弁護士が教える「家賃滞納への対処」…裁判の手続きと進め方

賃貸物件の賃借人から毎月支払われるべき「家賃」を滞納されることは、収益が確保できないことに加え、ほかの居住者への影響など、家主にとって大きな損失につながる問題です。そこで本記事では、賃料未払いの賃貸人への対応手段について解説します。※本連載では、投資用不動産業界の健全化を目指す一般社団法人首都圏小規模住宅協会が、正しい知識と公平な情報を紹介します。

「裁判所に訴えを提起する」ために必要な書類とは

【今回の執筆者紹介】

竹村鮎子弁護士

練馬・市民と子ども法律事務所

2009年弁護士登録

 

本記事では、大家が頭を悩ませる賃貸未払いの賃貸人への対応について、経緯から決着までを順を追って3回にわけ、貸主をA、借主をBとして解説しています。

 

第1回、第2回の記事はこちらをご覧ください(関連記事『内容証明を無視されたら?弁護士が教える「家賃滞納」への対処(第1回)』『弁護士が教える「家賃滞納への対処」…法的手続きの取り方(第2回)』参照)。今回は、第3回目です。

 

Aさんはマンションの1室をBさんに貸していますが、Bさんからもう3ヵ月、家賃の支払いがありません。このため、Aさんは期限を定めて家賃の支払いを求める内容の内容証明郵便を発送しましたが、Bさんからは特になんの回答もないまま、期限は過ぎていきました。

 

Aさんは裁判を起こしてBさんに出て行ってもらうため、賃貸借契約の解除と建物の明け渡し、未払賃料の回収をするために裁判を起こすことにしました。

 

Aさんは裁判所のホームページから「建物明渡請求」を調べ、そこに掲載されている記載例を参考に訴状を作成しました。また、必要書類として賃貸物件の固定資産税評価証明書と不動産登記簿を用意しました。さらに建物賃貸借契約書とBさんに出した内容証明郵便と配達証明書を証拠とすることにしました。

 

Aさんが裁判所の事件受付に訴状と証拠を持って行くと、裁判所の書記官から「郵便切手と収入印紙を用意してください」と指示がありました。

 

Aさん「何のために必要なのですか?」

書記官「郵便切手は、Bさんに訴状や証拠を送るために使います。使わなかった分はあとで返却しますので、あらかじめ一定の金額の切手を裁判所に預けてください。また、収入印紙は裁判の申し立て手数料です。裁判所の売店で売っていますので、買ってきてください」

 

Aさんは書記官からいわれたとおりの金額の切手と収入印紙を購入し、書記官に渡しました。

 

書記官「それではこれで受け付けをします。第1回の裁判期日については、追って日程調整の連絡をしますので、しばらくお待ちください」

 

訴えを提起するには、自分の言い分をまとめた書面である「訴状」を裁判所に提出する必要があります。訴状には、自分の請求(裁判所にどのような判決を求めるか)を根拠付ける事実を記載し、またそれを裏付ける証拠を作成します。

 

訴えを提起する裁判所は、基本的には賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所です。また、賃貸借契約書に「合意管轄」として、それ以外の裁判所に訴えを提起すると決められている場合もありますので、契約書の記載を確認してください。

 

不動産についての訴えの場合、訴額(訴え提起のための手数料)の計算のために、当該不動産の固定資産税証明書が必要です。また、明け渡しを求める建物を特定するため、建物の登記簿も必要となります。

 

訴え提起時には、郵便切手も裁判所に納める必要があります。切手代は訴えを提起する裁判所によって異なりますが、賃借人が1人の場合、5,000円から6,000円程度かかります。

訴状、答弁書も陳述される「第1回口頭弁論」の流れ

訴状を裁判所に提出してからしばらくして、裁判所から第1回の口頭弁論期日の調整の連絡がありました。Aさんが自分の都合のいい日を伝えると、第1回口頭弁論の日が決定しました。

 

第1回口頭弁論当日、Aさんが裁判所の法廷に入ると、裁判所の法服を来た職員から出頭カードに署名をするよう求められました。それからしばらく傍聴席で待機していると、法廷にBさんが入ってきました。AさんはBさんとは数える程度しか会ったことはありませんでしたが、それでもBさんがかなりやつれている様子は目に見えてわかりました。

 

指定の時間になり、裁判所の職員から事件番号と事件名、Aさん、Bさんの名前が呼ばれ、Aさんは原告側の席に座るようにいわれました。まもなくして裁判官が法廷に入ってくると、皆、起立の上一礼し、第1回口頭弁論が始まりました。

 

裁判官「それではAさんの言い分は、提出された訴状のとおりでよいですね」

Aさん「はい」

裁判官「Bさんからは答弁書が提出されていませんが、何か言い分はありますか?」

Bさん「家賃の支払いができていないことは申し訳なく思っています。病気で体調を崩して、仕事を辞めざるを得なかったので、支払いができませんでした。Aさんには何をいっていいのかわからなくて、手紙などは無視していました。家族と相談して半年後には故郷に帰る予定ですので、それまで部屋から出ていくのは待ってもらえないでしょうか」

裁判官「Bさんはこういっていますが、Aさんのお考えはいかがですか?」

Aさん「今日初めてそういう話を聞いたので、ちょっと考えがまとまりません。少し時間をもらえないでしょうか」

裁判官「わかりました。それでは次回は弁論準備期日としますので、主に両者の話し合いを行いたいと思います」

 

次回の期日は約1ヵ月後に指定され、その日の口頭弁論はそれで終了しました。

 

民事訴訟において、裁判の期日のことを「口頭弁論期日」といいます。第1回の口頭弁論は原告側から出された訴状を陳述します。また、被告から言い分をまとめた「答弁書」が提出されていた場合、答弁書も陳述されます。

 

設例の場合は、被告であるBさんも口頭弁論期日に出頭しましたが、第1回の口頭弁論期日は被告の都合は聞かないで決定されるため、事前に答弁書を提出しておけば、第1回の口頭弁論期日には出席しないこともできます。

 

ただし、これは被告の場合だけで、原告は必ず第1回の口頭弁論期日には出席しなくてはなりません。実際の口頭弁論期日は、「訴状を陳述します」「答弁書を陳述します」というだけで、5分ほどで終わってしまうことも珍しくないので、実際に出席されると面食らうかもしれません。

練馬・市民と子ども法律事務所 弁護士

2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。

著者紹介

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾」を介し、公平な情報をお送りいたします。

著者紹介

連載初心者から上級者まで…知っておくべき「投資用不動産」の基礎知識

本連載は、「不動産投資塾」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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