毎晩、苦痛で…高齢者の命にかかわる「室温の変化」問題とは?

平均寿命の長い日本において、バリアフリー住宅は一般的になりました。しかし、「温度のバリアフリー」はされていないのが現状です。本記事では、書籍『“健康住宅”のウソ・ホント』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、高齢者が注意すべき「室内の温度」について解説します。

室温の変化が命取りに…バリアフリー住宅の盲点

たとえ寝たきりになっても、病院ではなく住み慣れた自宅で過ごしたいというのが、多くの高齢者の願いです。近年、老後も安心して自分の家で暮らせるようにと、新築時から前もってバリアフリー住宅にすることが当たり前になりました。

 

統計を見ると、わずかな段差につまずいてしまうなど、自宅での転倒事故が後を絶ちません。自宅における死亡事故のうち約20%が転倒によるもので、年齢を重ねるにつれて事故率は上がってしまいます。

 

2015年の人口動態統計によると、家庭内で発生した不慮の事故による1年間の死亡者数は1万3952人。交通事故死のなんと2倍以上にのぼります。高齢者は骨密度が低下して骨がもろくなる「骨粗しょう症」になりやすく、全身の骨のかたさが失われていきます。そのため、ちょっとつまずいて手をついたり、しりもちをついたりしただけで骨折しやすくなります。普通では骨折するとは考えられないことで骨折することが多くなるのが、高齢者の特徴です。

 

特に大腿骨頸部(骨盤と足をつなぐ関節部分)の骨折は寝たきりの原因になるだけでなく、認知症の発症につながりやすいといわれています。

 

家庭内での事故をできるだけ防ぐために、家の段差をなくしたり、手すりをつけたり、浴室の床をすべりにくくしたり、動線をふさぐ障害物をなくしたりと、物理的な面で気をつけることが山ほどあります。

 

しかし、単なるバリアフリーには意外な盲点があります。それは、「温度のバリアフリー」です。

 

本書(『“健康住宅"のウソ・ホント』)第一章で説明したように、室内温度の変化が与える健康への影響は甚大なものがあり、高齢者にとっては命取りになります。

 

例えば寒い冬の夜中、暖かい布団を出て震えながら歩いて、冷え切ったトイレに入るという一連の動作だけでも、身体は20℃を超える室温の変化にさらされ、多大な負荷を与えることになります。排泄の間隔が近い高齢者は、毎晩この苦痛に耐えることになり、そのストレスは尋常ではありません。

 

また、ヒートショックで頭がクラクラして風呂場で転倒し、骨折して寝たきりになってしまう可能性も十分考えられます。温度差から発生する寒さや暑さ、湿気やカビ、ダニの健康被害は、免疫力が低下した高齢者には直接命にかかわる恐ろしいものなのです。

 

日本では残念ながら、いまだに「温度のバリアフリー」に気をとめない家が多くあります。いくら手すりや段差などの構造的なバリアフリーに気を配っても、寒さや暑さを放置してしまうと、それが結果的に家族の健康を損ね、寿命を縮めることになりかねません。

熱中症よりも高い! 寒さによる健康被害のリスク

「健康寿命」とは、介護など人の手を借りることなく、自立して健康的な毎日を送ることができる期間のことです。

 

日本人の平均寿命と健康寿命を見比べると、大きな差があることが分かります。日本人の平均寿命は2010年では男性79.64歳、女性86.39歳である一方、健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳。男性は約9年、女性は約13年にわたり、誰か人の手を借りなければ日々を過ごせないということです。

 

男女ともに平均寿命は長くなり、年をとるたびに家で過ごす時間も増えていきます。生き生きと過ごせる健康寿命の長い人生を送るためにも、またその家を財産として将来受け継ぐ子どもたちのためにも、「ヒートショックを防ぐ、温度差のない家」「カビやダニが発生しにくい、クリーンな家」「冬でも動きやすく、運動不足にならない暖かい家」に住むことが必要です。

 

特に、高齢者にとって冬の寒さは大敵です。寒さによる冷えが健康の大敵であることは、よく知られています。体温が1℃下がるだけで、免疫力は30~40%下がるといわれており、アレルギー疾患や各種の感染症などのリスクも高まってきます。

 

統計資料を見ると、ヒートショックによる死亡、溺死など、寒さによる健康被害のリスクは、実は熱中症よりも高いといわれています(図表参照)。

 

[図表]冬になると病気による死亡者数が増加する 出典:厚生労働省人口動態統計より作図 寒い11 月~3 月の間は、ヒートショックによる心臓疾患・脳血管疾患をはじめ、さまざまな病気が増える時期。寒さは健康に大きなダメージを与えることが分かる。
[図表]冬になると病気による死亡者数が増加する
出典:厚生労働省人口動態統計より作図
寒い11月~3月の間は、ヒートショックによる心臓疾患・脳血管疾患をはじめ、さまざまな病気が増える時期。寒さは健康に大きなダメージを与えることが分かる。

 

近年では10℃以下の寒い部屋で寝ている高齢者が、低体温症になって凍死するケースも大きな社会問題になっています。

 

低体温症とは、寒さによって体温が低下し、体の深部が35℃以下になって全身に障害が起こる症状です。厚生労働省の人口動態統計によると、2010年以降、ほぼ毎年1000人以上が低体温症によって凍死しています。死亡者のうち大半は糖尿病や高血圧などの病歴がある高齢者で、室内で低体温症に陥っています。

 

一方で、寒さが日本よりも厳しい北欧やカナダなどの地域では、家の断熱対策がしっかりとられているため、冬の死亡者数の割合は日本ほど高くありません。家の寒さは日本の高齢者にとって非常に過酷であるということがよく分かるデータです。

 

冬の気温の変動が高齢者の病気やけがのリスクを高めるのは明白です。家の寒さが原因で交通事故の死亡者数を上回る人が亡くなっているのに、いまだに「少しくらい寒いほうが、体が丈夫になります」という工務店やハウスメーカーがたくさんいるのは許しがたいことです。

 

家族の健康を気づかい、家の環境を整えて温度のバリアフリーを実現することがとても大切です。これから住まいを計画するあなたの決断が、家族の寿命を大きく変えることは間違いありません。

丸七ホーム株式会社 代表取締役

1949年、岐阜県加茂郡白川町生まれ、名城大学法学部卒業。1977年、丸七建設株式会社に入社。1986年、ドイツ教会の新築工事を請け負ったことがきっかけで訪独し、ドイツ建築の高気密・高断熱住宅の優れた機能性に強い衝撃を受ける。以降、何度もドイツを訪れながらドイツ住宅建築の技術習得・研究に尽力する。1988年、社名丸七ホーム株式会社に変更。1997年、代表取締役に就任。

著者紹介

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“健康住宅"のウソ・ホント

“健康住宅"のウソ・ホント

杉山 義博

幻冬舎メディアコンサルティング

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