相続税の申告をした人の10~20%に行われるとされるのが「税務調査」です。税務上の判断が分かれるグレーゾーンの処理が論点になることが多く、対応の仕方で結果が大きく変わることもあるといわれています。本記事では、相続・事業承継を専門とする税理士法人ブライト相続の竹下祐史税理士、天満亮税理士が、「相続税の税務調査のポイント」等について説明します。

税務署からの質問は「聞かれたこと」のみ答える

相続税は、亡くなった日の財産の評価額に、評価額に応じた税率をかけて計算しますので、税務調査は財産の計上漏れがないか、低く評価していないかという観点で行われます。

 

よく昔のドラマの影響などで、床下の金の延べ棒とか、隠し部屋の現金を探すイメージがあるかもしれませんが、実際はそんな場面に出くわすことはありません(少なくとも私はありませんでした)。

 

また、調査官も怖い人をイメージされる方もいるかもしれませんが、実際には高圧的な態度の人は少ないです。どちらかと言うと腰が低くて聞き上手の人が多いです。ご高齢のお母さんが、調査官があまりに丁寧に聞くもので、だんだん気持ちよくなって楽しくおしゃべりしてしまうことさえもあります。

 

実はこれが税務署のやり方で、雑談の中から証拠となりうる必要な情報を引き出しているのです。この聞き方は実に巧妙です。ですので、税務署から質問された場合には、聞かれたことのみ答えることが大事です。

 

また、分からなければ分からないと答えればいいのです

 

当然亡くなった方ご自身の財産の話なので、相続人やご親族が分からない内容があって当たり前なのです。

 

ただし、反対に答えが分かる質問については嘘をつかずに答えないと、悪質としてペナルティが課せられることもありますので注意が必要です。調査官は雑談の中で、対応する相続人が何を答えられる(分からないと言えない)状況だったのかを見ています

 

事例を使ってご説明してみます。

 

調査当日の午前中に、調査官は必ず被相続人(亡くなられた方)の亡くなる直前のご病状を質問してきます。例えば亡くなる前、半年くらいは病院で寝たきりで本人は外出できなかったと回答したとします。

 

そのあと午後に、調査官に通帳のチェックされます。その時に、亡くなる3ヶ月前の預金の引き出し、出金が見つかったとします。

 

調査官からはその引き出しの用途を聞かれるはずですが、被相続人ご本人は、当時外出できず、預金の引き出しが行えなかったはずですので、親族のうちの誰かが引き出しを行っていたはずと見られてしまいます。全員が分からないとは答えられないのです。

 

雑談の中での話し方、質問への答え方が非常に大切であることがお分かりいただけたかと思います。

税務調査における「典型的な質問パターン」とは

国税局による調査等、大規模に行われる調査ではなく、通常の所轄税務署による調査であれば、調査当日に2人組の税務署職員がご自宅にやってくるのが一般的です。

 

相続税の税務調査当日に聞かれること、チェックされる書類などはパターン化されていますので、具体的に見ていきましょう。

 

①相続税の税務調査での典型的な質問パターン

 

午前中は質問タイムです。ある程度パターンが決まっていまして、典型的な質問は次の通りです

 

・亡くなられた方の住所や仕事、勤務先、勤務地の履歴

・亡くなられた方の実家の家業や実家から相続したものの有無

・趣味

・亡くなられる直前のご病状、入院先、入退院の履歴

・判断能力がどの程度あったか

・取引先の金融機関はどこか、貸金庫はあるか(貸金庫には何が入っているか)

・相続税の申告にあたり、取引先の金融機関その他の財産をどうやって把握、調査したか

・生前の預金、現金の管理方法、誰が管理していたか、通帳はどこに置いてあったか

・本人が管理していない場合、誰がいつごろから管理していたか

・相続人の家族構成、仕事の履歴、相続人(子供)の配偶者の収入

・相続人の財産の状況、取引先金融機関、不動産の場合については購入の経緯

・相続人の財産は相続人自身の所得等により形成されたものか

・亡くなられた方と相続人の間で贈与やお金の貸し借りはなかったか

・名義預金というものを知っているか、相続税の申告にあたって検討したか

・配偶者の実家の家業や実家から相続したものの有無

・財産関係の書類(預金通帳、株券、ゴルフ会員権、印鑑(実印、銀行届出印、認印)、不動産の権利証)の所在(家の中の金庫、引き出し、貸金庫など)

・それらの書類は誰が触れたか

・事業(個人事業、開業医、不動産事業など)を行っている場合、売上の入金方法(現金受け取り、振り込み、管理会社など)

 

②相続税の税務調査で見られる書類

 

午後は書類等の現物確認を行います。

 

調査官が書類等の現物を見ながら必要の都度質問してきます。基本的に書類等を黙々とチェックしますので、沈黙の時間が続きます。調査官からの質問に対しては、午前中の回答と矛盾がないように回答することが大切です。

 

午後の確認手続きもある程度パターンが決まっていまして、典型的な確認事項は次の通りです

 

調査官はカメラやスキャナを持参しており、書類をスキャンして税務署に持ち帰る慣習があります。稀に資料が膨大になる場合には、預かり証を発行して持って帰ることもあります。

 

・預金通帳等の大事な書類が保管されている金庫、書斎の引き出し等がある場所まで実際に行き、調査官の指示に従って内容物の確認

・調査の規模によって、各部屋を巡回、引き出しの中身の確認

・蔵や倉庫があるときは、場合によってはその保管物の確認

・預金通帳、定期預金証書(亡くなられた方と相続人のもの)

・株券、ゴルフ会員権等の有価証券(亡くなられた方と相続人のもの)

・金融機関からの配布物

・報告書等

・保険証券(亡くなられた方と相続人のもの)

・不動産の権利証、建築確認申請の控え、土地の測量図等

・印鑑(実印、銀行届出印、認印)

・それぞれの印鑑の用途を確認のうえ、重要な印鑑の印影の記録(税務署の持参した用紙に記録用に捺印される)

・美術品、骨とう品、金、貴金属等

・亡くなられた方の電話帳、その他手帳

 

このあたりの手続きを順に進めていくと、大体16時~17時になり、臨宅調査終了となります。通常その場で結論がでることはなく、「質問した内容、確認した資料を踏まえて署で検討します」と言って帰って行きます。

 

※臨宅調査は通常1日で終わることがほとんどですが、財産規模や調査の進捗状況に応じて2日以降に続く可能性もあります。2日目の調査は、1日目の未完了手続の続きが行われます。

本連載は、「贈与のススメ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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