東京商工リサーチによると、中小企業の倒産件数は年間約8000社にも及びます。人口減少や働き方改革などをはじめ、様々な社会変化の影響をうけるなか、中小企業が生き残るためには、冷静に問題点を分析することが求められます。経営コンサルタントの鈴木衛氏が解説します。

たった一発の「貸し倒れ」が倒産を招く

経営に行き詰まる二つ目の理由は、資金である。お金関連の問題は売上不振や債務超過など様々なものがあるが、その中でも私が重要だと思うのは貸し倒れだ。私も残念ながら年間数件の倒産の処理をするが、それらの会社の半数が貸し倒れによる連鎖倒産に該当する。

 

貸し倒れは、売掛金が回収不能になることによって発生するが、売掛金による取引を行っている中小企業は6人以上の会社の約98%である。この比率は、大手企業と中小企業でほとんど変わらない。しかし、売掛金が貸し倒れになった時の影響は天と地ほど変わる。

 

大手企業であれば、多少の貸し倒れが発生したとしても体力があるため吸収できる。しかし、資本力が弱い中小企業にとっては死活問題になる。目先の運転資金に回そうと思っていたお金が貸し倒れになることで、一発で倒産まで追いやられることがある。

 

実際、私が顧問をしている会社がそうだった。その会社は売上規模が5億円で、4500万円の貸し倒れが発生した。4500万円の貸し倒れは、売上が4500万円なくなるということではない。4500万円の利益を失うということだ。大企業ならともかく、中小企業の多くはこの規模のダメージに耐えられない。

 

また、貸し倒れによって現金が入金されない一方、仕入れ代金は支払わなければならない。この会社の場合は4000万円だった。年間売上5億円、粗利益5000万円のうち4500万円が、貸し倒れにより一瞬で消し飛び、この年4000万円の赤字を計上した。これまでの業績からすると回収するのに8年かかる計算になる。この会社も、たった一発の貸し倒れによりキャッシュが回らなくなり、銀行が手を引いて倒産間際まで追いやられることになった。

売掛金と同じように中小企業を苦しめる「不良在庫」

決算書上、利益が1000万円出ている会社がある。当然利益が出ているから税金を納める。しかし不良在庫があれば、それは潜伏した損失である。この不良在庫を表面化させて大きな赤字を計上すれば、銀行の資金調達に多大なる影響を及ぼすため、処分しないで保有している会社も少なくない。また、これは粉飾決算にも該当しないため、基本的には合法であり、会社側がこの在庫はもう売れないと判断して廃棄するか、たたき売りするまで潜伏した損失は表面化しない。

 

また、この不良在庫は、銀行からの借り入れで保有していることが多く、この在庫を保有するために銀行から借り入れをしてその利息を払うこととなる。また保管場所のコストもかかってくる。これらが膨らみすぎると、運転資金の融資枠を侵食し、調達が厳しくなり資金繰りが悪化する。資金繰りという点から見ると、在庫も売掛金と同じくらい経営をぐらつかせる要因になるのだ。

 

また、不良在庫は粗利益率にも大きな影響を及ぼす。私の顧問先で江戸前寿司の店舗がある。通常の飲食店であれば、原価率は25%程度。しかしこの店は原価率55%を超えていた。原因は、客の入りを多く見込んでたくさんの仕入れをしたが、結果客入りは微妙で日持ちのしない魚などの高級食材が廃棄されていたのである。売上を見込んでの仕入れがいかに難しいかの、典型例だろう。

 

また、衣料品販売店の仕入れも難しい。シーズンによって服の種類は変わるし、サイズの取り扱いや流行も影響する。いかに売上を正確に見込むか、仕入れが利益に大きな影響を及ぼす業界であるため、ある程度の利益率がなければ、利益を出していくのは非常に難しい。

時代や市場のニーズとマッチしないビジネスモデル

経営に行き詰まる三つ目の理由は、事業内容やビジネスモデルが時代や市場のニーズとマッチしないことである。

 

労働市場の変化も早いが、消費市場の変化はもっと早い。消費者側の変化は、わかりやすく言えば生活環境とライフスタイルの変化だ。例えば、共働き夫婦の増加、未婚率の上昇、子供を持たない夫婦の増加、働く高齢者の増加といった変化により、暮らし方が変わり、ニーズが多様化している。このような環境を生き抜いていくためには、流行(はやり)や時流をとらえた新しい商品やサービスを生み出していく必要がある。

 

世の中では常に何かしらブームが起きている。流行りのスイーツを売る、立ち飲み屋を作る、注目されている健康食品を売る、ニーズの先取りとアイデアや行動力があれば変化の荒波を乗りこなせるかもしれない。

 

しかし、ビジネスの寿命が短い。また、ヒット商品は「作ろう」と思って作れるものではない。新商品開発の難易度は高く場当たり的なアイデアで稼げるほど簡単ではない。

 

仮に売れる商品やサービスができたとしても、ブームのあとは価格競争に巻き込まれ、高付加価値を追求するあまり利益が出なくなる。とくに昨今のように変化のスピードが早い時代では、売れ筋だったヒット商品がすぐに死に筋になる。流行に追いついたと思った時には、すでに次の流行がスタートしている。ブームの期間が短いほど商品やサービスの開発にかけたお金が回収しづらくなる。

 

慢性的な経営不振に陥っている会社は、この変化に対応できていないケースが多い。変化に気がついていないか、気がついているけれどスピードが速すぎて対応できないか、流行を意識した商品ができ上がる前に、流行が変わり、不良在庫を抱えてしまうのだ。

たとえ勝ち残っても、市場が縮小していれば意味がない

ニーズが多様化する一方で、市場そのものが縮小していく場合もある。市場が拡大しているなら、競合とともに売上を伸ばしていける。市場規模が変わらない場合も、やりようによっては競合とのシェア争いに勝ち、売上を伸ばせるかもしれない。

 

しかし、自分や競合が利益を得ている市場が縮小した場合、勝ち残ったとしても売上は減る。利益が減り、経営が苦しくなり、倒産に追い込まれる可能性が大きくなる。わかりやすい例が日本の人口減少による市場の縮小である。

 

内閣府の統計によると、現在の日本の人口は1億2000万人ほどだ。しかし、2040年ごろには1億人前後まで減り、その20年後の2060年には8000万人台になるだろうと推計されている。現在の3分の2である。人が減れば需要が減り、市場は縮小するだろう。そのような状態で経営を続けていくには、どうすれば良いのだろうか。

 

出所:「高齢社会白書」(内閣府2018年版)
[図表4]日本の年齢階層別将来人口推計 出所:「高齢社会白書」(内閣府2018年版)

 

例えば、いまのビジネスの売上が1億円だったとしよう。何の対策もせずにそのビジネスを続けていけば、人口減少とともに売上が減っていく。それを避けるための最も単純な方法は、単価を1.5倍にすることだ。

 

一つ1万円で売っている商品を1万5000円で売れば、人口が3分の2になっても売上は維持できる。しかし、不可能ではないが、独占的な要因がない限り現実的にはその価格は市場に受け入れられないだろう。海外生産、流通の効率化により、安くていいものが素早く手に入る世の中では、単価を上げるのは現実的ではない。

「永遠に存在できる」市場は存在しないが…

市場が縮小するだけならまだしも、消滅する場合もある。これも時代や市場のニーズの変化から起きる問題である。例えば、ひとむかし前まで、駅には切符にハサミを入れる係の人がいた。高速道路の料金所にも人がいた。

 

しかし、今はどうなっているかというと、自動改札とETCが当たり前になっている。時代の変化によって仕事が消えることは珍しくないのだ。そのような連鎖によって、世の中から消えた市場はたくさんある。

 

少し周りを見渡すだけでも、消えた市場や消えつつある市場はいくつも見つかる。固定電話は携帯電話になった。地元の買い物の場だった商店街はショッピングセンターやコンビニに変わった。紙からデータへの変化も、化石燃料から自然エネルギーへの転換も同じことだ。

 

どんな市場であれ、永遠に存在すると断言できるものはない。仮にいまの事業で利益を得ている市場が消えていく市場だとしたら、どれだけ努力を重ねたところで企業の平均寿命まで生きられないだろう。ひょっとすると数年先の経営すら危ないかもしれないのだ。

 

このような話をすると「変化なんか読めない」と思う人もいるかもしれない。それはそうだ、と私も思う。固定電話で営業していた時代に、携帯電話というまったく新しいツールが普及する未来を予想できた人はほとんどいなかったはずだ。

 

インターネットが当たり前になり、エコカーで通勤する社会を予想できた人も少なかっただろう。未来の変化が予見できたら簡単に億万長者になれる。しかし、現実的に考えてそれは不可能である。重要なのは変化を先読みすることではなく、変化を想定外ではなく想定内にし、今とこれからの事業を考えることなのだ。

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鈴木 衛

幻冬舎メディアコンサルティング

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