ビジネスマンの統計入門「前年同月比」「季節調整値」の使い方

商品の販売状況を確認するためには、「先月より売れた」「前年より売れた」というざっくりした見方だけでは不足です。アイスクリームなどの季節性がある商品や、ボーナス支給月など物がよく売れる月の場合は、販売を促進する季節的な要因を取り除いたうえで数字を分析する必要があります。今回は、ビジネスマンがぜひ知っておきたい統計の取り方・数値の分析の基本を解説します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第30回目です。

統計の前年比は季節性がある場合に便利

チョコレートの会社の売上について、好調だったか否かを判断するには、どうすればいいでしょうか。毎月の売上高のグラフを描いてみる、という手はありますが、それだと毎年2月は「好調だった」ということになってしまいますね。

 

2月は、バレンタインデーがあるので、社員が頑張らなくてもチョコレートが大量に売れます。そこで、社長が社員を褒めるべきか叱るべきかを判断するためには、別の材料が必要なわけです。

 

そんなとき、よく使われるのが「前年同月比」です。前年の2月にもバレンタインデーはあったので、前年の2月より売上が増えていれば、今月は社員が頑張ったと考えて褒めてあげていいでしょう。

 

チョコレートほど極端ではなくても、物の売上高には季節性があります。12月はボーナスが出るので、多くの物がよく売れますが、アイスクリーム等は夏の方が売れる、等々です。前年比を使えば、そうしたことを考えずにすむので、前年比はよく使われるのです。

 

しかし、前年比を使う場合には、思わぬ勘違いをすることがありますので、気をつける必要があります。

 

あるとき、石油ショックがあって、消費者物価指数が100から120に跳ね上がり、そのまま120で推移したとします。下のグラフの青い線ですね。これを見れば、何が起きたか誰にでもわかります。

 

しかし、消費者物価指数の前年比のグラフを描くと、赤い線のようになります。これを見ると「石油ショックから1年経った段階で、インフレが収まった」と誤解する人がいるでしょうね。

 

 

 
[図表]物価の推移と前年比の推移

 

じつは、インフレは石油ショックの翌月から収まっていて、物価は「高値安定」をしていたのですが、前年比のグラフを見ている人はそれに気づかなかった、というわけですね。

 

したがって、消費者物価指数のように、季節性が小さいものは、前年比を見るよりも「消費者物価指数のグラフ」を見たほうが、勘違いが少なくてすみそうですね。

季節性が大きい商品は「季節調整値」で確認

では、チョコレートのように季節性が大きいものは、どうすればいいのでしょうか。そうした問題に対応するために使われるのが「季節調整値」です。

 

季節調整値というのは、統計から季節性を取り除いたものです。プロたちは複雑な計算をしているようですが、パソコンでも簡単に作れますから、作り方を示しておきましょう。

 

過去10年分の毎月のチョコレートの売り上げのデータは全部で120個ありますから、その平均を計算します。次に、過去10年間の2月のチョコレートの売り上げのデータは10個ありますから、その平均を計算します。

 

2月分の平均の数字を全体の平均の数字で割ると、「2月は普通より3倍売れる」といったことがわかるでしょう。それがわかったら、2月のデータは3で割ってからグラフ用紙に書き込めばいいのですね。

 

こうやって求めてグラフ用紙に書き込まれたデータのことを「季節調整値」と呼ぶわけです。最近は政府が発表する統計に季節調整値も載っていることが多いので、そのグラフを見ると何が起きているのか簡単にわかるでしょう。

 

去年の8月にオリンピックがあって、テレビがよく売れたとします。今年の8月のテレビの売上高の前年比は、当然ながら大幅なマイナスになります。それを見て、家電量販店の社長が担当者を叱るかもしれません。

 

担当者は、どう言い訳したらいいのでしょうか。ひとつは「2年前の8月、3年前の8月と比べたら、今月の売り上げは減っていません。今月の我々がサボっていたわけではないのです」という言い訳ですね。

 

しかし、季節調整値のグラフを社長に見せるほうが、説得力はあるでしょう。昨年の8月が上に飛び出ていて、それ以外の月のグラフが平坦であれば、とくにサボっている月はないのだ、ということが一目瞭然ですから。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授


久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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