税務調査官の「誘導尋問」…富裕層はどう「はぐらかす」のか?

富裕層に忍び寄る「税務調査官」。脱税疑惑のある家へ赴き、タンスやトイレなど、ありとあらゆる場所をチェックする……。以前は富裕層に限った話でしたが、相続税の課税対象範囲が拡大された今、誰にでも起こり得る「事件」ともいえます。そこで本記事では、岡野雄志税理士事務所・岡野雄志氏の書籍『相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル』(幻冬舎MC)より、税務調査で実際に行われる事柄や、税務調査官への対応方法を紹介します。

嘘はつかない、わからないなら無理に答えない

◆虚偽の答弁をすると…

 

一番大事なのは、嘘をつかないことです。仮装や、隠ぺいがあったと判断されると、重加算税を課せられてしまうからです。

 

重加算税とは、故意の仮装や隠ぺいに課せられる重い追徴課税です。税務署にとって重加算税は非常に魅力的な追徴課税です。重加算税の課税対象者には、時効までの最大7年間、35%~40%程度の高額な加算税が延々とかかり続けるからです(延滞税は最長1年で打ち止めです)。

 

そもそも、嘘はすぐにばれます。調査官はわかっていることをあえて聞いてきているのですから。金融機関の取引履歴を押さえ、申告されていない口座があることもわかったうえで、「このほかに預金はないですか? どうですか?」と聞いてきます。大きな出金がされていることもわかったうえで、「このお金はどこへ行ったのでしょう? わかりますか?」と聞いてきます。

 

◆わからないことは即答しない

 

答えられない、わからないことがあれば、変にごまかしたりせず、正直に「わからない」と答えればいいのです。即答する必要はありません。そもそも、被相続人の預金口座に関して質問されたとしても、相続人はわからなくて当然です。

 

現実的に考えれば、いい年をした大人がいちいち出金するたびに、親族に報告なんてしないでしょう。わからなければ正直に、「もう数年前のことですし、亡くなった父親のことなので、調べてみなければわかりません。あとで調べて回答します」といえばいいのです。

 

調査官が「100万円という大きな金額なのにわからないのですか?」と追及してきた場合には、たとえば相続人が10億円の財産を持つ資産家であれば、「100万円なんて、財産の0.1%です。0.1%の財産の行方なんて覚えていません」と答えればいいのです。

 

何はともあれ、不確かなことはその場で答えないのが一番です。準備すべきことは準備しておき、それ以外のことを尋ねられたら、「あとから返答します」と答えましょう。

 

◆聞かれたことにだけ答える

 

調査当日は、できるだけ調査官に聞かれたことにだけ答えるようにしてください。聞かれたこと以外は、雑談を含めて自分から話したりしないほうが良いでしょう。ましてや、調査官に挑発的なことをいうなんてもってのほかです。

 

以前、終了予定の午後4時頃になっても帰ろうとしない調査官に対して、相続人が「そろそろ帰る時間じゃないの?」と挑発するような言葉を投げかけたことがありました。すると、調査官はかえって意地になったのか、午後6時半頃まで調査を引き延ばしていきました。調査官とて人間ですから、神経を逆なでするような言動は慎みましょう。

 

◆誘導尋問に気をつける

 

午前のヒアリングの際に気をつける言葉に、「除外」というものがあります。調査官に「この預金の申告がされていませんが、これは『除外』したということでよいですか?」などといわれたら決して「そうです」などと肯定してはいけません。

 

「除外」には、「脱税のために意図的に申告しなかった」という意味合いが込められているからです。調査官のそういった誘導尋問ともいえる質問にはきっぱりと、「『除外』ではなく、単に『うっかり申告漏れしていただけです』」と答えることが重要です。

 

◆午前と午後で矛盾を起こさない

 

午前のヒアリングと午後の現物確認の間に矛盾が起きると、必ず調査官に指摘されます。たとえば、よくあるケースとして午前に「贈与はありましたか?」と尋ねて相続人から「贈与はありませんでした」という言質を取り、午後に実際の取引明細を見ながら「ここから預金が移動していますね。贈与ではないのですか?」と、あたかも隠ぺいしたかのように誘導する、ということがあります。

 

税務調査官の「誘導尋問」に注意
隠ぺいしたかのように…

 

その場合は、「被相続人のやったことだからわからない」「何年も前のことなので忘れてしまった」など、正直に答えるのが良いでしょう。

 

◆質問応答記録書の作成にあたっての協力要請には応じないほうが良い

 

調査官から「質問応答記録書の作成に協力してください」と頼まれることがありますが、安易に応じないほうが良いです。一般的な感覚としては、要請に応じて協力したほうが反省したものとみなされて処分が軽くなりそうなものですが、実際には全く逆で、この「質問応答記録書」は自白の証拠として使われてしまうのです。

 

この「質問応答記録書」には決まったフォーマットがあるわけではありません。若手調査官がその場で調書を書き、「ここにサイン、もしくは捺印してください」といってくることがほとんどです。なので、若手調査官が何やら書類を書きはじめたら、「質問応答記録書を作っているな」と推測することができます。この「質問応答記録書」に署名してしまうと、不正を認めた証拠と捉えられ、重加算税を追徴されてしまうこともあります。

 

◆調査官は写真を撮る

 

被相続人の取引履歴に関しては、すでに金融機関から取り寄せて持っているはずなのに、調査官はわざわざ「通帳を写真で撮らせてください」といいます。その目的は、被相続人の手書きのメモを証拠として撮ることにあります。出金金額の横に名前が書いてあれば、その名前の人のところへ預金を移したのだとわかります。お孫さんの名前や、相続人の名前が書いてある原本を押さえたいのです。

 

さらには、金庫のなか、保険証券(保険証書)なども写真を撮られます。当事務所が調査に立ち会うときには、調査官に写真を撮られたものをすべてメモして、控えておきます。そうすることで、調査後にどこを指摘されるのか予想ができるからです。調査官が写真を撮らない=証拠を持っていかない以上は、その件について指摘されることもないでしょう。

 

◆調査官がしてはいけないこと

 

質問検査権があるとはいえあくまでも任意調査ですので、調査対象者に全くプライバシーがないわけではありません。調査官は金庫のなかに手を突っ込むことはできませんし、たんすのなかを勝手に探ることもできません。たとえ、金庫のなかに現金があったとしても、数えるのは相続人・税理士側です。

税務調査官が「不正を見抜く」ポイントとは?

◆金融機関の取引履歴

 

調査官が不正を見抜くために最も活用する資料はやはり、金融機関の取引履歴です。調査官は前もって調査対象に関る取引履歴を取り寄せて、怪しい点をピックアップしています。調査に入る時点で、この取引履歴から何らかの「申告漏れ」の確証を得てきているのです。昔と違い、今はいろいろな名前で口座を作ることもできませんので、不正も見つかりやすくなっています。

 

◆相続人の収入と生活費

 

たとえば、世帯年収が約545万円(平成28年/2016年の世帯年収平均)で、手取りが約445万円、生活費が約290万円(平成28年/2016年の総世帯の消費支出平均)の家庭と仮定した場合、多くても年間160万円程度しか預金は増えません。それなのに、計算上妥当な額以上のペースで預金が増えていたとしたら、当然「資金の出どころはどこですか?」と疑問を持たれてしまいます。

 

◆被相続人の意思決定能力

 

被相続人の病歴は相続税の申告書に添付して提出するので、調査官は被相続人がどのような病気で亡くなったのかも当然把握しています。特に調査官が注意してチェックしているのは「被相続人の意思決定能力」です。

 

というのも、被相続人に意思決定能力がないとみなされるにもかかわらず、被相続人の財産が不自然に引き出されているような場合、その引き出しを行ったのは誰なのかということが問題になるからです。もし被相続人以外の人が勝手に被相続人の預金を引き出していた場合には、不当な租税回避行為とみなされて、追徴課税を受ける可能性があります。

 

被相続人が非常に高齢である場合にも、同じように意思決定能力の如何(いかん)が問われることがあります。そのような場合、調査官は被相続人が認知症などで意思決定能力を失っている可能性を疑っているのです。

 

被相続人にとって最後にできる生前対策は、相続人以外への財産の贈与です。相続人に贈与しても、亡くなる直前3年以内の贈与は持ち戻しで相続財産となってしまうため、相続人以外に贈与するのです。しかし、被相続人の死亡直前にこのような生前対策が行われている場合には、被相続人以外の誰かが勝手に預金を引き出したのではないかと疑われるため、贈与は成立しない可能性が高いです。

 

たとえ相続人が「亡くなる直前まで被相続人には意識がありました、預金の引き出しも被相続人自身が行っていました」といい張ったとしても、調査官は病院のカルテなどを確認することができるため、嘘はばれてしまいます。また、金融機関に設置されている防犯カメラの映像もチェックできるため、実際に引き出したのは誰か、ということもわかってしまうのです。

岡野雄志税理士事務所 所長 税理士

相続税専門の税理士。早稲田大学商学部卒業。2005年、横浜市に事務所を設立。開業以来、相続税還付や申告、対策など相続税関連の案件を600件以上手がける。全国各地で332件以上の相続税還付に成功。2014年12月『納めてしまった相続税が驚くほど戻ってくる本』(あさ出版)を出版。2015年2月に新横浜駅の事務所に移転。

著者紹介

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※本記事の情報は、すべて『相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル』刊行当時のものです。最新の内容には対応してない場合がございます。予めご了承ください。

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

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