「兄は人の気持ちがわからない…」親の介護を担った弟の本音

「相続税対策」には十分な注意を払っていても、「争続対策」をおろそかにしている人が少なくありません。「うちは、親子兄弟姉妹みな仲がいいから、相続争いなんて起きるはずがない」などと思い込んでいるのかもしれませんが、それは危険な考えです。そこで本記事では、森田税務会計事務所の森田義男氏が、相続トラブルの事例を紹介します。

事例1:確かな信頼関係を結んだ母親と三人の娘

最初の事例の相続人は、母親と三人の娘です。かなりの資産家で多くの賃貸物件を含めいろいろな不動産があります。そして四人は信頼関係で結ばれた上で、きっちり法定相続分で分けるという話もまとまっています。

 

とはいえ平等である娘三人に関して、具体的に誰がどれを相続するかは、そう簡単にはいきません。まず相続税評価額ベース(相続税額)でほぼ均等にする必要があります。ただし相続財産の中には、高収益物件もあれば今にも大修繕を要する古い賃貸マンション、さらに今では貧乏神とも言うべきリゾート地まであります。これらの実質的な資産価値(収益性・換金性・将来性等)の面も考えなければなりません。とりわけ賃貸収入の税引き後の手取り額には、平等が求められます。

 

そこでいくつかの案、さらには修正案を何度も提示しました。これにより(ピタリとはいきませんでしたが)やっと納得していただくことができました。まさに難しい連立方程式を解くような作業でした。

 

この三人は本当にうらやましいような仲のよさです。不出来な遺産分割で生じるしこりなどで、このいい関係を壊すわけにはいきません。分割の立案にはそれなりのプレッシャーを感じたものです。

 

この作業には広範囲の不動産と税務の知識を要しました。そうした総合力を発揮できたケースとしてこの件をまとめることができたことを、多少誇らしく思っています。

事例2:都内住みの両親を必死に介護した弟

次の登場人物は仲のいい二人の兄弟です。兄はずっと近県の地方都市に住んでいます。そして東京都内の実家の両親は、同居していた弟夫婦が大変な苦労のすえに看取りました。そしてかなり広いその実家は相当の資産価値があります。

 

その兄弟から父の相続税申告の依頼を受けました(母は先に亡くなっています)。当方との打ち合わせはいつも兄弟二人と行います。聞けば「遺産分割はきっちり半分ずつで行う」とのことです。ですから広い自宅敷地も共有です。しかし私は、「介護等で大変な思いをした弟は本当に2分の1で納得しているのか」ということに、当初から疑問を持っていました。

 

ある時やっと弟と二人だけで会う機会がありました。そこでこの疑問をぶつけたのです。すると彼は明るく「問題なし」と言います。しかし、その回答ぶりにはどこか引っかかりを感じます。そこで手を替え品を替え問いただしました。するとついに次のような本音が出てきたのです。

 

「兄は決して悪い人ではないし、私は彼が好きだ。しかし残念ながら兄は人の気持ちがわからない。兄はあっけらかんと『半分ずつ』と言うけれど、私はやはりそれはおかしいと思う。たとえ5%でも、いや1%でも差が付けば納得できる。何より50%ずつでは、長い間あんなに献身的に介護してくれた女房にすまない。しかし、兄弟関係を壊してしまうかもしれないそんな話は、私にはとてもできない」。最後は涙声です。

 

となれば私の出番です。兄と二人になった時に、恐る恐る次のように話したのです。

 

「遺産の確認のためご実家を訪問した際に、『まったくの半分ではちょっと……』とポロッとこぼした弟夫人の声を耳にした。言われてみればそのとおり。だとすれば夫人思いである弟さんも、内心そう思っているに違いない。そこでまったくのお節介だが、体裁でもいいから弟さんの割合を増やされたらいかがか」。

 

兄は一瞬表情を歪めました。しかし、すぐに「それもそうですね」と言ってくれました。そこでその場で、実家の近くにあった狭い底地等の土地を弟の単独相続とし、残りはすべて折半とすることを提案し、その合意を得ることができました(これで弟の配分は約54%に)。その次の打ち合わせの場には、二人はいつもどおりに明るい表情で来てくれたものです。

 

このケースの隠れたテーマは、兄弟による土地の共有問題でした。実は共有となった自宅敷地は売却方針で合意されていましたから、問題はありません(事実、間もなく売却されました)。

 

しかし、自宅近くには底地等の中途半端な土地があります。前々からこの土地の共有は芳しくないと思っていました。こうした賃借人と権利関係が絡む不動産の処理には共有者の意思統一が必須となりますが、その面で懸念が残るからです。

 

ただ先の兄との話で、この点もうまく単独相続とすることができました。今ではこの底地等は、弟の信頼する不動産事業者の手により借地人らとの交渉が進んでいるようです。

事例3:長男夫人への嫌悪感が収まらない姉二人

次はギブアップと言うべき事例です。父が亡くなり、相続人は妻(母)と長男とその姉二人の計四人です。二人の姉は他へ嫁いでおり、実家の別棟に住んでいる長男夫婦が母の面倒をみるという形です(なお、母はすでにかなり思考力が失われている状態です)。となると、最終的には長男がかなりの財産を相続することになりそうなのですが、姉二人はこの流れに強硬に反対します。

 

実は姉は二人とも長男の妻と大変に不仲な関係にあります。何せ長男夫人は、頭と口が抜群に回る上に行動力まであります。長男はこの夫人の尻に敷かれっ放し。姉らは以前からこの点が面白くありません。

 

遺産分割にしても、長男夫人は直接口出しするようなことはしませんが、長男が彼女に指示されたとおりを主張しているということは手に取るようにわかります。こうなるともう理屈抜きです。

 

それまでの姉・弟の仲はそう悪くはなかったのですが、もはや姉二人は弟の言い分のすべてが気に入りません。これでは遺産分割の合意は絶望的です。弟から申告の依頼を受けていた私は、この容易ならざる事態に頭を抱えました。

 

とはいえ、実は私はもめ事は嫌いではありません。長男からの依頼もあり、この全体像を理解した上で仲裁役を引き受けることになりました。仲裁役の鉄則は、誰の味方にもならないこと、そして皆が「なるほど」と思ってくれるであろう着地点を探しておき、そこに誘導することであると思っています。

 

となると(事前の了解を得た上で)、弟と話す時は姉の立場で、逆に姉との話では弟の立場で本音の話をします。その場での折衝はかなり熾烈なものとなります。しかし、「相手の立場の理解」なくして争いの解決はありません。合意を得るにはこの手法が一番だと考えています。

 

そしていろいろと折衝した後、ほぼ合意を見るところまでいきました。ところが残念なことに、少しのことで最終段階で壊れてしまったのです。やむを得ず相続税は未分割のままで申告しました。この件は私の力不足もあって、残念ながら話をまとめることはできませんでした。「感情が前面に出た場合にはもう理屈は通用しない。合意はまったく困難」ということを、今さらながら痛感させられたしだいです。

 

この件は最終的に裁判になりました。何年か経ってからその後の状況を尋ねましたが、未解決とのことでした。どのような判決が出るにせよ、この両者の絶縁状態は長期的に(おそらく最期まで)続いてしまうのではないでしょうか。

森田税務会計事務所 代表

税理士・不動産鑑定士。
昭和23年埼玉県生まれ。昭和47年東京教育大学卒業。同年三井信託銀行入社。16年間の在籍中10年間にわたって不動産業務を担当。その後、同社を昭和63年退社。同年森田税務会計事務所を開設する。資産税(特に不動産の評価・分割)を得意分野とし、二十数年にわたり数多くの相続税対策、申告を手掛ける。主な著書に『はじめての不動産実務入門』(近代セールス社)、『新・間違いだらけの土地評価』(週刊住宅新聞社)、『公示価格の破綻│驚くべき鑑定評価の実態』(水曜社)、『新・嘆きの「固定資産税」物語』『新・怒りの「路線価」物語』(ともにダイヤモンド社)、『相続力』(BKC)等がある。

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