認知症となった高齢未亡人…近居の親族が引く「貧乏クジ」

近居の親族が年を取れば、近くに住む親族は気にかけ、ときには手を貸すこともあるでしょう。しかし、なし崩し的にサポートを続けると、いつの間にかそれが「役割」となり、自分たちの生活に大きな影響を受けることがあります。このような問題への対処はどうすべきなのでしょうか。相続問題に明るい弁護士がやさしく解説します。※本記事では、その具体的な内容を事例をもとに見ていきます。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

高齢の伯母に、自宅を売って施設に入ってほしい

最近では親族のつながりが希薄になり、おじ・おば、おい・めいといった親戚づきあいをしないケースも多くあるようです。とはいえ困った親族に「知らん顔」を決め込めるかというと、そうはいかないのが実情でしょう。

 

ある日、A子さんという中年の独身女性が事務所を訪れました。

 

「母方の伯母のことで、ご相談させていただけないでしょうか?」

 

「どうなさいましたか? くわしくお聞かせください」

 

お話をお伺いすると、A子さんのお母さんの長姉に当たる伯母さまは、未亡人でお子さんがなく、これまではご主人が残した郊外の一軒家で静かに生活されているそうです。ただ、最近は認知症が進行するとともに、要介護1の認定も受けたそうなのです。次第に物忘れがひどくなり、このままではひとり人暮らしできなくなるのも時間の問題だと、ケアマネージャーさんに言われてしまいました。

 

A子さんのお母さまの、ほかのごきょうだいのお話をうかがうと、ほかにも伯父さま、伯母さまがいらっしゃったそうですが、みなさんすでに亡くなり、数人いるいとこたちともずっと絶縁状態で、連絡先すらわからないとのことでした。

 

「では、その伯母さまとお付き合いがあるのは…」

 

「私と母だけです。これまでも付き合いがあったのはうちだけですし、いまも伯母の介護の手伝いは私と母で行っています。私には妹がいますけれど、遠方に嫁いでいて、義父母の介護をしているので、とてもではないですが伯母の世話まで頼めません。母はまだ元気ですが、もう80歳近くて無理がききません。私は自営業の仕事もありますし、ここ数年はこの伯母に振り回されっぱなしで…」

 

「それは大変ですね。ところで、いろいろな費用が発生すると思いますが、そちらはどうなさっているのでしょうか?」

 

「持病によるちょっとした入院費用や、ヘルパーさんに支払う費用として、伯母の預貯金を私が預かっています。それで今はなんとかなっていますが…」

 

A子さんは一瞬言葉を切ると、居住まいを正して口を開きました。

 

「本当は、伯母が存命のうちに、伯母の家を処分して、そのお金で施設に入ってほしいんです。でも、ずっと自宅で暮らしたいとかたくなになってしまって、むずかしいのです」

 

「なるほど」

 

「でも、もしこのまま伯母が亡くなるようなことになったら、一体どうしたらいいのでしょうか。預貯金と自宅を、音信不通の相続人で分けるなんて。それに、絶縁状態の親族と、またかかわりを持つのはいやなんです。それならいっそのこと、知らん顔をしている親族に連絡しないで、面倒をみている私と母だけを相続人にできたらと思うんです。そういった手続きする方法は、ないのでしょうか?」

 

伯母が健康なうちに「遺言書」を書いてもらえれば…

A子さんは、自分と同じ立場にいる親族がみんな知らん顔をしているのに、自分とお母さまだけが伯母さまの面倒を見ざるを得ない状況に、かなり不満を募らせている様子でした。

 

A子さんは伯母さまのために仕事にも影響を受け、高齢のお母さままでも大変な思いをされています。A子さんの気持ちはとてもよくわかります。そしてまた、お子さんも配偶者もない伯母さまには「遺留分(法律上で相続人に保障されている、一定割合の相続財産のこと。配偶者と子どもは「遺留分権利者」となります)」のある相続人がいません。そのため、伯母さまが遺言書を書けば、A子さんの希望通りにできるはずなのです。しかし、そこには問題があります。伯母さまに下された「認知症」の診断です。

 

「ほかの相続人の方々には『遺留分減殺請求権』というものがありませんから、本来でしたら、伯母さまに遺言書を書いてもらえれば、A子さんとお母さまが伯母さまの財産をすべて相続することができます。ですが、この伯母さまは認知症の診断が下りて要介護1の状態とのことですから、遺言能力がないと判断されてしまうと思います。そうなると、伯母さまが亡くなったあとで、法定相続人間で法定相続分に応じてわけるか、話し合いで相続分を決めるかになるかと思います」

 

「そうなんですか…」

 

「施設に入ることを前提にお話しますと、持ち家を亡くなる前に処分しておきたいというのであれば、「法定後見」といって、判断能力がすでに低下している方のための制度があります。家庭裁判所から選任された後見人が、ご本人に代わって財産や権利を守り、ご本人を法的に支援するのです。この申立をして、後見人を選任してもらい、財産管理をしてもらうというかたちになります。ただ、伯母さまの場合は持ち家ですので、それなりの事由がない限り、処分は厳しいですね。ここは後見人と裁判所の判断になってくるかと思います。このたびのお話の場合は、正直、事前の手立てはないように思われます。本当に残念ですが…」

 

肩を落としてお帰りになったA子さんには、本当に気の毒なお話ですが、世話をする側もなし崩し的にかかわってしまうと、気がついたら引くに引けない立場に立たされ、なおかつ何のメリットも得られない「貧乏クジ」としかいえない状況に陥るリスクがあるのです。

 

もう1点付け加えるなら、この状況で伯母さまの預貯金を使っていると、いざ相続になった場合、他の相続人から申し立てを受ける可能性も考えられます。

 

この事例のように、被相続人が認知症になる前に、相続トラブルの芽はしっかりと摘んで、遺言書の作成や自宅売却の検討など、取れる対策を立てておくことが重要なのです。

 

 

稲葉 治久

稲葉セントラル法律事務所 弁護士

 

髙木 優一

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長

 


 

稲葉セントラル法律事務所
東京弁護士会 代表弁護士

1976年茨城県生まれ。江戸川学園取手高校卒業。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動。関東学院大学法科大学院卒業。平成24年弁護士登録都内大手法律事務所勤務。平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設。メディアへの出演・法律監修多数。

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

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