「借金返済のための覚悟の自殺である」心の病、認められず…

本記事では、朝日新聞記者・牧内昇平氏の著書、『過労死: その仕事、命より大切ですか』(ポプラ社)より一部を抜粋し、長時間労働だけでなく、パワハラ、サービス残業、営業ノルマの重圧など、働く人たちをを「過労死」へと追いつめる職場の現状を取り上げ、その予防策や解決方法を探っていきます。

通常の残業と深夜や休日労働は分けるべきだが…

どれだけ長く働いても給料が増えない──。そんな悩みをもっている人は少なくない。住宅リフォームの営業マンだった後藤真司さん(仮名・当時48)は、2011年1月、埼玉県内の自宅で自ら命を絶った。「85時間分の残業代を基本給に含む」という厳しい条件のもとで、長時間労働を行っていた。

 

前回の続きです(関連記事『ゴメンネ…必死で守ろうとしたマイホームで、自ら命を絶った夫』参照)。

 

A社の給与体系には欠陥があった。妻・夏美さんが起こした裁判で分かったことだ。

 

あらかじめ決まったお金を時間外手当として支払う「固定残業代制度」は、ただちに違法ではない。ただし、①何時間分の残業代を固定で支払うのか明らかにする、②想定よりも働いた場合は追加の残業代を支払う、などの条件がある。

 

さらに言えば、通常の残業と深夜や休日労働は分けなければならない。通常の残業(1日8時間、週40時間を超える労働)の割増率は25%だが、深夜残業(午後10時以降)は50%で、休日労働は35%になることが、労働基準法できまっている。つまり、同じ残業時間でも深夜や休日に働けば手当の額は増える。支給漏れを防ぐため、それぞれを区別する必要があるのだ。

 

だが、A社の制度はおおざっぱに「月85時間までの残業代を基準内給与に組みこむ」というもので、深夜や休日などの区別がなかった。裁判所(東京地裁)はこの点を指摘し、A社の給与体系のうち、固定残業代にかかわる部分を「無効」と判断した。

 

固定残業代が「無効」になると、残業代は基準内給与とは別に支払う必要がでてくる。判決文は、会社への制裁の意味がある「付加金」と合わせて計460万円の残業代の支払いをA社に命じた。

 

「固定残業代制度」の落とし穴

ここからは一般論として読んでほしい。「固定残業代制度」はここ十数年で日本の職場にかなり広がってきた。それはなぜか。正しく運用すれば会社にはそれほどメリットがない。固定額以上に働けばそのぶんの残業代は払わねばならないし、深夜や休日労働については別途清算する必要があるからだ。

 

これまでの取材経験から言って、会社側の狙いは次の2点だとわたしは考える。

 

①残業代を支払わない方便に使う

「うちの会社は残業代を固定で支払っている」と社長や上司から言われると、なんとなく納得してしまう人は多いだろう。給与規則などを細かく調べないと何時間の残業代が固定なのかが分からない会社もある。

 

②基本給を高く見せかけて求人しやすくする

求人情報を集めたウェブサイトなどを見ると、仕事内容などとともに「給与」を紹介する欄がある。管理が甘い一部のサイトでは、基本給をここに明示せず、固定残業代を含んだ金額を書いている会社が散見される。実際よりも給与水準を高く見せかけて求人への応募者を増やすための企みと言えるだろう。

 

3年ほど前にわたしが取材した20代男性のケースを紹介したい。

 

男性は新卒の就職活動のときにある会社の企業説明会に行き、「基本給30万円」という説明を受けた。「いい給料がもらえる」と思って入社したところ、のちに給与明細をよくみると、「基本給15万円 固定割増手当15万円」と書いてあった。実際には月100時間以上残業しても追加の残業代は支払われず、支給額は15万円だけだった。①と②の両方をねらったケースと言えるだろう。

 

この固定残業代については近年トラブルが多発し、厚生労働省も手を打ちはじめた。求人企業に対し、可能な限り早い段階で固定残業代の詳細を明示するよう、強く求めている。悪質なやり方をする企業がなくなることを願うばかりである。

朝日新聞記者

1981年3月13日、東京都生まれ。2006年東京大学教育学部卒業。同年に朝日新聞に入社。経済部記者として電機・IT業界、財務省の担当を経て、労働問題の取材チームに加わる。主な取材分野は、過労・パワハラ・働く者のメンタルヘルス(心の健康)問題。

著者紹介

連載働く普通の人々に忍び寄る「過労死」という悲劇

過労死: その仕事、命より大切ですか

過労死: その仕事、命より大切ですか

牧内 昇平

ポプラ社

朝日新聞の好評企画が待望の書籍化!その不幸は突然やってくる。他人ごとではない「現実」を7年にわたって追った渾身のノンフィクション。過労死を「自分ごと」と感じるために。

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