年金2割減報道はウソ!厚労省「公的年金の財政検証」を解説

厚生労働省による年金の財政検証が発表されたことを受け、「年金が2割減る」といった報道が流れましたが、これは明らかなミスリーディングであり、情報の受け手としても、踊らされることがないよう十分な注意が必要です。今回は、厚生労働省発表による、年金に関する財政検証を正しく読み解いていきましょう。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第31回目です。

現役世代に比べ「割負け感が増す」というだけなのに…

2019年8月27日、厚生労働省は、年金に関する財政検証を発表しました。それがマスコミで大きく報道されたわけですが、その際に「年金が2割減る」といった報道が見られました。これは大変なミスリーディングです。

 

マスコミのなかには本当に2割減ると信じているところと、政府を都合悪く見せようとして敢えて2割減ると報道しているところがあるのかもしれませんが、いずれにしても情報の受け手が気をつけるしかありませんね。

 

財政検証は5年に1度発表されるものですが、前回が6月であったのに今回は8月となったため、「7月の参議院選挙前に発表されると与党が困るのだろう。きっと悪い内容に違いない」といった憶測も流れていたわけです。

 

結論からいえば、「内容を熟読すれば与党に都合の悪い事とはいえないが、野党や一部マスコミが与党批判に利用する可能性は十分にある」というものでした。実際、一部マスコミは政府に批判的な報道をしていますね。

 

内容に入る前に明確にしておきたいのは、本稿で「年金額」と記すのは、サラリーマンと専業主婦の2人合計で受け取れる月額のことで、インフレ調整後の数字です。たとえば本稿のなかに「年金額が1割増える」と書いてあれば、「年金の増加率がインフレ率を1割上回る」という意味です。

 

読者のなかには「年金額が増えないなら、インフレ分だけ目減りするということだろう」と心配する人がいるかもしれませんが、それはありませんのでご安心ください。

 

厚生労働省の発表資料には、所得代替率の数字が大きく載っています。これは、高齢者の年金額が現役世代の所得の何%になるか、という数値です。これが、現在の61.7%から、標準的なケースで2047年に50.8%にまで減るというわけです。つまり、現役世代に比べた割負け率同士を割り算しているわけです。

 

そもそも割負け率同士を割り算することにどういう意味があるのか不明ですが、何より「現役世代の所得が大幅に増え、高齢者の年金が少ししか増えないので、割負け感が増す」というのが厚生労働省の資料なのに、「年金が減る」と報道するのはミスリーディングそのものです。

 

ちなみに、報告書は6つのケースで将来の年金を試算しています。下記は標準的なケースⅢ(楽観的な方から3番目)ですが、年金額は現在の22万円から2047年には24万円に約1割増えることになっています。

 

[図表1]2019(令和元)年財政検証の資料 「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」 出典:厚生労働省
 
[図表1]2019(令和元)年財政検証の資料
「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」6ページ
出典:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf

 

さすがにケースⅢは楽観的すぎると筆者は思いますので、ケースⅤ(悲観的な方から2番目)を見てみると、年金は2043年に20.7万円にまで減っています(図表2)。しかし、それでも2割も減っているわけではありません。

 

[図表2]2019(令和元)年財政検証の資料7ページ 「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」 出典:厚生労働省
 
[図表2]2019(令和元)年財政検証の資料
「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」7ページ
出典:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf

 

どう考えても、「年金が2割減る」という表現はミスリーディングなのです。過度に悲観的にならないように、気をつけましょう。

 

ちなみに、自営業者夫婦については、今でも年金が最大13万円ですが、これがケースⅢで2047年に12.4万円に減ってしまいます。自営業者はサラリーマンより苦しいわけですが、それでも2割も減るわけではありません。

重要なのは「年金がいくらもらえるか」という点

高齢者にとって重要なのは「老後に年金が何円(インフレ調整後の数値で)もらえるのか」です。現役世代に割負けているか否かではありません。

 

もし仮に、現役世代の所得が10倍になり、高齢者の年金が2倍になったとすれば、それは素直に喜ぶべきことであり、所得代替率が低下したことなどだれも気にしないでしょう。

 

それならば、所得代替率を計算するのをやめましょう。少なくとも、脚注に小さく書く程度にしましょう。これを大きく書くと、年金が減ると誤解する人や、誤解はしないけれども、あえてミスリーディングなことをいう野党やマスコミ等々が出てくるかもしれませんから。

 

年金の支給額が減るとしても、それは政府が悪いからではありません。少子高齢化が進む以上、高齢者に払う年金を減らすか現役世代から徴収する年金保険料を増やすか、その両方をやるか、という選択肢しかないからです。

 

筆者は、年金が減ったと不満を述べている人には、以下の冗談をいうことにしています。

 

「年金が足りないのは、あなたが長生きをするからです。あなたが長生きできてしまうような薬を作った医者を恨みなさい」

 

冗談ですから真に受けないでほしいですが(笑)。

 

そんなわけで、この問題は「野党が政府を攻撃する材料」とするのではなく、与野党で知恵を出し合って数十年先の年金について考えるものとして扱っていただきたいと思います。

 

野党としては、政府を攻撃する材料を年金以外の所で色々と見つけていただければ幸いです。たとえば筆者は外国人の単純労働者を受け入れることに反対なので、野党にはそれを追及していただければと考えているのですが、いかがでしょうか。

 

ちなみに、年金問題と関連するようですが、「現役世代の所得が伸びないから、現役世代が支払う年金保険料も増えないのだ。だから高齢者の年金が増やせないのだ。現役世代の所得が増えるような経済政策を考えろ」という主張も、全然オーケーなのです。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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