田舎の妹 VS 都会の義姉…嫉妬がもたらした「争続」の行方は?

戦前の日本では、長男が家の財産を引き継いでいた。今は兄弟で等分するのが当たり前となりつつあるが、地方の家や農家ではまだ長男が継ぐ習慣が残っている。エダマメさん(仮名)の家もそのひとつ。兄が農家を継ぎ、兄弟もその相続に納得していた。ところが、長男の妻が相続した遺産で散財を始める。これに怒った兄弟が相続のやり直しを要求。遺産分割協議のやり直しである。丸く収まっていたはずの相続を一からやり直すことになったのだ。

法事をきっかけに兄妹ゲンカが起きた

エダマメさん(仮名)が相談にやってきたのは、7月の暑い日のことだ。彼は50歳手前の男性で、千葉県で10代続くエダマメ農家の次男だった。数日前、スタッフが電話を受けた。兄弟の間で相続トラブルが起きているから相談したいという。それで事務所まで来てもらったというわけだ。

 

「遠いところ、来てもらってすみませんね」私はそう言い、エダマメさんに冷たいお茶をすすめた。「いえいえ。組合の集まりで東京に来ることもあって、今日はその帰りです」エダマメさんはそう答え、お茶を一口飲んだ。

 

「さて、相続のことで相談があるとスタッフから聞いているのですが、詳しく教えていただけますか?」「はい。うちは長々と続いている農家で、兄も私も農業をしています。兄弟は他に妹がいますが、彼女は嫁いで、家事やパートをやっています」「ご両親を含め、ずっと農家だったわけですね」「ええ。父は私が幼い頃に他界しましたが、その後は母と兄が中心となってやってきました。2年前に母が他界し、家は兄が継いでいます」

 

「すると、エダマメさんは?」「私は親戚の農家の養子になり、そちらを継いでいます。うちには男が2人いますが、親戚の家は男の子がいません。そこで跡取りのことなどを考え、私が養子に出ることになったのです。戸籍上は別の家族となりましたが、すぐ近くに住んでいますし、作っている野菜もほぼ同じです。お互いに手伝うことも多いので、一族のようなものですね」「なるほど。妹さんも近くに住んでいるのですか?」

 

「いえ、埼玉です。親戚の集まりなどがある時くらいしか顔を合わせません」「結婚式とか法事とかですね」「まさにその通りです。その法事が原因で、兄と妹がもめているんです」エダマメさんはそう言い、本題に入った。

長男が相続することに納得していた

「先日、母の三回忌の法事がありました。そこで久しぶりに兄や妹と顔を合わせたのですが、兄の奥さんとも会ったのです」「エダマメさんや妹さんから見ると義理のお姉さんにあたる人ですね」「はい。実は妹は、もともと義理の姉とあまり仲がよくありませんでした」

 

「どうしてですか?」「ひとことで言うと、育ちの違いということになるのでしょう。妹は我々と同じ農家育ち。義姉はサラリーマン家庭で育ったひとり娘で、家や仕事に対する価値観に違いがあったんです」「価値観ですか」「ええ。例えば、農家は朝が早いですし、仕事の大半が力仕事です。我々はそういう環境で育っていますし、子どもの頃から家の手伝いをしてきました」「わかります。私の祖父も農業をやっていましたのでね。小さい頃はよく手伝いをさせられたものです」「そうですか。それなら話が早い」エダマメさんは嬉しそうな表情を見せ、話を続けた。

 

「つまり、農業中心で暮らしている家に、土を触ったこともないような都会のお嬢さんがやってきたわけです」「義理のお姉さんにとっては、あらゆることが別世界だったでしょうね」「ええ。今から10年ほど前の話ですが、振り返ってみれば、そのころから妹は義姉と距離を置いていたのでしょう。妹は義姉を家族と認めていませんでしたし、義姉も別に認めてもらおうという気がありませんでした」「義理のお姉さんも農業の手伝いをしていたのですか?」「まさか」エダマメさんは笑い、こう続けた。

 

「農業はしない。そういう約束の上で結婚したようです。結婚後は市役所に勤め、今もそこで働いています」「よくお母さんやお兄さんが納得しましたね」「兄は惚れた弱みなんでしょう。義姉に手伝いを頼むこともありませんでしたし、頼んだとしても手伝わなかったと思います。母は複雑な心境だったと思いますが、その時すでに兄は40歳を過ぎていました。長男がずっと独身でいるよりは結婚したほうがいいと思ったのではないでしょうか」「それでお母さんとお兄さんが2人で農業をすることになったわけですね」

 

「そうです。ただ、母がだんだん高齢になり、畑仕事が厳しくなってきました。そこで、持っている土地の半分を使ってアパートを建てました。農業半分、大家業半分にすれば母の負担も軽くなるだろうと思ったわけです」「なるほど。その後、お母さんが亡くなり、相続が発生したわけですね」「ええ。遺産は土地とアパートでした。あと、多少現金もあったかな」「どのように分けたのですか」「母が亡くなった後で兄弟3人が集まり、話し合いました。とはいえ、結論は決まっているようなものです。農家の慣例で、兄が土地とアパートをもらいました」

 

「エダマメさんと妹さんは?」「何も相続していません。妹は離れたところに住んでいますから土地をもらっても仕方ないですし、嫁ぎ先の家計も安定しています。私も、実は養子になった家が裕福だったこともあって、兄がもらうのがいいと思いました」

 

「そうですか」私はそう言い、立派な兄妹だと思った。おそらく両親の育て方がよかったのだろう。農家にとって土地は命とも言える。兄弟の誰が継ぐにせよ、その子どもが土地を相続する。そういう考え方を、小さい頃から伝えていたのだろう。相続の考え方は家庭教育の中で決まる。たまにでもよいから、親が自分の亡き後のことをきちんと子どもに話していれば、面倒な相続トラブルは避けることができる。それが私の経験に基づく持論だ。

無神経な義姉に妹がキレた

「それで、どうしてもめごとになったのですか?」「法事の時、義姉が派手な格好で現れたんです。その姿を見て、妹が憤慨してしまって」「派手な格好とは?」「ブランド物のバッグを持って、金ピカのアクセサリーをつけて、一言でいうと成金みたいな格好です」エダマメさんはそう言い、煙たそうな表情を見せた。

 

「その格好を見て、妹さんはなんと言ったのですか?」「その場では何も言いませんでした。でも、明らかに不愉快な顔をしていました。妹の夫婦は普通のサラリーマンですから、貧乏ではありませんがリッチでもない。ブランドバッグなどはなかなか買えません。義姉の振る舞いが癪(しゃく)に障ったのでしょう」「まあ、わからなくはないですね」「しかも、義姉はそういうところが鈍感で、これはどこのバッグだとか、フランスに行って買ったとか、そういうこともペラペラと喋るわけです」

 

話を聞きながら、失礼ながら私は笑いそうになってしまった。無神経に自慢話を披露する義姉と、その横で苦虫を嚙かみつぶしたようにして堪える妹の様子が目に浮かんでしまったからだ。

 

「妹さんとしては面白くないでしょうね」「はい。法事が終わった後で私のところに来て、なんなのあれは、許せない、冗談じゃないと怒鳴り散らしました。私だってフランスに行きたい。エルメスだって欲しい。それはもう、すごい剣幕だったんです」「許せない、というのはどうしてですか?」「妹が土地の相続を断ったのは、兄が農家を続けるからです。その点は私も同じで、家を継ぎ、守ってくれていることについて兄に感謝していますし、何よりも、兄は母を最期まで世話してくれました。しかし、蓋を開けてみたら相続した資産で義姉が贅沢三昧しています。それが妹には許せないというわけです」

 

妹の気持ちはよくわかる。家のため、兄のためと思ってしたことが、別の誰かの利益になっている。しかも、その誰かは自分が十年来嫌っている人物だ。そこには女性同士の嫉妬もあるのだろうが、不愉快になるに決まっている。

 

「育ちの差」は埋められない
「育ちの違い」による価値観の差は埋められない

 

「そこで先生に相談なのですが」エダマメさんが改めて切り出した。「何でしょうか?」「相続のやり直しは可能なのでしょうか?」「やり直し、ですか」「はい。妹はそう望んでいます。義姉に湯水のごとく使われるなら、親が残した遺産を少しでもいいから自分の手に取り戻したいと思っているんです」

税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

東京・浅草生まれ。國學院大學経済学部卒業。日本大学大学院・慶應義塾大学大学院修了。又野税務会計事務所勤務を経て、1975年に独立、税理士髙野眞弓事務所を立ち上げ、多種多様な業種・業態の企業の顧問税理士を務める。事業規模拡大に伴い、2016年6月に税理士法人アイエスティーパートナーズを設立。
40年以上にわたり、「税務のアドバイザー」という枠を超えた公私のパートナーとして、多くの経営者の悩みを解決してきた。特に、骨肉の争いに発展しやすい相続税・贈与税等について、一家の思いに寄り添った提案を行い円満相続に導いている。

著者紹介

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髙野 眞弓

幻冬舎メディアコンサルティング

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