米国が実施したら悲惨⁉ MMT(現代金融理論)が秘める危険性

米国内でも激しい論争を呼んでいる「MMT(現代金融理論)」。MMT論者は「日本では財政赤字が続いているのに、何も問題が起きていない。やはり財政赤字は気にする必要がないのだ」と言っているようですが、本当でしょうか? 経済学の観点から、MMTの危険性を解説します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第25回目です。

MMT=Modern Monetary Theory(現代金融理論)

米国ではMMT、正式には「Modern Monetary Theory(現代金融理論)」と呼ばれる新しい理論が話題となっています。「政府が自国通貨で借金をしているならば、最後は紙幣を印刷して借金を返せば良いのだから、財政赤字は問題ない」という理論です。

 

MMTも、インフレが発生したら増税してインフレを抑える必要があるということは認めていますが、インフレにならない限りは財政赤字は気にしない、というわけです。

 

従来の経済学理論と大きくかけ離れているため、伝統的経済学からは厳しい批判がなされています。しかし、これを反対から見れば、経済学の巨頭たちがムキになって批判しなければいけないほど話題になっている、ということですね。

「日本では何も問題が起きていないのだから…」

MMT論者は「日本では財政赤字が続いているのに、何も問題が起きていない。やはり財政赤字は気にする必要がないのだ」と言っているようですが、これには2つの問題があります。

 

ひとつは、日本においても、今後ひどいことが起きる可能性があるという点。もうひとつは、他国においては日本以上にひどいことが起きる可能性が高いという点です。

 

財政赤字が続くと、世の中に資金が出回ります。いまの日本では、人々がインフレを予想していないので、出回った金を銀行に預金し、銀行はそれを日銀に預金(準備預金)しています。

 

しかし、何らかの出来事を契機として人々がインフレを予想するようになれば、人々は銀行から預金を引き出して、「買い急ぎ」をするでしょう。それにより物価が上がると、人々のインフレ予想は一層強まり、「買い急ぎ」の動きも強化されるでしょう。

 

そうなれば、厳しい金融引き締めなどが実施されるでしょうから、ハイパーインフレになる可能性はないでしょうが、経済金融に大きな打撃が加わることは間違いありません。

 

もしも事前に増税がなされていれば、人々は預金を引き出して納税するでしょうから、人々の預金残高が減り、インフレを予想して買い急ぎをしたくても、引き出す預金がない、ということになるでしょうから、インフレのリスクは格段に小さいはずです。

米国でのMMT実施が、日本以上に問題となる理由

米国でMMTを実施することは、日本以上に問題です。ひとつには、米国の方が日本よりインフレになりやすいからです。もうひとつは、米国がインフレになって金融引き締めが行われると、世界中に迷惑が及ぶからです。

 

日本人は、インフレになると「老後のための蓄えが目減りしてしまった。倹約をしなければ」と考えますが、米国人は「インフレなら買い急ぎをしなければ」と考える傾向があるようです。

 

米国人は、国民性として楽観的で、老後の不安を感じにくいということもあるかもしれませんが、インフレだと給料が上がるメカニズムが日本よりしっかりしていること、金融資産に占める株式の比率が高いのでインフレになっても金融資産が目減りしにくいこと、なども影響しているのでしょう。

 

ちなみに、日本のサラリーマンは終身雇用で年功序列賃金ですから、給料を上げなくても辞めません。したがって、企業としてはインフレになっても賃上げをするインセンティブが小さいのです。米国では、インフレ時に賃上げをしないと、社員がすぐに転職してしまうのですが、事情が違うのですね。

アメリカが金融引き締め政策を行えば、世界が迷惑する

日本でMMTを実施しても、メリットもデメリットも概ね国内にとどまりますが、米国でMMTを実施すると、メリットは国内に止まる一方で、デメリットは世界に及びます。

 

米国の通貨である米ドルは、基軸通貨として世界中の貿易や投資等々に使われています。したがって、米国で金融引き締めが行われ、ドルの調達が難しくなると、世界中が迷惑をするのです。

 

仮に、MMTによる米国のメリットが100、米国のデメリットが50、米国以外のデメリットが100だとします。米国としては、MMTを実施するインセンティブを持ちますが、諸外国としては是非やめて欲しいと願うでしょう。

 

米国が「米国ファーストだから、諸外国のことは考えずにMMTを実施する」などと言い出さないことを祈るばかりです。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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