末期がんの母に後見人!? 強欲な叔母が見せた「不審な動向」とは

大切な家族との別れが近づいているというセンシティブな状況にありながら、遺産目当てとも思える親族からの横槍が…。このような状況に苛立ち、苦しむ人は少なくありません。今回は、病床の母親の財産に近づく親族に悩まされる事例を司法書士が紹介します。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

実の娘が、病床の母の資産状況を把握できないなんて…

いつかは訪れる大切な親との別れの日。そして、どんなにつらくても、同時に考えざるを得ない「相続」のこと。しかし、別れの時間が迫った親の資産について、実子以外の親族がウラであれこれとかぎまわり、よからぬ画策している気配があったら…。今回は、ある女性の事例をご紹介します。

 

*   *   *   *   *

 

「今回ご相談したいのは、私の母についてです」

 

とある司法書士事務所を訪れたA子さんは、暗い面持ちでそう話しはじめました。

 

「わが家は私が小学校低学年のころに父を亡くし、以降は母子家庭として、母一人子一人で生活してきました。母は会社員としてずっと地元の印刷会社に勤め、私は母のおかげで奨学金を受けずに短大を卒業しました」

 

「なるほど。すばらしいお母さまですね」

 

司法書士の言葉に、A子さんは一瞬誇らしげな表情浮かべてうなずきました。

 

「はい。そんな大切な母ですが、現在は末期の肺がんの宣告を受け、余命半年といわれておりまして…」

 

「それはお気の毒な…。とてもご心配ですね」

 

「ええ。私も家庭がありまして、母とは別居しているのですが、ここ数ヵ月は頻繁に実家と病院を行き来して、母の面倒を見ています。ただ最近、脳に転移したがんの治療のために放射線をあてたところ、痴呆に似た症状が出てしまい、介護認定を受けることになりました。もうすぐ介護施設へ入所する予定なんです」

 

悲しいことだけれども、余命半年といわれた以上、相続のことも考えなくてはいけない…A子さんはそう考えました。A子さんのお母さまの主な資産は、若くして亡くなったお父さまが残し、A子さんも結婚するまで暮らしていた郊外のマンションです。あとは老後のために、数百万円の預貯金等を持っているとA子さんは聞いていました。

 

しかし、お母さまが入院したあとにくわしい資産状況を調べようとしたところ、思わぬ問題が発覚したのです。

 

「じつは今現在、私には母親の財産の現状が一切わからないんです。母親の妹、つまり叔母が、私に何の断りもなく勝手に司法書士を母の後見人にしていまして…。話し合おうにも『施設のお金は一切心配ないから』の一点張りでして…。実の娘である私に、母親の経済状況を知る権利や術はないのでしょうか?」

 

A子さんと叔母が抱えている問題はそれだけではありませんでした。聞けば、A子さんの祖父母が亡くなったときから、トラブルの種があったのです。

 

「母と叔母は二人姉妹です。祖父母が続けて亡くなったとき、叔母はものすごくごねて、遺産の大半を自分のものにしたんです。母は荒れまくる叔母の対応に疲れてしまって、おしまいにはもう、話をする気力もなくしてしまって…。ですが、あの遺産の半分が母のものになっていれば、母はずっと楽ができたはずですし、ひょっとしたら病気にだってならなかったかもしれないと思ってしまうんです」

 

「そんなに大変なことがあったんですね」

 

そのうえ、A子さんは最近、実家で母親の生命保険の契約書が更新されているのを発見しました。もともとは契約が母親、受取人がA子さんのはずでしたが、契約者が叔母に変更されていたのです。契約者が叔母に変更になった、ということは、受取人も叔母の好きにできるのではないか…。A子さんはますます不安になってしまいました。

 

「それで、今日ここに来ました。このままでは、母の財産のすべてが叔母のものになってしまうのではないかと。葬儀代の支払いだけ全部私に押し付けるなんてこと、あの叔母ならやってのけるでしょう。ですが、そもそも娘の私がいるのに、叔母がこんなに好き勝手するなんて。母の全財産を奪われてしまう可能性はないのでしょうか」

 

「それはご不安でしょう。ひとつお聞きしてもよろしいですか? お母さまは遺言書を書かれていませんか?」

 

「はい。遺言書はあります。遺産は私と、婿養子である私の夫の二人で分けてください、と書いてあります」

 

「わかりました。すべてご説明しますよ」

 

司法書士は大きくうなずき、説明を始めました。

なぜ叔母が、成年後見を申し立てることができたのか?

「まず、お母さまの経済状況の確認ですね。これは、後見人に問い合わせれば、財産状況を答えてくれると思います。裁判所が監督しているので、お母さまの財産が浪費されることはないと思います。ただ、後見人がつく前にお母さまから叔母さまへの不自然な財産の流れがあれば、後見人に相談してみてください」

 

「でも、私という実子がいるのに、叔母が勝手に後見人をつけるなんてこと、できるのでしょうか?」

 

「成年後見人を付される本人のごきょうだいなら、家庭裁判所に後見人の申し立てをすることは可能です。ですが、本人にお子さんがいらっしゃる場合、裁判所はお子さんに同意書を出すことを求めますので、子どもが関与しないで勝手に後見人がつくことはありません」

 

「では、どうして…?」

 

「このような場合、なにかの機会に同意書を書いてしまって、後見人の手続きが進んでしまうこともあります。思い当たることはありませんか?」

 

「そういえば、母の入院手続きのときや、介護認定の調査のとき、叔母が動き回ってあちこちから書類を集めていました。何通か書類を持ってきて、サインや捺印をした記憶があります。そのときは、私も気が動転していたので、確認が甘かったかもしれません…」

 

「そうなんですね。…言い方は悪いのですが、叔母さまにうまく言いくるめられて同意書を書いてしまったり、そうでなくても、A子さんがほかの同意書と勘違いしてしまうといったことがあったなら、起こりえることではあります」

 

「…………」

生命保険の「契約者変更」手続きは容易なのか?

「そして、生命保険についてですが…。保険会社ごとに対応が分かれると思いますが、契約者が叔母さまになっているのなら、受取人を変更できる可能性があります」

 

今回の保険契約の変更とは、下記のようなものでした。

 

【変更前】

契約者=母
被保険者=母
受取人=A子さん

 

【変更後】

契約者=叔母
被保険者=母
受取人=??

 

「では、保険の契約者の変更は、契約者である母の意思があれば、簡単に行えるものなのでしょうか?」

 

「新旧の契約者と被保険者の同意、保険会社の同意が求められますが、契約者=被保険者だと、あまり意味をなさないでしょうね。保険会社も書面審査だけなのか、担当者が面談で本人確認をするか、保険会社により扱いが違うこともあると思いますので、契約している保険会社の書類や、ウェブサイト等の情報をよく調べてみてください。契約の変更ができる可能性はあると思います」

 

「では、保険金の受取人も…?」

 

「死亡保険金受取人になれるのは、戸籍上の配偶者または被保険者の2親等以内の血族に限定している保険会社が多いようです。会社によっては、内縁関係者や同性パートナーも受け取れるところもあります。叔母さまはお母さまの2親等ですから、受取人になれる可能性が高いですね」

 

「やっぱり…。帰ったら、確認してみます」

 

口元をかたく引き締めて、A子さんはメモを取りました。

 

「ぜひそうしてください。最後に、叔母さまがお母さまの遺産を相続できるのかどうかですが、お母さまにはA子さんというお子さんがいる限り、叔母さまには相続する権利はありません。遺言書等に記載があれば別ですが、それも『遺産はA子さんとA子さんのご主人にすべて残す』という内容とのことですから、心配ありません。ただし、お母さまが亡くなるようなことがあったら、遺言書を使って速やかに遺産の名義を変更してください」

 

「…わかりました。ありがとうございます」

 

A子さんは疲れ果てた様子で、司法書士事務所をあとにしました。

 

遺産相続はできるだけ平和に終わらせたいものですが、親戚の介入など思わぬ横やりが入り、トラブルに発展するケースは少なくありません。また、被相続人の資産状況や保険契約の内容が、相続人の認識と異なっていることもあります。大切なご家族のお別れが近いというセンシティブな状況において、大変つらいことですが、近い将来相続が発生する可能性があるなら、なおさら早めの現状確認と対策が不可欠です。被相続人が亡くなってからは対処しようがないことがあるからです。

 

 

菱田 陽介

菱田司法書士事務所 代表

 

髙木 優一

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長

 

 

菱田司法書士事務所 代表

東京都生まれ。明治大学法学部卒業。都内の司法書士事務所で経験を積み、のちに菱田司法書士事務所に移る。相続、遺言、不動産に関する案件を多く手掛けている。

菱田司法書士事務所は、東京都大田区大森で85年以上にわたって相続の問題を扱っている老舗。現在の代表は4代目に当たる。

菱田司法書士事務所ウェブサイト:https://hishida-jimusho.net/

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談室(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

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