亡き母のマンション名義を書き換えた、叔母の腹黒い手口

遺産相続の発生時に無関係な人物が割り込み、トラブルになるケースは少なくありません。しかし、大切な遺産がいつの間にか相続権を持たない親族の手に渡っていたとしたら…。本記事は、母の死後に母親名義の不動産が相続権のない叔母のものになっていた事例を司法書士が解説します。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

病床の母に付いた後見人、変更された生命保険の契約書

遺産相続を巡って、親族間にトラブルが生じることは少なくありません。しかし、いくら大騒ぎしても相続権がなければ手出しができないだろう…と高を括るのは早計です。

 

ここでは、実子がいるにもかかわらず、病床の母親に後見人をつけ、娘から母親の資産の流れを見えなくするなど不審な行動を取った叔母との、その後のトラブルについて見ていきます。

 

*   *   *   *   *

 

末期の肺がんを患っていたA子さんの母親も、ついに旅立ちました。眠るように安らかな母の最期を見届けたA子さんは、悲しみよりもむしろ「もう苦しまなくていいのだ」という、安堵の気持ちに包まれていました。

 

少人数が参列するだけの家族葬とはいえ、準備や進行はそれなりにあわただしく、自宅戻ったA子さんは荷物を床に置くと、夫とともにソファに座り込みました。

 

「なんとか終わったね」

「ええ…。叔母さんも普通に来ていたけど」

 

A子さんの母親が余命宣告され、選択できる限りの治療を行っている間、いつの間にか母親の妹である叔母が、見知らぬ司法書士を母親の成年後見人につけてしまっていたのでした。入院手続きなどであわただしくしている折、A子さんは叔母からどさくさ紛れに出された同意書に、うっかりサインしてしまったのです。

 

しかし、問題はそれだけではありませんでした。A子さんを受取人にした母親の生命保険も、いつのまにか契約者が叔母に変更されていたのです。A子さんは司法書士に相談しましたが、契約者が叔母である以上、受取人も叔母が変更できる可能性があるといわれ、途方にくれました。

 

しかし、母親の病気がわかったとき、真っ先に駆けつけ、母親にすがりついて大泣きした叔母の姿を見ていたA子さんは、心のどこかに叔母を信じたい気持ちがあったのも事実でした。また、祖父母の遺産相続で揉めて以降、母と叔母との間にあったわだかまりも、それで解けたように見えました。

 

「やっぱりあの子、お母さんのことを心配してくれているんだわ。あんなに泣いて泣いて…。お母さんも、みんなを悲しませないように、しっかりしなきゃね」

 

以降、叔母は足しげく病院に通い、A子さんの母親の世話を焼くだけでなく、共働きのA子さん夫婦にも差し入れをしたり、電話やラインでねぎらいの言葉をかけるなど、気遣いを見せていたのです。

 

しかし、そんななかで発覚したのが、成年後見人や生命保険契約の件でした。

「けんもほろろ」な生命保険会社の担当者

母親の生命保険の契約者の変更に気づいたA子さんは、知り合いに紹介された司法書士を頼って相談に行きました。しかし、契約者が叔母に変更された以上、受取人は契約者がどのようにもできる可能性が高いとの話を聞き、いても立ってもいられなくなり、家に戻ってすぐ、保険会社に問い合わせました。

 

しかし、保険会社の担当者の扱いは極めて事務的で、取り付く島のないものでした。

 

「保険金の受取人は、契約者の方なら変更できます」

 

この保険はもともと母親が契約者だった、それを叔母が…と説明しても、同じ話を繰り返すばかりで、しまいにはウェブサイトの注意書きを見るようにいわれ、電話を切られてしまったのです。

 

A子さんは叔母に電話し、強い口調で問いただしました。

 

「保険? なんのこと? おばちゃん知らないわ…」

 

電話口で激高するA子さんを止めたのは夫でした。

 

「この状況になったら、もうあきらめるしかないよ。どんな事情で契約が変更されたのかわからないし、これがお母さんの本意だとも思えない。でもいま、お母さんは放射線治療の副作用で認知症の症状が出ている。要介護認定を受けてしまったし、これから保険契約を変更するのは無理だ」

 

「でも…!」

 

「預貯金は叔母さんが後見人に管理させているから、どうなっているかわからないけど、少なくとも君の手元には遺言書がある。僕と君に相続させるって、お母さんが書いてくれたんだろう? そもそもほかに法定相続人はいないんだし、司法書士の先生のアドバイスどおり、お母さんにもしものことがあったら、すぐにマンションの名義を君に変更すれば、それでいいじゃないか」

 

公正証書遺言作成の経緯は「藪の中」

A子さんは葬儀から1週間後、不動産の名義変更手続きを開始するため、戸籍謄本をはじめとする書類の収集を開始しました。

 

相続人の戸籍謄本や印鑑証明書のほか、不動産の登記事項証明書など、必要な書類は多々ありますが、一部はオンラインでの交付請求が可能になり、以前に比べれば手続きの手間も楽になったといえます。

 

しかし、法務局から母親のマンションの不動産登記証明書を取り寄せたA子さんは目を疑いました。

 

マンションの名義はすでに叔母になっていたのです。

 

「どうして…!?」

 

A子さんは書類をバッグにねじ込むとマンションを飛び出し、叔母の住むアパートまでタクシーを走らせました。

 

血相を変えて詰め寄るA子さんを、叔母は冷たく突き放しました。

 

「お姉ちゃんは入院先で、遺言を残してくれていたのよ。全財産を私にって。公正証書遺言だから、マンションの名義書き換えは、簡単だったわ」

 

A子さんは、夫ともに司法書士事務所に出向き、事情を話しました。

 

「叔母さんがおっしゃっていた公正証書遺言なら、死亡確認できる除籍謄本が手に入ればすぐに相続手続きが可能です。自筆証書遺言は検認の作業があるため、手続きに使用するまで1ヵ月程度時間が必要になりますが…。それに、公正証書遺言のほうが、A子さんがお持ちの遺言書より日付があとになっていますから、有効だと判断できます。一体どういう経緯でこれが書かれたのか、そのあたりはわかりませんが、保険契約の変更の件もありますし、叔母様から病床のお母様へ、何らかの働きかけがあったことは確かでしょう…」

 

「では、もうどうしようもないのでしょうか?」

 

「A子さんと、お母様と養子縁組しているご主人には遺留分がありますから、それを請求することはできます。ただし、裁判は避けられません。それに、不動産の名義変更は、〈早い者勝ち〉なのです。あとから名義を変えるのは容易ではありません」

 

A子さんは、祖父母が亡くなったあと、叔母と揉めて憔悴していた母親の姿を思い出しました。もっと叔母に注意を払うべきだった。情にほだされるんじゃなかった。母が遺してくれた大切な財産を守れないなんて…。A子さんの胸には、言葉にならない後悔の念が広がりました。

 

非常に残念なことですが、この事例のように、相続人が気づかないうちに手を回し、財産を狙うケースは実在します。被相続人が亡くなってしまったあとでは対処はできません。いち早い段階での確認や対策が重要なのです。

 

 

菱田 陽介

菱田司法書士事務所 代表

 

髙木 優一

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長

 

菱田司法書士事務所 代表

東京都生まれ。明治大学法学部卒業。都内の司法書士事務所で経験を積み、のちに菱田司法書士事務所に移る。相続、遺言、不動産に関する案件を多く手掛けている。

菱田司法書士事務所は、東京都大田区大森で85年以上にわたって相続の問題を扱っている老舗。現在の代表は4代目に当たる。

菱田司法書士事務所ウェブサイト:https://hishida-jimusho.net/

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧