申請件数は約15倍!「新事業承継税制」で何が変わったのか?

日本企業全体の3分の1が後継者未定といわれるなか、政府が事業承継対策に乗り出している。平成30年度税制改正においては、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」が大きく改正された。本記事では、年間300件以上の案件を取り扱う、税理士法人アイユーコンサルティングの七島悠介氏が、事業承継税制の概要を改めて解説する。

中小企業の後継者が「事業承継」をためらう理由とは?

■事業承継税制が導入された背景

 

中小企業の事業承継が社会的に大きな問題となっています。後継者不足によって廃業を余儀なくされるケースが続いており、政府としても、現状の事業承継問題を放置することによるGDPや雇用の損失の拡大が見込まれるため、喫緊の対策が必要とされてきました。

 

中小企業の後継者にとって、事業承継をためらう理由の1つに株式の承継があります。

 

特に、業績が好調な会社や過去の純資産が蓄積している会社ほど、比例して会社の株式の価額が上昇し、株式を承継する際の相続税や贈与税などの税金のコストが大きくなります。そして結果として、贈与税・相続税を払うことが出来ず、後継者が会社の承継を断念する、という結論を出すことも少なくありません。

 

このようなケースによる廃業を防ぐために、政府は平成30年度税制改正において『事業承継税制』の拡充を行いました。改正からはや1年が経ち、この新税制が適用される件数も徐々に増えてきています。

 

そこで今回は、新事業承継税制の概要を改めて解説していきます。

 

■事業承継税制の仕組み

 

事業承継税制については、今回の改正で新たに設けられたものではなく、もともと旧制度として施行されていました。

 

旧制度は、

 

①対象となる会社は中小企業であること(業種に応じて一定の従業員数や資本金の上限の要件があります)

 

②会社を承継させる人・承継する人ともに会社の代表者であること(承継させる人については過去代表者であった、でも可能です)

 

③株式の承継後に経済産業省や税務署へ定期的な報告を行うこと(当初5年間は毎年。その後は3年に1回ずつ報告が必要)

 

④承継した会社の従業員を承継後5年間で平均8割雇用の維持や、承継した株式を継続的に保有すること

 

といった要件を満たす場合には、その株式(発行済株式の2/3まで)の承継にかかる相続税や贈与税が一定割合(相続税は80%、贈与税は100%)猶予され、次世代への事業承継が完了した際にはその猶予された税金が免除される、というものです。

 

平成21年の創設当初は、親族内の事業承継にあたって、非常に画期的な制度として数多く適用されることが見込まれていました。しかし、いざ創設されると、適用にあたっての要件が多く、特に④の従業員の雇用継続要件がネックとなりました。

 

中小企業の経営においては、現経営者がカリスマ的な象徴となっていることも少なくなく、そのカリスマ性で社内の人材がついてきているケースも往々にしてあり得ることです。そのような状態で次世代経営者に承継が行われ、現経営者のカリスマ性が失われた会社の魅力は減り、次世代の経営者とウマが合わなくなった古参の人材が流出する、といった事態も起こり得ます。そのようなケースの場合、④の雇用継続要件を満たすことが難しく、結果として猶予が打ち切りとなってしまうというリスクを嫌う企業も多くありました。

 

以上のような要因により、株式の承継時に本制度の適用は見送られることが多い、という背景がありました。

「10年間の期限付き」で創設された新制度

■新制度になると何が変わったか

 

このような現状から、中小企業の事業承継にあたっての手当てをより拡充させる目的で、平成30年度の改正において"新"事業承継税制として10年間の期限付きで新制度が創設されました。

 

従来の事業承継税制との大きな違いは、以下のとおりです。

 

[図表1]事業承継税制(原則)と事業承継税制(特例)
[図表1]事業承継税制(原則)と事業承継税制(特例)

 

[図表2]事業承継税制(従来)と新事業承継税制(新設)
[図表2]事業承継税制(従来)と新事業承継税制(新設)

 

従来であれば、対象株式や相続税の猶予割合(80%)に上限があったものが、新制度においてはいずれも撤廃されています。また、一番のネックであった、従業員の雇用確保要件も要件としては残るものの、満たせなかった場合でも所定の手続きを行うことで猶予が継続される手当てがされています。

 

あわせて、従来では1人から1人への承継しか認められていなかったものが、新制度では複数から複数への承継が可能となるなど、全般的に制度の緩和が見込め、本制度を適用される方が非常に増えました。現に、中小企業庁が公表している資料でも、従来の制度では年間400件程度の申請だったものが、現在では年間6,000件に迫る勢いであるなど、申請の大幅な増加が伺えます。

 

今回は、主に制度の概要について解説を行ってきました。次回では、事業承継税制の改正後の適用にあたってのメリットのみならず、どのようなデメリットや留意点が生じているのかを解説します。

 

 

七島 悠介
税理士法人アイユーコンサルティング 社員税理士 営業統括

 

税理士法人アイユーコンサルティング 社員税理士 営業統括

2010年に大手税理士法人の福岡事務所立ち上げに参画。相続税申告、富裕層向けコンサルティング、事業承継コンサルティング、組織再編コンサルティングなどの資産税業務を主に担当。

現在、税理士法人アイユーコンサルティングの営業統括として、全国で税理士・金融機関・保険会社・不動産会社向けのセミナー講師を多数務め、相続・承継のスペシャリストとして活躍中。

著者紹介

連載事業承継のプロ集団が伝授!事業オーナー必見の「100年企業」になるための最善策

  • 【第1回】 申請件数は約15倍!「新事業承継税制」で何が変わったのか?

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧