もし世界に酒造会社が1社だったら、酒の価格はどうなるか?

ものの値段は、需要と供給よって決定されます。その際、売り手の間の価格競争も重要な役割を果たすわけです。では、ライバルがいない独占企業の場合、価格設定はどこまで自由に行えるのでしょうか? 本記事では、独占企業による価格設定の考え方について見ていきましょう。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第40回目です。

酒の値段は「需要と供給」の一致するところに決まる

世のなかには「高くても酒を飲みたい」という人もいれば「高ければ飲まないが、安ければ飲みたい」という人もいます。そこで、値段が高くなるほど酒を買う人は減ります。これをグラフにしたものを「需要曲線」と呼びます。

 

一方で、酒を作る会社も「安くしか売れないなら作らないが、高ければ作って売りたい」という会社と「安くても作って売りたい」という会社がありますから、値段が高くなるほど売られる酒の量は増えます。これをグラフにしたものを「供給曲線」と呼びます。

 

政府が酒の値段を決めている国もあるかもしれませんが、そうでなければ「売りたい人」と「買いたい人」の注文量が一致するところで値段が決まることになります。これを「均衡価格」と呼びます。

 

その場合、酒の売り手の間で競争が起きています。他社より1円でも高い値段で売ろうとすると、客を奪われてしまうので、他社と同じ値段(均衡価格)で売らざるを得ないのです。

 

値上げ後の売上とコストを比較して値段を決める

しかし、世界中に酒を作る会社が1社しかないとしましょう。その会社は、好きな値段をつけることができます。ライバルがいないのですから、競争は存在せず、値上げをしても客を奪われる心配はありません。

 

そこで、需要曲線を分析します。「少し値上げをしたら需要が大きく減る」のであれば、値上げを思いとどまりますが、「値上げをしても需要が少ししか減らない」のであれば、値上げをするでしょう。

 

では、「10円を11円に値上げしたら、需要が10から9に減る」という場合、どうするでしょうか。それを考える際には、材料費等のコストを知る必要があります。コストがゼロなのであれば、売上が100円から99円に減ってしまうので、値上げはしないでしょう。

 

しかし、コストが8円だとしたら、値上げをした方が利益が増えます。10円で売れば100円からコストの80円を引いた20円が利益となりますが、11円で売れば99円からコストの72円を引いた27円が利益になるからです。

 

「10円値上げするたびに売上が1個減る」とすると、会社の利益は下記の図表のようになります。利益がいちばん大きくなるのは14円のときなので、独占企業は14円に値段を決めるはずです。

 

10円値上げするたびに売上が1個減る場合の会社の利益。利益がいちばん大きくなるのは14円のとき。
[図表]会社の利益の分析表 10円値上げするたびに売上が1個減る場合。利益がいちばん大きくなるのは14円のとき。

 

値段を上げていくと、売上高は減っていきますが、コストも減るので、売上高の減少幅がコストの減少幅(8円)より小さい間は値上げをし、コストの減少幅より大きくなったら値上げをやめる、というわけですね。

独占企業は大企業とは限らない

独占企業というと巨大企業を連想しますが、そうとは限りません。たとえば特殊なネジの特許を持っていて、世界中でそのネジを作っている会社が一社しかなければ、それは立派な独占企業です。

 

さらにいえば、山小屋も独占企業です。山の上にジュースを売っている店が1件しかなければ、山に登って喉が渇いている客は多少高くても買うでしょうから、山小屋のジュースの値段は都会の店よりもかなり高くなっているはずです。

 

一方で、世界シェア100%だとしても、値上げができるとは限りません。たとえば焼酎の世界シェアが100%だとしても、チョット値上げしたら客が日本酒に流れてしまうかもしれません。

 

日本酒を含めた日本国内の酒類生産シェアが100%だとしても、値上げできるとは限りません。輸入酒に客が逃げてしまうかもしれないからです。

 

世界中の酒類の生産シェアが100%だとしても、チョッと値上げをしたら酒離れが進んで売上が激減するかもしれません。飲むより食べる方に客が流れてしまうかもしれないからです。

 

ライバルは酒類メーカーだけではなく、食品メーカー等々もライバルとなりうるので、「ライバルが存在しない完全な独占」というのは、なかなかないのかもしれませんね。

寡占でカルテルを結べば同じことだが…

2社(あるいは数社)で市場シェア100%の場合、寡占と呼びます。この場合、全社が協定を結んで値上げすれば、独占企業の得られる利益と同様の利益を得ることができるので、それを山分けする、という戦略が成り立ちます。カルテルと呼ばれるものです。

 

もっとも、各社にとっては「他社が高い値段で売っているときに自分だけチョッと安い値段で売れば大儲けできる」という状態なので、協定を破るインセンティブが大きいのです。そこで、カルテルがうまくいくことは容易ではないようです。これについては、別の機会に。

 

なお、国内では独占禁止法があるので、独占企業やカルテルで価格を吊り上げることは容易ではありませんが、公取に怒られない範囲内で価格を上げたい、と考える企業は多いでしょうから、独占企業のいる業界と完全競争の業界をくらべれば、なんらかの違いはあるはずです。

 

また、国際的な貿易には日本の独占禁止法が適用されないので、たとえば産油国が相談して協定により原油価格を吊り上げる、といったことは起きうるわけです。

 

今回は、以上です。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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