有効な節税手段として活用している人も多い「生前贈与」。その手軽さゆえに、申告や納税を失念してしまうケースも多く、その場合重い追徴課税が徴収されかねません。本記事では、相続・事業承継を専門とする税理士法人ブライト相続の竹下祐史税理士、天満亮税理士が、具体的な事例とともに、「贈与税の時効」について説明します。

 

贈与税の時効が認められなかった「悪質」なケース

ここまでお読みいただいて、「贈与税の申告義務があっても時効の期間を過ぎるのを待てば、納税を免れるのではないか?」とお考えになった方もいらっしゃったかもしれません。

 

ただし、当初から計画的に時効が過ぎるのを待って行った一連の手続が「悪質」として、時効期間である7年を過ぎても課税されたケース(名古屋高裁での判例・平成10年12月25日判決)がありましたのでご紹介いたします。

 

<状況>

①贈与者は、昭和60年3月14日に、所有していた不動産を息子に贈与するという贈与契約書を公正証書で作成しました。

②この契約書作成後すぐには所有権移転の登記は行わず、約8年9か月後である平成5年12月13日に登記の手続きを行いました。

 

通常、贈与や売買等によって不動産の所有権が移る場合には、名義変更のための「登記」を行う必要があります。この不動産の「登記」が行われた場合には、法務局から税務署に名義変更が行われた事実の情報が伝わることになっています。税務署はこの伝達された情報により贈与税などの課税漏れがないかを確認しているわけです。

 

この判例における贈与者の方は、税務署へ情報が伝わることを避けるため、計画的に時効期間(7年)が過ぎるのを待って登記の手続きを行ったわけです。

 

裁判において、納税者側は贈与契約書を証拠として、「贈与契約書を作成した時点」で贈与があったと主張しました。

 

最終的に最高裁まで争われましたが、裁判所は以下の判断を根拠として、「登記を行った時点」で贈与があったものとして、贈与税の時効は認めないという判決を下しました。

 

①公正証書による契約書は贈与税の負担を回避する目的で作ったものであり、契約書作成時に、実質的に不動産を贈与する意思はなかった(契約書が贈与時期を表していない)。

②契約書がない場合の贈与は、不動産の引き渡しまたは登記がなされた時に成立したと考えるべきである。

③登記がされていない以上、息子はこの不動産を自由に活用し収益を得たり、売却したりすることができなかった(その間贈与が成立しているとは言えない)。

 

このように、当初から贈与税を免れることを目的として、意図的、計画的に行った手続は非常に悪質でありますので、時効を主張することは難しくなります。

贈与税の時効は「いつ贈与があったのか」がポイントに

過去の贈与でお悩みの方、いかがでしたか? まとめますと、もちろん意図的・計画的な「時効狙い」は論外ですが、意図せずして贈与税の申告手続きを失念し、結果として7年を過ぎてしまった場合には、「時効」を主張する余地は十分あると言えます。

 

またその場合、贈与税の時効については、いつ贈与があったのか(要件を満たしたのか)がポイントになります。

 

贈与契約書があれば、時効の主張を強くサポートする証拠になりますが、契約書がない場合には、複数の状況証拠を積み上げて税務署と戦っていくことになり、税務署と見解の相違が生じる可能性が高くなります。この個別の状況証拠について、それがどのような影響を及ぼすかご自身で判断するの非常には難しいものです。

 

贈与税の時効を主張していくための要件整備などのご相談も多く頂戴しております。それぞれの方のご家族の事情・財産状況を勘案した対策、対応を行っていく必要があります。

 

 

竹下祐史

税理士法人ブライト相続/税理士

天満亮

税理士法人ブライト相続/税理士

本連載は、「贈与のススメ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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