遺産に群がるハイエナ達…一般家庭だから起こる「争族」の恐怖

「相続争いなんてテレビの中の話、うちには関係ない……」と思っている人こそ、実は多大な「争族」リスクを抱えています。そこで本記事では、弁護士兼公認会計士である眞鍋淳也氏の著書『ドロ沼相続の出口』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、一般家庭で起こりうる相続争いについて解説します。

資産の少ない家ほど「対策なし」のノーガード状態

どんなトラブルでも事前に十分な対策をとってさえいれば、防ぐことは決して不可能ではありません。

 

「争族」についても、有効な予防策がいくつか存在します。とはいえ、相続対策は、事柄の性質上、相続を受ける立場の者が主導的に行ったり、あるいは被相続人となる者にあからさまに促すことは難しいものです。

 

たとえば、高齢の親に向かって、「親父も年だから、そろそろお迎えがきたあとのことも考えてくれないと」などとは(たとえ思っていても)実際には、言いにくいはずです。

 

したがって、争族防止に向けた取り組みは、被相続人となる者から自発的に始めることが求められると言えるのですが、そもそも、相続争いという事態が起こりうることへの認識を欠いている人も少なくありません。

 

たとえば、「相続争い? わが家には、資産らしい資産などないのだから無関係な話だ」と思い込んでいるようなタイプの人は、相続対策の必要性など、はなから感じていないはずです。

 

しかし、このような無警戒な状態で相続を迎えることは非常に危険です。たとえ、わずかな額であっても、財産がある以上は、高い可能性で相続争いが起こると思っていたほうがよいでしょう。

 

相続人の置かれている立場は様々です。中には、100万円、いや数十万円の金銭であっても、もらえるのであればもらいたいという人がいるかもしれません。そのような者が相続人の中に一人だけではなく、複数人いれば、少しでも自分の取り分を増やそうと互いに譲らず、なけなしの相続財産を巡って、執着心をあらわに争う事態にならないとは限りません。

 

あるいは、「資産がこれだけしかないのはおかしい。本当はもっとあったのに他の相続人にこっそり渡したのではないか」と邪推する者も現れるかもしれません。

 

そのような疑念が発火点となって、「親父からもらっているだろう。隠してもわかるんだぞ!」「もらってなどいない!」などといういざこざが相続人の間に生まれることもあるでしょう。

 

疑心暗鬼になる相続人たち
疑心暗鬼になる相続人たち

 

逆に、資産持ちの家であれば、被相続人となる者が、死後の「争族」をおそれて、十分な相続対策を行うことが多いかもしれません。その結果、相続を巡る争いを防ぐこともできる、あるいは発生したとしても、ドロ沼化することは免れることができるかもしれません。

 

しかし、資産の少ない家では、相続人たちが無防備のままに、いわば「ノーガード状態」で、争いの火種にさらされることになるのです。

背負う覚悟でいた住宅ローンがなくなっていた!

相続争いは、被相続人の資産が少ないどころか、むしろマイナスだったと言える場合にも発生することがあります。

 

マンションや一戸建てを購入するとき、ほとんどの人は、頭金を数百万円から数千万円用意して、残りは銀行等の金融機関から住宅ローンを借りるはずです。その額は、通常、数千万円単位になるでしょう。

 

そのため、住宅ローンを背負っている状態で、しかも、他に見るべき資産もないような家では、「自宅はあるがたんまりローンが残っているから、全体で見れば資産はマイナスだ」と思い込んでいるのが一般的です。

 

ところが、このような家庭を、被相続人がなくなったあと、誰もが思っていなかったような成り行きが待ち受けていることがあるのです。

 

たとえば葬式のあと、個人を偲びつつ、残された家族が「お父さんは、よく『住宅ローンを払うのは本当に大変だ』とぼやいていたね」「これからは私たちが、代わりに支払っていかないと……」などという会話を交わしていたとしましょう。

 

そこに銀行から、突然「住宅ローンはなくなりました」などという知らせがきたら、どんなに驚くでしょうか。そして、続いてローンが消滅した理由を教えられたときに、それまで忘却の彼方にあったある重要な事実が脳裏に蘇ってくるはずです。

 

故人が「団信」に入っていたことを。

団信が「争族」をもたらす悲しい皮肉

金融機関が住宅ローンを貸す場合、通常、債務者は、団体信用生命保険(団信)に加入させられます。債務者が死亡した場合に、この団信から生命保険金が支払われ、それによって住宅ローンが完済される形となっているわけです。金融機関の立場からすれば、ローン債権をスムーズに回収することを可能にする仕組みと言えるでしょう。

 

この団信の保険料を支払っているのはローンの貸し手である金融機関であり、一般の生命保険などのように毎月、預金口座から引き落とされるというわけではないために、その存在を意識することはほとんどありません。

 

そのため、団信に入っているという事実は忘れられがちであり、前述のように、住宅ローンを支払ってきた親や配偶者が死亡したときに、団信でローンが完済されたことを伝えられて、はじめてその存在を思い出す――などということは、決して珍しいことではありません。

 

いずれにせよ、団信のおかげで、適切な言い方ではないかもしれませんが、相続人は思いもかけぬ“僥倖”を得ることになります。

 

たとえば、被相続人が購入したマンションにまだローンが4000万円残っていたと思っていたのに、それがゼロになるということは、いわば突然、4000万円の資産がまるまる目の前に現れたようなものなのですから。

 

しかし、好事魔多しではありませんが、相続トラブルは、このような場合に発生することが非常に多いのです。

 

被相続人にはさしたる資産がないと思い、それまでは相続財産に全く無関心だった遠い親族の中から、「その不動産には、自分も権利をもっているはずだ!」と声高に要求してくる者が現れるかもしれません。また、見ず知らずの第三者が、「自分は被相続人にお金を貸していた。その不動産を売って借金を返済してもらいたい」などと詰め寄ってくることもあります。

 

当然のことながら、被相続人はこのような事態が起こるなどと全く予期していなかったのですから、何の対策もとられていません。

 

相続人は、前述した「ノーガード状態」で、ハイエナのように不動産を狙う者たちを相手に、厄介なやり取りを強いられることになるのです。その対応を誤れば、せっかくローンのないまま手に入れた不動産を失うことにもなりかねません。

 

本来、団信は一家の大黒柱が亡くなったときに、不動産という大きな資産を遺族に残す非常に大事な役割を果たすもののはずです。それが逆に、遺族にトラブルをもたらすことになるのは、何とも悲しい皮肉と言うほかありません。

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士
公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』(幻冬舎)、『今すぐ取りかかりたい 最高の終活』(青月社、共著)。

著者紹介

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眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

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