強欲商人こそ、人類を破滅から救った「英雄」であった!?

コンビニに行けばいつでもパンやジュースが購入でき、インフルエンサーが取り上げた話題沸騰中の人気商品も、入手はさほど難しくありません。つまり、市場には商品が潤沢に行き渡っているわけですが、そこには「人々の欲張る気持ち」が大いに関係しています。今回は、「欲張り」が経済にもたらす好影響について見ていきましょう。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第29回目です。

いつもコンビニでパンが買えるのは、店が欲張りだから

道徳の先生は「欲張りは悪いことだ」と教えるかもしれませんが、経済の先生は違います。「欲張りはよいこと」なのです。もっとも、欲張りすぎると失敗するので、注意が必要です。たとえば儲けようと思って値上げをしすぎると、ライバルに客を奪われてしまったりしかねませんから、適度がいいと思いますが。

 

筆者が空腹のとき、大学近くのコンビニでパンを買うとします。なぜ、筆者がほしいものが手に入るのでしょうか? コンビニの店員が親切だからでしょうか? 違いますね。

 

コンビニの店長が、「パンを仕入れて棚に並べておけば儲かるだろう」と考えてパンを仕入れておいたからですね。コンビニの店長が欲張りでなかったら、「パンを仕入れれば儲かるだろうけれど、面倒だからやめよう。棚が空でも問題ない」と考えたかもしれず、筆者はパンにありつけなかったかもしれません。

 

それ以前に、コンビニの社長が「大学の近くに店を開けば客が来るだろうから儲かるだろう」と考えて出店したから、筆者はコンビニに行けたのですね。もしも社長が欲張りでなかったら、「大学の近くに店を出せば儲かるだろうが、面倒だからやめておこう」と考えたでしょう。コンビニが欲張りでありがたい限りです。

人気商品でも入手可能なのは、生産者が欲張りだから

あるとき、人気アイドルが「アンパンよりメロンパンが好きです」と発言し、メロンパンの人気が高まったとします。日本中でメロンパンが売り切れるでしょうが、心配いりません。

 

少し待っていれば、アイドルのファンはメロンパンを手に入れることができるでしょう。それは、欲張りなパン屋が「アンパンを作る量を減らして、メロンパンを大量に作れば儲かるだろう」と考えてメロンパンを大量に作るからです。

 

このように経済には、人々が好む物は大量に作られるようになり、人々が好まない物は次第に作られなくなっていくメカニズムが働いているわけですが、これも人々が欲張りだから上手くいくわけですね。

 

ちなみに経済学では「人気が出た物は価格が上昇するので生産者がそれを作るようになる」と教えています。「小麦がコメより人気が出れば、小麦が値上がりするだろうから、翌年から農家はコメを作らずに小麦を作るようになるだろう」というわけですね。

 

もっとも、現代の大量生産社会では、価格が変化する前に需要の変化に応じて供給が増減する場合も多いですね。本質的には同じことですが。

庶民が飢饉を生き延びたのは、強欲商人のおかげ!?

江戸時代の飢饉のときにコメを買い占め売り惜しみして大儲けした強欲商人のことをよくいう人は、滅多にいませんね。極悪非道の人非人といった評価が普通でしょう。しかし、経済学の観点から見ると、その評価は違ってくるかもしれません。

 

似たような人は、いつの時代も、世界のどこにでもいるでしょう。そして、もしかすると彼らこそ人類を破滅から救った「英雄」なのかもしれません。

 

江戸時代のある夏のこと、冷夏で不作が予想されました。例年の半分くらいしか収穫できそうにない、ということでした。そこで、強欲商人たちがコメの買い占めを始めました。秋に収穫される予定のコメを買う約束を農家と交わしたのです。

 

コメの買い占めが終わると、強欲商人たちはコメの値段を吊り上げました。例年の4倍の値段を付けたのです。

 

庶民は、例年の4倍の値段で例年の半分の量のコメを買い、空腹に耐えながら、強欲商人たちを恨みながら、1年間を過ごしました。貯金を使い果たし、内職も目一杯頑張って、ようやく生き延びたのです。

収穫が半分なのに、欲張らずに売買してしまうと…

では、強欲商人がいなければ、何が起きていたでしょうか。

 

秋にコメが半分しか獲れなくても、コメの値段は上がりませんでしたから、人々の生活は平和でした。人々は例年通りの値段で例年通りの量のコメを買い、例年通りの生活をしていました。

 

事態が急変したのは、春のことです。昨秋の収穫から半年経過した時、日本中のどこにもコメがないということに人々は気づきました。

 

秋の収穫期までの間に、大勢の餓死者が出そうですが、打つ手はありません。人々は「どうして強欲商人がいなかったのだ」と悔しがりました(笑)。

 

ここで重要なことは、人々が食べたコメの量は強欲商人がいてもいなくても同じだった、という点です。強欲商人の胃袋はそれほど大きくないので、彼等が大量に食べたわけではありません。

 

また、彼等は翌年秋の収穫期までにすべてのコメを売り終えました。翌年秋には買い占めたコメの値段が暴落することを知っていたので、その前に売り切ろうとしたからです。

 

世の中には、本当の悪者でまったく害でしかない人々もいますが、人々から悪者だと思われている人々のなかにも、実は結構役立っている人もいるのかもしれませんね。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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