高いなら、家事は妻がやるべきか?

最後は、夫婦の家事分担についてです。これについては男女平等など、さまざまな論点がありますが、本稿では機会費用の論点に絞って議論をします。

 

夫は正社員で、パートの妻より時給が高いとします。すると、「夫が家事を分担することは機会費用が大きいので、妻が家事を分担すべきだ」という夫の主張にも一理ありそうですね。

 

問題は、夫が家事を免除された時間、残業して高い時給が稼げるのか否かですね。これは見落としがちな点であって、機会費用を考える際には「ほかの選択肢を選ぼうとした場合に、稼げる仕事があるのか否か」を考える必要があるわけです。

 

会社が残業をさせないホワイト企業だったり、残業しても残業代を払わないブラック企業だったりすれば、残業代は稼げませんから、家事の機会費用はゼロですね。それなら夫が家事を分担して妻がパートで長く働いたほうがよさそうです。

 

それでも夫には手があります。「正社員の僕は、英会話を勉強すると将来の給料が大幅に上がると思われる。つまり、家事を分担することで英会話を諦めることの機会費用は大きいのだ」と主張すればいいわけです。

 

これなら妻も黙るでしょう。しかし、リスクの存在を忘れてはなりません。英会話の勉強をサボった途端、大量の家事の負担とともに、家族からの軽蔑の眼差しが降ってくることになりかねないからです(笑)。そんなことなら、はじめから素直に家事を分担しておいたほうがいいかもしれませんよ。

 

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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