黒幕には妻や夫が!? 相続争いで弟や妹の「下克上」が多いワケ

「相続が発生しても、ウチは仲が良いから大丈夫」と考えている人ほど、多大な「争続」リスクを抱えています。というのも、肉親だからこそ、今まで話せなかった本音が出てしまい、絶縁という最悪の結末を迎えてしまうケースが、多発しているからです。そこで本記事では、弁護士兼公認会計士である眞鍋淳也氏の著書『ドロ沼相続の出口』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、一般家庭で起こりうる相続争いについて解説します。

肉親に勝る「怖い争い相手」はいない

はじめは、ささいな感情の行き違いだったのが、いつしか激しく反目し合うようになり、ついには仇のように相手を憎悪しもはや関係の修復が困難になる――「争続」の多くは、例外なくこうした経過をたどっていきます。

 

相続を巡るトラブルがドロ沼の「争続」となってしまうのは、争う相手が全く赤の他人だからではなく、血のつながった肉親だからです。

 

たとえば、同じ家で育った兄弟姉妹のような関係の場合、お互い、「何も言わなくても分かり合える」と思い込みがちです。

 

平時の場合は、確かにそうかもしれません。「血は水よりも濃し」です。たとえ大人になってからは離れて暮らしていたとしても、通じ合うものがあることは間違いないでしょう。

 

しかし、相続を巡って争いが生じるような場合は、もはや異常時です。平時ならわかり合えていた兄弟姉妹であっても、相続争いという常ならざる状況の中では、互いに理解不能な存在となるでしょう。その結果、双方にもたらされることになる「何でわかってくれないのだ!」という不満、いらだちは、相手に対する不信感と怒りの源となるはずです。

 

全くの他人同士であれば、「理解してもらえないのはしかたない」と納得できるかもしれませんが、理解できるはずだという思い込みがあっただけに、「許せない!」という気持ちは募る一方になるに違いありません。

 

そのうえ、ともに生活を送ってきたことがあるだけに、相手を攻撃する材料には事欠きません。

 

「あいつは、昔からああいう性格だった!」

「兄貴には子どものとき、さんざんいじめられた!」

「顔つきが、嫌いだったおじさんにそっくりだ!」

 

などなど……。

 

過去の記憶の中から、相手のマイナス面を際限なくほじくり出し、さらには、無意識の中にため込んできた悪感情や憎しみを顕在化させていく――こうして骨肉の争いは、もはや後戻りのできない地点までまっしぐらに突き進んでいくのです。

権利を主張するのは兄弟姉妹よりもその配偶者

とりわけ、兄弟姉妹間において、兄、姉のように上の立場にあるものが、弟や妹のような下の立場にある者に対して、日頃から、高圧的なあるいは居丈高な態度をとっていたような場合には、争いが格別に激しくなる傾向がみられます。

 

相続をきっかけとして、それまで兄や姉に抑えつけられてきた弟や妹のうっぷんが一挙に爆発するためです。

 

「もう、お姉さんのいうことなんて聞くものか!」

「これまで、黙って従ってきたが、もう我慢しないからな!」

 

などと、弟や妹が従来の上下関係をひっくり返すかのような言動をとり、事態がさらに紛糾するのは、「争続」ではお定まりの展開です。

 

弟や妹が、このような“下剋上”の姿勢をあらわにするような場合、実は、その背後で、その配偶者が隠然たる影響力を及ぼしていることが少なくありません。弟や妹は、はじめは、

 

「長男として家を継がなければいけない、すまんが、○○万円で納得してくれ」

「お父さんは『お前は長女だから、一番多く取りなさい』と言っていたわ」

 

などと理由をつけられて、兄や姉から提示されたわずかばかりの相続分を唯々諾々と受け入れるつもりだったかもしれません。しかし、妻や夫から、

 

「あなた、子どもがこれから大学に行くのにいくらかかると思っているの。もらえるものはしっかり、もらっておかないと」

「お姉さんに甘く見られているんじゃないか、お義父さんの面倒を見てきたのはお前なんだから、本当だったら、あの家を全部もらってもいいくらいなんだぞ」

 

などと諭されたり、たきつけられたりしているうちに、

 

「確かに、もう500万円ぐらいもらってもいいはずだ」

「そういえば、そうね。お姉さんは何もしなかったのに……」

 

というような腑に落ちない思い、さらには自分たちの相続分を減らそうとする兄や姉への不信感が次第に芽生えてくるのです。

 

それが引き金となって、前述したような兄や姉への負の感情が次から次へと現れ、もはや抑えることができなくなってくるのです。

 

相続をきっかけに「家族の仲」が壊れていく…
相続をきっかけに「家族の仲」が壊れていく…

 

ことに、女性が配偶者である場合には、そのような展開をたどるケースが多いように感じます。家系に直接的な影響をもたらすだけに、夫の相続分にどうしても無関心ではいられないからなのでしょうか。

 

私の事務所でも、相談者が男性の場合、奥方を伴って来られる例が非常に目立ちます。

ハンコ代が「遺産分割協議」を難航させる

兄弟姉妹のように濃密な関係がある場合とは異なり、逆に相続人間の関係が希薄であることが、相続トラブルの原因となることもあります。不動産の相続に絡んでしばしば見られる「ハンコ代」を発端とする争いは、その典型例と言えるでしょう。

 

「親の住んでいたマンションにそのまま住み続けたい」などの理由から、相続人の中に被相続人の所有していた家を単独で相続することを望む者がいる場合、遺産分割協議の中で他の相続人から合意を得る必要があります。

 

具体的には、「不動産○○は○○が取得する」といった内容の遺産分割協議書に、各相続人のハンコを押してもらい、登記所に届け出なければなりません。

 

他の相続人が協議書にすんなりとハンコを押してくれるのであれば何も問題はありません。たとえば、相続人が仲の良い兄弟姉妹だけであるような場合には、スムーズに事が運ぶに違いありません。

 

しかし、常に、そのようにうまくいくとは限りません。前述のように、不動産については、その相続を巡り相続人同士で激しく争われることが少なくありません。そのような場合には、「あの家は絶対に渡さない!」といったように、頑としてハンコを押す事を拒む者が現れる可能性があるでしょう。

 

また、相続人の中に、単に血がつながっているだけで全く会ったこともないような親族が含まれているような場合にも、簡単にハンコを押してもらえないおそれがあります。

 

たとえば、亡くなった夫には兄がいたが、その兄もすでに他界しているようなケースは、もしその義兄に子どもがいれば、代襲相続という形で相続人となります。したがって、その場合、妻が夫のマンションを単独で相続したいのであれば、義兄の子どもに、マンションの相続権を放棄してもらう必要があります。

 

もっとも、多くの場合、被相続人の妻は、義兄の子どもと会ったこともない間柄のはずです。

 

そのような他人に対して、一方的に放棄を求める書面を送って、実印を押してもらい、さらに印鑑証明書を添付して送り返すようお願いするのですから、通常は、謝礼等の意味を込めて、いくらかの「ハンコ代」を支払うとの申し出を、あわせてすることになるでしょう。

 

しかし、このような書面を突然、一方的に送られてきた義兄の子どもは、いったいどのような思いを抱くでしょうか。

 

おそらく、「ハンコを押して送り返せば10万円を払うと書いてあるが……言われるがままに押してしまってよいのだろうか?」と怪しんで、通常は、弁護士なり、司法書士なりといった相続に通じた専門家に相談するはずです。

 

すると、相談を受けた専門家は、「代襲相続しているので、あなたはマンションについて持分権がありますよ。立地と規模からして、4000万円ぐらいになるでしょうから、少なくとも1000万円は相続分としてもらう権利があります」などとアドバイスするかもしれません。

 

そうなれば、10万円もらうのと引き替えに、みすみす1000万円を放棄する人はいないでしょう。自分の相続分が支払われない限り、ハンコは押さないと主張してくることは間違いありません。

積年の恨みを「相続」で発散する離婚相手

さらに、この「ハンコ代」は、ハンコを求める相手が、被相続人の離婚した前妻の子どもであるような場合には、このうえもなく厄介でかつ解決困難なことになる可能性が大きくなります。

 

被相続人である夫に離婚経験があり、前妻との間に子どもがいれば、その子どもにも相続権があります。そのため、たとえば亡くなった夫名義のマンションを自らの単独所有とし、わが子とそのまま住み続けようとするのであれば、その前妻の子どもから書面にハンコをもらう必要があります。

 

しかし、前妻の息子の立場になって、その胸中を推し量ると、おそらくは、「親父の再婚相手とその子どもは、自分を捨てた父親と幸せに暮らしてきたのだ」という、嫉妬に似た複雑な思いがあるに違いありません。中には、強い反感や憎しみを向けてくる者もいるでしょう。

 

また、離婚に至った経緯などから、前妻が、元夫である被相続人に対して強い恨みを持っていたような場合や、「うちの子どもはかわいがってくれなかったのに、再婚相手との間に生まれた子どもはあんなに大事にしている……」というような思いを積もらせてきたような場合には、そうした“積年の恨み”を果たそうと、わが子を使って“代理戦争”をしかけてくることもあります。

 

すなわちハンコを簡単に押せないばかりか、子どもがとうに成人しているにもかかわらず「養育費(支払う義務を相続しているのだから)支払え」などと、理不尽な要求をしてくるようなケースもみられます。

 

このような、激烈な恨みを抱いている者を相手にして交渉を行うことは、大変なストレスとなるでしょう。

 

心労の末、ついには、「もうハンコなどいらない……」と住まいを単独で相続することを断念する状況に追い込まれることになったとしても不思議ではありません。

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士
公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』(幻冬舎)、『今すぐ取りかかりたい 最高の終活』(青月社、共著)。

著者紹介

連載幻冬舎ゴールドオンライン人気記事ピックアップ

ドロ沼相続の出口

ドロ沼相続の出口

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税が叫ばれる昨今。ただ、相続で本当に恐ろしく、最も警戒しなければならないのは、相続税よりも、遺産分割時のトラブルです。幸せだった家族が、金銭をめぐって骨肉の争いを繰り広げる…そんな悲劇が今もどこかで起…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧