なぜ銀行は「多額の現金」を用意しなくても商売ができるのか?

銀行にはたくさんの現金が保管されていそうなイメージですが、実際にはそれほどでもありません。多額の現金を置かなくても平気なのは「大数の法則」に基づいたビジネスだからなのです。保険会社も同じ理論でビジネスが成立しています。では「大数の法則」とはいったいどういうものでしょうか? 塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第39回目です。

高金利で資金を貸し、低い金利を預金者に支払う仕事

銀行の金庫は大変立派で、強盗が開けるのは非常に難しいはずです。そんな金庫のなかには巨額の現金が入っていると思っている人も多いのですが、実はそうでもないのです。

 

これは、考えてみれば当然のことです。私たちが銀行に預けた現金が全部金庫の中で眠っていたら、銀行は金利が稼げないので、倒産してしまうでしょう。銀行の商売の基本は、「私たちが預金した資金を高い金利で貸し出し、預金者には低い金利を支払い、その差額(利鞘と呼びます)を儲ける」ということだからです。

 

筆者が銀行に勤務していたころはゼロ金利ではなかったので、銀行の金庫に多額の現金が入っていると「この金を貸せば金利が稼げるだろう!」と叱られたはずです。いまはゼロ金利(正確にはマイナス金利)ですから、銀行が金庫に巨額の現金を入れておいてもよさそうなものですが、それでも銀行強盗が怖いですし、大きな金庫を作る費用も惜しいので、あまり巨額の現金は入れておかないはずです。

 

銀行のビジネスを支える「大数の法則」という理論

統計学の話になりますが、「大数の法則」というものがあります。コインを投げて表が出る確率は2分の1です。コインを2回投げても、表と裏が1回ずつとは限りませんが、1万回投げると、大体5000回が表で、大体5000回が裏になる、というのです。くわしくは統計学の本を読んでいただきたいのですが、銀行は、この法則を使って商売をしているのです。

 

確率的に、客の100人に1人が金を預けに来て、100人に1人が預金を引き出しにくるとします。大数の法則を考えると、「100万人の顧客がいる銀行では、大体1万人が預金を預けに来て、大体1万人が預金を引き出しにくるので、銀行の金庫に少ししか現金がなくても大丈夫だ」、というわけですね。

 

もちろん、ボーナス支給日には多くの客が預金を引き出しに来るでしょうから、その日だけは多額の現金を金庫に入れておく必要があります。どうするかといえば、各銀行は日銀に預金口座を持っているので、そこから現金を引き出してくるわけです。

預金者が一斉に「預金の引き出し」に走ると?

普段は確率どおりに預金を引き出す顧客たちですが、そうでない場合があり得ます。「あの銀行は倒産しそうだ」という噂が流れた場合、預金者たちは一斉に預金を引き出しに走る「取り付け騒ぎ」です。

 

そうなると、銀行の金庫のなかの現金は底を突き、本当に倒産してしまうかもしれません。しかし、それを恐れて普段から巨額の現金を金庫に入れておくわけにも行きません。そこで、取り付け騒ぎによる倒産を防ぐための工夫がなされています。

 

取り付け騒ぎが発生すると、「最後の貸し手」である日銀が現金輸送車で札束を届けてくれます。殺到する預金者の分だけの札束を運んでくれるわけではありませんが、預金者たちが「日銀の現金輸送車と山積みされた札束」を見て安心して預金を引き出さずに帰るため、金庫が空になる事態が防げるわけです。

 

それ以前に、そもそも取り付け騒ぎが起こらないための工夫もされています。まず、銀行の建物は立派で、安心感を与えてくれます。銀行の支店がバラック建てだったら、預金者は不安でしょうから(笑)。ちなみに、ゆうちょ銀行だけは、歴史的な経緯等から特別な安心感を持っている人が多いようなので、例外です。

「広い範囲」に「多くの顧客」を抱えているからこそ…

銀行が倒産しないように、銀行の業務にはさまざまな規制がかけられています。たとえば自己資本比率規制では、非常に大雑把ですが「銀行は自己資本の12.5倍しか貸出をしてはならない」とされています。借り手の12.5社に1社は倒産しても、銀行自身が倒産しないですむように、というわけですね。

 

預金保険制度も、取り付け騒ぎを防ぐための工夫のひとつです。大雑把ですが「1000万円までの預金は、銀行が倒産しても政府が代わりに払ってくれる」というものです。これにより、「銀行破綻の噂を聞いても、庶民は預金を引き出しに走らなくてよい」ということになり、取り付け騒ぎが防げる、というわけです。

 

問題は、預金保険制度の存在を庶民の多くが知らないので、結局大勢が預金を引き出しに走ってしまいそうだ、ということですが(笑)。

 

保険も、大数の法則を利用したビジネスです。「1000人に1人の確率で火事に遭うということは、100万人の客のうち、火事に遭う人は1000人前後だろう」といった予測に基づいて保険料を決めているわけです。

 

そこで、保険会社には一定の規模が必要になります。保険会社に客が1人しかいなかったら、万が一の時に保険会社が倒産してしまうでしょうから、ビジネスになりません。

 

地域的な広がりも必要でしょう。全国に顧客がいれば、大数の法則が成り立ちますが、一部の地域だけに顧客が集中していると、その地域で大火事が発生した場合に保険会社が倒産してしまいますから。

 

今回は以上です。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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