あなたを軽蔑します…妻が遺言書に「夫への恨み」を記したワケ

遺言書の中で、法的な面ではなく、家族に伝えておきたいことなどを注記するものを「付言事項」といいます。終活という言葉が広く認知されるようになり、相続対策のために遺言書を残す人は増えたものの、この付言事項を疎かにしてしまっては、残された家族に「自分の本当の気持ち」が永遠に伝わらなくなってしまいます。そこで本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏が、実際の事例をもとに、付言事項を残す大切さを解説します。

付言事項では愛する人への思いを率直に伝えるべき

付言事項では、配偶者や子供など愛する人たちへの率直な思いを何らかの形で伝えておくことが望ましいでしょう。

 

故人が残した思いは何らかの形で残された人たちにも引き継がれていくことになります。それが残された人の新たな、しかも前向きな方向へと向かう人生のステップにつながるきっかけともなるでしょうし、さらにはその人が社会に働きかけていくという形で、社会が動き変化していくことに結び付くことになるかもしれません。

 

人の思いは、そのような意味で、残された人たちに伝えられることによって、この世界に生き続けていくことになるのです。

 

付言事項は、その人が残す文字通りのラストメッセージになります。だからこそ、型通りの、紋切り型の言葉ではない、自分の言葉でありったけの思いを伝えてほしいと思います。普段は使わないような言葉、気恥ずかしいと思うような言葉でも構わないでしょう。

 

たとえ、そのような言葉を使っても、「お父さんは意外とロマンチストだったんだな」と子供達はむしろ評価してくれるはずです。あるいは、「さすがお父さんだ。最後に締めるところはしっかりと締めてくれた」と思うかもしれません。最後まで格好いい親だったことを、子供は誇りに思うはずです。

 

そして、人はいくつになってもほめてもらいたい、自分の存在を認めてもらいたいという気持ちを失わないものです。いや、むしろ、子供のときと違って、ほめられるような機会が少なくなるだけに、なおさらそのような思いを抱くようになるものです。ですので、少しでもほめられるところがあるのならば、最後に付言事項でいっぱいほめてあげましょう。ほめられる者にとっては、それが最後の機会となるのですから。

付言事項ではネガティブな思いを伝えても構わない

もっとも、付言事項では、愛情や感謝のようなポジティブな思いだけを伝えなければいけないというわけではありません。場合によっては、逆に、生きている間には言えなかったような、恨みつらみ、不満といったネガティブな思いを伝えても構わないのではないかと思います。

 

例えば、次のような事例はいかがでしょうか。

 

そのお宅には被相続人と妻、それから2人の子供がいました。そのうち長男夫婦が暮らしている住まいは、被相続人の所有する隣地に建てられていました。しかし、被相続人と長男夫婦は大変折り合いが悪かったようです。

 

すぐ隣に両親の家があるにもかかわらず、長男が訪れることはほとんどなく、まれに来ることがあっても金銭の無心をするだけで、ましてや仏壇にお参りをするようなことはありませんでした。「無心」の“心”とは、「遠慮」や「人の気持ちを思いやる」心のことであり、思いやる気持ちもなく、無神経に金品をねだるという意味なのかもしれません。

 

また、長男の妻の方は1年以上足を運ばないことも珍しくありませんでした。しかも、長男の妻の希望でお互いのプライバシー確保のため、長男の家と両親の家の境界上には2m近いフェンスが造られており、お互いに行き来ができないようになっていました。どうも「視線が合うのが嫌、こちらには好き勝手に来ないでほしい」という長男夫婦の意思の表れだったのでしょうか……。

 

あるとき、父親が病で倒れたことがありました。本来であれば、隣に住んでいる長男夫婦に連絡をするのが自然ですが、近所の知人に助けを求め、救急車を呼んでもらったそうです。

父は長男に対する恨みつらみをノートに記録していた

これほどまでに長男夫婦との間柄が険悪であったことから、被相続人は自分が亡くなった後に妻がさらに邪険にされることを恐れました。そこで、それを防ぎたいと、遺言書を作成することにしたのです。

 

私は、遺言書には付言事項を書くように勧めているので、このときも、子供への感謝の言葉などを記すよう促したのですが、「感謝など全くしていないから」と言って父親は頑として拒みました。

 

父親の死後に、どうやら10年以上も前に作成したと思われるノートが見つかり、そこには長男の言動を許せなかったのか、反省を求める批判的なことがたくさん書かれていました。

 

実は、もともと長男の家が建てられた場所には古いアパートが建っていました。そこから家賃収入を得て生計を立てていたことに触れたうえで、「お前たちは一体全体、私たち老夫婦のつつましい生活をどのように考えているのか、全く挨拶もなく、計画も聞かされず、突然のこの話は私たちにとって青天の霹靂である」と、長男が自分の住む家のためにアパートを取り壊し、その結果、収入を失うことへの不安と怒りがびっしりと記されていました。

 

私は、できればノートのコピーを取って長男にも見てもらえるよう、母親と次男に提案してみました。そこに書かれていた思いこそが、まさに父親が一番長男に伝えたかったことに違いないと強く感じ取ったからです。しかし、母親と次男は私のこの言葉に反応を示さず、結局、長男がそれを目にすることはありませんでした。

 

確かにノートに書かれていたことは、読む者にとって決して気持ちの良いものとはいえません。ですが、そのようなネガティブな内容であっても、当人の反省を促す効果はあるかもしれません。それを読むことによって、長男の母親への態度が変わる可能性もあるでしょう。

 

あるいは、父親はノートに書いていたことを、長男に対する戒めとして、付言事項に残してもよかったかもしれません。例えば、「あのとき、お前はこう言ったよね。私に対する約束は守れなかったけど、母の面倒は絶対に見てほしい。お前がぜんぜん顔を出さないことを僕は寂しく思っていた。これからお前の母さんは一人になるのだから、僕に対してできなかったことはお母さんにしてほしいと願っている」などと。

 

長男に血が通っているのであれば、それによって心動かされるものがあったのではないかと今でも思っています。

 

実は、父親の遺言書には長男に現在の住居の敷地を相続させると記され、付言事項にはたった一言、「敷地を相続させる代わりに、残されたお母さんを大切にしてほしい」とだけ書かれていました。父親としての最後の望みを託したにもかかわらず、長男はその敷地を相続した後、投資に失敗、多額の借金を負ってしまったそうで、相続した土地は結局1年も経たないうちに他人の手に渡ってしまいました。

亭主への恨みを付言事項で残した女性

また、実際に、激しい恨みつらみを書き綴った付言事項の例として、強烈に記憶に残っているものがあります。Aさんという女性が夫に残した遺言書のケースでした。Aさんは真面目に一つの会社を勤め上げた方でしたが、親から引き継いだ遺産と合わせて相当の資産を所有していました。

 

実は、その中から、事業をしている夫の親に頼み込まれた末、数千万円を貸し出していました。ところが、夫の親は結局会社を倒産させ、借りたお金をAさんに返済しないまま亡くなってしまいました。

 

その借金については、夫の兄弟も連帯保証人になっていました。親の会社が倒産したとしても、連帯保証人である夫の兄弟には返済義務があるのですが、借金については素知らぬふりをして、親の死後、何事もなかったような様子で債権放棄の合意を求めて接してきたそうです。

 

会社の整理に伴い、夫とその兄弟に何度も懇願されたことから、結局Aさんは、その合意書に無理やり署名押印させられ、貸したお金をあきらめたそうです。このような夫側の親族の無責任で他人事のような白々しい態度に不満と怒り、嫌悪感を持ったAさんは、「このままでは死にきれない」と弁護士事務所を訪れたそうです。

 

その女性の願いとは、もしも夫より先に自分が亡くなった場合、夫にこれ以上自分の財産が渡らないようにしておくことでした。前述のように、Aさんが親から相続した遺産の多くがすでに実質的には夫とその親族に使われていた状態になっていたのです。

 

そもそも、Aさんは、自分の親から相続した財産は一時的に自分が預かっているにすぎず、次世代に承継していくものとお考えで、万が一の場合、これ以上、自分自身の「家」のお金が、夫の側に渡ってしまうのは許せないという思いがあったそうです。

 

そこでAさんは、自分が夫より先に亡くなった場合は財産のほとんどすべてを自分の子供と自分の親の姉の子供、つまりは伯母の子供に相続させることを可能とする内容の遺言を残すことを望みました。「伯母の子供に……」という理由は、かつて伯母がAさんの母親の世話をしてくれたため、それに少しでも報いたいという思いがあったようです。

せめて夫が感謝の思いを示していたら…

一方、夫に対しては、一切の財産を相続させないという意向でした。もちろん、夫には遺留分がありますので、このような遺言を残したとしても、請求する権利があります。そこで、付言事項は、夫が遺留分の権利を行使する可能性にも配慮して次のような文面にしたそうです。

 

「あなたは私が私の実家から預かった大切なお金を無駄にしてしまいました。あなたたちのご兄弟がそれを忘れて、何事もなかったかのように生活を送っていることは、私にとって許せないことです。本来であれば、私に返すべきお金を返しもしないで……。結論として、私があなたより先に亡くなったら、あなたには私の財産は一切相続させません。もし遺留分減殺請求を私たちの長男に行使したら、死んでも私はあなたを軽蔑します」

 

一方、伯母に対しては、心からの感謝の思いが綴られていました。夫は、このAさんになぜこれほどまでの恨みを抱かせてしまったのでしょうか。もしかすると、夫が妻であるAさんに対して感謝の気持ちを少しも示そうとしなかったからなのかもしれません。

 

夫はまず一言、「お前のおかげで本当に助かった。ありがとう」と言って頭を下げればよかったのでしょう。さらに、家を継いでいる兄弟には、父の借りたお金を妻に対して代わりに返済するように働きかける姿勢を見せることも必要だったのでしょう。

 

結局、夫の不誠実な態度に対し、先のような付言事項を女性に書かせることになったのだと思います。2年後にご主人は亡くなってしまったそうで、Aさんは今、長男夫妻と同居して、のんびりと過ごされているとのことでした。

君に会えたことが僕の人生で一番素敵なことだった

最後に、私が今までで一番素敵だと感じた付言事項の例をご紹介しましょう。遺言者である男性は、年齢がふた回りほど離れていた女性と籍を入れないまま暮らしていました(恐らく、前妻と子供への配慮からでしょう)。死を意識し始めた頃に、「今自分の生活を支え面倒を見てくれている彼女にマンションを渡したいので生前贈与をしたい」と贈与税などに関するサポートを依頼されました。

 

その際に、死後、彼女に伝えたいことがあるということで、いわば付言事項の形でメッセージを作成したのです。そこには、次のような一節が記されていました。

 

「この年で本当だったらこんなことは言えないし照れくさくなるけどね、でもやっぱり君には伝えておきたいことがある。最後に君に会えたことが僕の人生で一番素敵なことだった。僕は君に恋をしているのだ。本当に素晴らしい時間を共有できた。心から、ありがとう」と。

 

これを読めばお分かりのように、完全に女性へのラブレターになっているのです。彼女が男性の死後、挨拶に来られたときに読ませてもらったのですが、「ああ、いい文章だな」と心底感動しました。女性も本当に嬉しそうでした。この男性のように書くのは照れくさいかもしれませんが、奥様など愛する女性に対しては、これくらいのことを書いてもよろしいのではないでしょうか。

 

何度も繰り返しますが、付言事項は自分の思いを伝えられる最後のメッセージになるのですから。

大坪正典税理士事務所 所長 税理士

神奈川県横浜市出身。相続、事業承継、都市開発、企業再生支援業務などを中心に携わる。他士業とのコラボレーションによるワンストップサービスを提供。著書に『もめない相続ABC』(共著、日本相続新聞社)、『はじめての相続・贈与』(共著、明日香出版社)などがある。

著者紹介

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大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

最新事例を追加収録! 「長男だからって、あんなに財産を持っていく権利はないはずだ」 「私が親の面倒を見ていたのだから、これだけもらうのは当然よ」……。 相続をきっかけに家族同士が憎しみ合うようになるのを防ぐ…

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