「素人の株式投資」が陥りやすい10の難点

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2010年12月17日に公開、2019年10月8日に加筆の上再掲載されたものです。

 

素人の難点6:値下がりした銘柄を今後も「ダメな銘柄」だと思う

素人の難点7:値上がりした銘柄を今後も「いい銘柄」だと思う

 

注目した銘柄が、値上がりすると好きになり、値下がりすると嫌いになりやすい傾向は、おそらく大多数の人間に共通のものだろう。そして好き嫌いが評価に影響するのも人の常だ。特に、独善的な素人は「自分の好き嫌い」と投資銘柄の先行きに関係があるように「感じる」せいか、「(直近の過去)値上がりしている」=「(今後も)値動きが好ましい」と判断しやすい(この逆も、然り)。

 

しかし、例えば、値下がりした銘柄の業績見通しや投資環境に何ら悪材料がない場合、投資判断としては、「同じ業績見通しに対して、以前よりも株価が下がっているのだから、以前よりも一層魅力的になった」と考えるのが、投資の基本的としては正しい。他の条件を一定とすれば、「価格が安い(高い)」=「期待リターンが高い(低い)」と考えるのが大原則だ。

 

プロの場合、多少はひねているので、この程度の原則は理解しているような口を利くことが多いが、それでも、値上がりに遅れて買う、あるいは、大きく値下がりしてから売るといった行動を取ることがある。

 

それは、ライバルに遅れないために買うとか、値下がりした銘柄を持っていると顧客に対して格好が悪いから売る、といった、ビジネス上の要因によるものだ。「ビジネス上の」というと高級に聞こえるかもしれないが、要は他人に影響されて別の他人(顧客!)の資産を明らかに客観的な投資判断以外の要因で売り買いするのだから、これは、投資行動としては、素人の場合よりもたちが悪いと言えるかもしれない。

 

素人の難点8:過去の株価の動きが将来の株価に影響すると思っている

 

素人の難点6も7も、そもそも過去の株価の動きが、将来の株価の動き(より正確には「投資収益率」)に影響すると思っていることが原因だと言える。しかし、過去の値動きのパターンで将来のリターンは有効に予測できないと考えるのが、運用業界、あるいはファイナンス研究の常識だ。

 

だが、素人投資家の中には、過去の値動きこそが主要な投資判断の要素だと思っている投資家が少なからず混じっている。例えば、チャート分析だけで投資している投資家がいないわけではない。

 

これには、チャート分析は誰にでも手軽にできるので、未経験者を投資の世界に引きずり込むにはチャートを教えるのがてっとり早いと考える証券業界側のたくらみが影響しているかもしれない。この傾向は、固定手数料で株式売買による収入が証券会社にとってもっと大きかった昔の方がもっと顕著だったように思う。

 

本当は、「チャートでタイミングが判断できる」などといった嘘を教えずに、「チャート分析なんて、やってもムダだから、ハマらない方がいいよ」と教えてあげるのが役に立つ親切というものだ。

 

「値動き」も場合によっては情報の一部であり、判断すべき要素に入ることはあるが、その多くは、業績予想の変化などと併せて判断すべきものだ。過去の値動きのパターンだけが有効な材料になることは稀だ。

 

年金運用などのプロの世界では、テクニカル分析はまともな投資分析として相手にされないことがほとんどだが、それでも、密かにチャート分析を愛用するファンドマネジャーもいるにはいる。これは、プロといっても、結局、十分な判断材料を持たずに売り買いすることが多いことの表れだ。

 

また、証券会社には「テクニカル・アナリスト」を名乗る「専門家」がいることもある。これは、もっぱら素人顧客に対応するためだが、雑誌にしばしば占いのページがあるようなものだと思えばいいだろう。

 

素人の難点9:自分が投資した期間ばかり見ている

素人の難点10:自分の買値を基準に投資判断する

 

ところで、値動きの良し悪し、過去の株価の推移を見るとしても、どの期間の株価を、何を基準に見るかによって、評価は大いに異なる。

 

そして、投資向きでない素人投資家の場合、自分の保有銘柄に関して、主に自分がその株を買ってからの期間ばかりを見ていることと、株価の良し悪しを自分の買値を基準に判断することに特色がある。冒頭の質問のような行動をする投資家は、このように考える投資家である公算が極めて大きいように思える。

 

前者に関しては、ある銘柄に関して、業績の推移や、情報の変化に対する株価の反応などを評価するには、自分が買ってからの期間ではなく、もう少し長い期間を見る必要がある場合が多い。また、場合によっては、類似の情報に対する反応のデータを見るために、その株を保有している期間をまったく含まない時期の動きを見る必要がある。

 

後者に関しては、プロも含めて、どんな投資家も多少の拘(こだわ)りを持つことがあるが、これが強い投資家は、自分で自分の行動を制約してしまう。時には、「まだ買値まで戻らないから、売れない」などと、投資の意思決定が株価に隷属するような心理状態に転落することもあり、こうなると重症だ。

 

しかし、自分の買値は、将来の株価の動きにとって何ら関係ない材料であることがほとんどだろう。自分の買値に投資判断が影響されるということは、過剰な自意識の表出を我慢できずにいる、かなり「恥ずかしい」行為だといえる。

 

もっとも、「買値へのこだわり」は、ダニエル・カーネマンらが「プロスペクト理論」で定式化した内容(の一部)にピタリと当てはまる(「価値関数」を考える際に、「参照点」=「自分の買値」とすればいい)。したがって、これの心理は、特に投資が下手な素人だけでなく、投資家全般の克服すべき性癖として、なかば先天的に存在しているとしても不思議はない。

 

オリジナルの質問との関わりで言うと、今回取り上げた10の難点の中には、投資家の心理状態を推測した幾分こじつけ気味のものもあるが、「難点」自体は、かなり一般的なものだ。素人投資家だけでなく、プロ投資家もなかなかこれらを完全には克服できない。

 

資産運用全般にいえることだが、自分の「感情」を客観視することと、「ポートフォリオ」はどう扱ったら合理的なのかに絶えず注意することが必要だ。素人の直感はしばしば間違いのもとだ。プロの感情も時に正しくない。

 

【追記】

 

株式ポートフォリオの原則について述べている記事。「素人投資家」を例に挙げながら、実は世の中に少なくない基本を分かっていないプロを意識して書いた(少し意地悪な)原稿であることを、後から読んで思い出した。「厳選した○○銘柄で運用する」などと無用に力んで銘柄数を自ら制限するアクティブ・マネジャーや、そのような運用に感心する素朴な信者が、からかいの対象だ。

 

近年、個人投資家に資産形成の目的で個別株投資をしてほしいと思う一方で、個人が安価に利用できるポートフォリオのリスクを管理するツールがないので、相対比較上インデックス・ファンドを勧める以外に適切なアドバイスがない、というジレンマに悩んでいる。個別銘柄投資を「自分で行う」ことは、良い趣味で面白い(アクティブファンドを選ぶよりもはるかに!)と思うので、ツールの提供方法を考えるなり、ポートフォリオを作る簡便法を開発するなり、何とかしたいと考えている。(2019年10月1日山崎元)

 

 

山崎 元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2010年12月17日に公開、2019年10月8日に加筆の上再掲載されたものです。

 

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