開業前に高級車を買った医師…資金が底をつき、スタッフ解雇

患者が医療機関を選ぶ時代になり、医師も「経営努力」が必須となってきました。そこで本記事では、協奏会計・税理士事務所の田浦俊栄氏と小泉暁之氏が、「コンサル頼み」で失敗した医師の事例を紹介し、理想のクリニックを開業するために必要な知識を解説します。

開業コンサルの勧めを鵜呑みにした内科医のB先生

[事例]

 

内科医のB先生は開業コンサルの勧めで、駅前に建てられた医療モールで開業することになりました。B先生にとっては縁もゆかりもない土地でしたが、薬局チェーンの子会社であるコンサルの「近くにベビー用品店もあって、若年層ファミリーが多く住んでいますから幅広い年代が狙えますよ」という言葉を信じて決めたのです。

 

B先生のように出身地でもなく、出身大学の病院の近くでもなく、まったく縁のないところに開業をすることを業界では落下傘開業と呼んでいます。B先生は、これまで外科医として経験を積んできましたが、小規模なクリニックで外科は難しいと考え、内科に転向して開業を考えたのです。

 

しかし、内科の専門医でない上に華美な内装のB先生のクリニックには患者さんは集まりにくく、さらに、開業直前に高級車を購入したため、開業時に用意した資金は二年ともたずに底をつきました。

 

開業前に高級車を買ってしまった…
開業前に高級車を買ってしまった…

 

B先生は金融機関に返済を待ってもらい、スタッフを解雇し、自分自身も休日に別の病院でアルバイトをしながら、なんとかクリニックの維持に務めました。

 

その後B先生は、どうなったでしょうか。経営は安定し、開業から十年以上経つ今でも同じ場所で診療を続けており、現在は患者さんの数もかなり増えています。

 

開業当初の失敗の一番の原因は専門医でなかったことでも、場所が悪かったことでもなく、資金を三年もたせる計画がなかったことです。通常、三年あれば地域での認知度も高まり、受診者の中から必ず先生をかかりつけとする患者さんができて、経営は安定します。

 

駅前で開業している先生方は、クリニックの前を通る多くの人にしっかりと認識されているはずだと思うかもしれません。しかし、通行人のほとんどは、「駅前にあるクリニックって何科だっけ?」という程度の認識です。

 

新患のほとんどは、病気にかかって初めて、該当する診療科目を検索し、先生のクリニックを正しく認識するのです。そうやって来院した患者さんが、クリニックの対応が良かったと感じれば、かかりつけになります。かかりつけが増えれば口コミが広がって、さらに患者さんが増えていきます。開業から三年あれば、そうしたサイクルが生まれ、経営が安定するのです。

 

■まとめ

●資金を三年持たせるプランがなければ失敗する可能性大。

●駅前クリニックでも意外に認知されていない。

悪魔の言葉「開業後はローンが組めなくなりますよ」

B先生が資金繰りに窮した原因は一つではありません。いくつもの小さな要因が複雑に絡まり、失敗の罠にはまってしまったのです。

 

一つ目は、医療モールであったこと。B先生が入居した医療モールには五つのクリニックが入居可能でしたが、駅前ということでテナント料が高くなかなか他のクリニックが入居してきませんでした。開業して一年以上、診療をしているのはB先生が経営する内科だけでした。患者さんにしても、閑散とした医療モールの中にある内科に通う気にはなりません。それが患者さんの集まらない理由にもなりました。

 

また、医療モールは入居しているクリニックのうち一つの評判が悪いだけでも、医療モール全体の評判が落ちることがあります。後から入る場合は、どうしてその場所が空いていたのか入念な下調べが必要です。このようなデメリットを嫌がり、医療モールを敬遠する先生方もいます。

 

失敗した原因の二つ目は、B先生が開業の際に大きな借金をしていたことです。「開業後はローンが組めなくなりますよ」──。コンサルタントのささやきに気持ちを動かされて高級車を買ってしまいました。その返済も毎月の資金繰りを圧迫しました。

 

たしかに、開業するとローンが組みにくくなります。勤務医時代は安定収入がありますし、会社員に比べて給与が高いので、ローンの審査に通らないことはほとんどありません。しかし、ローンの審査では勤続年数が大きく影響します。

 

それは医師でも会社員でも同じです。開業したばかりで収入が安定しない時期は、ローンを断られることは珍しくありません。そこで、開業する前に借りておこうとなるのです。B先生の場合はすでにマイホームは購入していたので車でしたが、開業前に慌てて住宅ローンを組む先生もいます。

 

三つ目は、開業コンサルが作っていた事業計画書の患者数などが、すべて理想を描いたものだったことです。そしてその計画に合わせて不要な医療機器を購入してしまったのです。開業前には診療圏調査などを行い、そのデータをもっともらしく引用して見込みを立ててくるのですが、現実的ではないことが多いのです。

 

弊社がB先生と出会ったときには、すでに厳しい状況に追い込まれた段階でした。すぐに借入先の銀行と交渉して返済期間の延長を認めてもらい、毎月の返済額を減らしました。

 

しかし、それだけでは十分ではありません。スタッフも看護師一名を残して辞めていただき、先生にはクリニックの休診日と夜間にアルバイトに行ってもらうことにしました。夜間のアルバイトはクリニックの診療が終わってから行きますが、在宅診療所ではオンコールがなければ寝ていればいいので、負担はそれほど大きくありません。そうやって副収入を得ることで何とか食いつなぎ、クリニックを継続した結果、今ではかなり患者さんが増えて法人化も視野に入っています。

 

■まとめ

●医療モールの空きスペースに入るなら事前調査が必須。

●コンサルタントのささやきに乗って借金をすると痛い目に遭う。

●理想を描いた事業計画書は役に立たない。

協奏会計・税理士事務所 代表税理士

代表税理士。慶應義塾大学商学部卒業。大手医療専門税理士法人の勤務を経て協奏会計・税理士事務所を設立。
顧客の100%が医師・医療機関である。積極的な節税提案で勤務医・開業医のライフプランをリタイアまでサポート。塾講師の経験を活かした楽しく分かりやすい説明が好評。

著者紹介

協奏会計・税理士事務所 パートナー税理士

パートナー税理士。慶應義塾大学法学部卒業。関東信越国税局で税務調査官として活躍。
100件以上の調査経験に基づく実践的な知識で、税務調査では顧客の強力な盾となる。顧客の立場に立ち、誠実で柔軟な対応に定評がある。

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