※本記事は、2019年10月15日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

個人の借金について

個人の場合でも、前記の三条件を満たす場合がある。

 

典型的なのは、不動産価格が十分に安い場合に利用する住宅ローンだろう。不動産価格の判断には、単に「家賃利回り>借入金利」という条件だけでは不十分だ。両者の差が、不動産投資の諸般のリスク(土地・建物の価格リスク、空室リスク、家賃変動リスク、災害リスク、補修費等のリスク、税制変化のリスク、など)を十分に補えるだけのものでなければならない。この条件を満たす物件であって、十分に返せる額のローンを、低廉な金利で借りることができるなら、その借金に問題はないと判断できよう。

 

なお、近年は、全般的な低金利を反映して住宅ローン金利が低いが、一見返済できるように見えても、過大な額の借金をしないことが肝心だ。不動産屋も金融機関も、高い住宅を買わせて、大きな住宅ローンを組ませたいと思っているのだから、顧客の側は注意する必要がある。

 

個人の場合で、もう一つ「良い借金」になり得る場合があるのは奨学金だろう。奨学金は、無利子の場合もあるし、有利子の場合でも低利で借りられる場合が多い。大学に進学することで(進む大学にも、本人の適性にもよるだろうが)将来の収入の増加が十分見込まれるなら、奨学金を使うことは十分合理的だ。

 

なお、奨学金の返済義務を子供が負うことは必ずしも悪くない。大学に進学することで将来の所得が増えるメリットを享受するのは、親ではなく、主として子供本人だからだ。

 

中所得層くらいの親で、子供の教育費を使い過ぎて、自分の老後の資金が不足するケースが少なくないので、教育費については、投資としての効率性と、負担のあり方を検討するべきだ。

 

個人の場合、住宅ローンと奨学金以外の、特に使途制限のない消費目的に使える借金は概して金利が高く、「良い借金」の条件を満たさない場合が多い。

 

資産運用にあっては、機関投資家が内外の株式に想定する期待リターンは無リスク金利プラス5%くらいなのだから、二桁の金利になることが珍しくない個人対象の借金は利用しない方がいい場合が多い。「相当に損だ!」と心得るべきだろう。

個人の資産運用とレバレッジ

資産運用で、実質的に借金を利用して手持ちの資金以上のリスク・ポジションを持つことを「レバレッジ(を掛ける)」と呼ぶ。先物やオプションもこの仲間だし(実質的な借入が背後に存在する)、FX(外国為替証拠金取引)や商品先物取引、更にはETF(上場型投資信託)や公募の投資信託でもレバレッジを使ったものがある。

 

短期のトレーディング目的でレバレッジを使った商品が利用されることがあるのは、読者もよくご存知だろうが、長期的な資産形成のための運用対象にレバレッジを使うことの是非はいかがなものだろうか。

 

結論から言うと、(1)金融資産額が小さく、(2)人的資本が十分に大きい場合(典型的には「若くて健康で安定した職業に就いているが、貯金の少ない人」だろう)、レバレッジを利用した運用を行う事は、単に積立投資を行うよりも合理的な場合が十分あり得る。

 

[図表2]は、共に元本を積立て投資することは同じだが、「前半にリスク資産にレバレッジを掛けて運用して、資産額が十分大きくなってからはリスク資産の比率を落とす運用」と「100%リスク資産で運用する積立投資」との比較を考えてみたものだ。
 

[図表2]前半レバレッジ運用と通常の積立投資

 

どの程度レバレッジを掛けて、そのコストがいくらで、最終的なリスク資産投資比率をどうするかといった条件によって結果は異なるはずだが、傾向として以下のようなことが言えよう。

 

(A)通常の積立投資では大きなリスク資産を持てない前半の時期に十分なリスク・エクスポージャーを持つ事ができ、この図には示されていないが、人的資本の価値が大きいので、その時期のリスクは問題になりにくいはずだ。

 

(B)通常の積立投資の場合資産額が少ない1、2の時点のリターンは影響が小さく、資産額が増える終盤のT−1、Tといった時点のリターンの影響は非常に大きい。一方、前半にレバレッジを使う運用では、リスク資産の額が時間に対して均されるので、それぞれの時点のリターンの違いの影響がより良く分散されると期待できよう。

よく考えられたレバレッジの運用はOK

結論として、長期的な資産形成のための運用にあっても、よく理解し考えられて十分にコントロールされた利用がなされるのであれば、レバレッジを使った運用を行うことは、特に、人的資本が潤沢である一方で運用に回せる資金が少ない場合に十分合理的であり得る。

 

なお、筆者は、資金量とリスクテイク能力に大いに余裕がある富裕投資家が、利用金額に制約のあるNISA(少額投資非課税制度)を利用する場合に、レバレッジを使ったファンドを長期保有することが、NISAの節税枠の有効利用として合理的であり得ると提案したことがある。広く一般向けではないが、そのような場合もあり得るだろう。

 

もちろん、レバレッジの利用にあっては、個人の財産状態、人的資本の大きさ、リスクに対する態度、レバレッジを利用する実質的な借金のコストなどに加えて、今回は取りあげなかったが、将来の潜在的支出の必要性(ライアビリティ=負債)の影響も考慮しなければならない。

 

考慮すべき要素は少なくないが、運用にあってレバレッジが必ずしも悪いものではないことをご理解頂けたら幸いだ。

 

 

山崎 元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、2019年10月15日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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