GDPが増えないのに、日本の税収が増えている理由

アベノミクスが奏功し、2018年度の日本の税収は60兆円まで拡大。バブル期を上回って過去最高となりました。しかし、このタイミングで増税を焦ると、ここまで持ち直した景気が急速に失速するかもしれません。10年後まで待ったほうがいいでしょう。その理由を、経済学の観点から詳しく見ていきます。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第24回目です。

アベノミクスが実現した、税収の大幅増加

アベノミクスによる景気の拡大を受けて、税収は大幅に増加しています。一般会計の税収は、リーマン・ショック後の2009年度には39兆円だったものが2018年度には60兆円まで拡大し、バブル期を上回って過去最高となりました。一方で歳出はおおむね横ばいで推移していて、差額である財政赤字は顕著に縮小してきています。

 

この間、経済成長率はわずかなもので、GDPは1割強しか増えていないのに、税収が大きく伸びているわけですから、これは素晴らしいことです。

 

その主因は、景気が拡大すると企業の利益が大幅に拡大することにあります。理由は、ひと言でいえば、企業のコストには固定費と変動費があり、売上が増えても固定費が増えないからです。詳しくは、後半の初心者用解説に示しておきます。

 

企業の利益が拡大すると、法人税収が増えるのみならず、個人事業主の所得も増えるので、所得税も増えます。株価が上がるため、投資家が売却益の一部を納税してくれる、ということもあります。

景気は「税収」という金の卵を産む鶏

要するに、景気は税収という金の卵を産む鶏なのです。性急な増税等によって景気を殺してしまってはなりません。

 

景気は、拡大しているときには好循環が働いて勝手に拡大を続けます。物が売れると企業は増産のために人を雇いますから、雇われた人が給料をもらって消費をし、ますます物が売れるようになるわけです。

 

それに加えて今次局面では、景気拡大に伴う労働力不足が企業に省力化投資を促していて、それが設備機械等々の需要をもたらしている、という面も強いようです。

 

一方、増税で景気が悪化を始めてしまうと、売れないから作らない、作らないから雇わない、失業した人が消費を減らすから一層売れなくなる、といった悪循環に陥ることになります。

 

ひとたび悪循環が始まると、これを好循環に戻すのは大変です。性急な増税で景気の方向を変えてしまわないように慎重に考えるべきでしょう。現在は、国内の景気指標も欧米の景気動向も米中関係も、1年前よりはるかに心配な状況です。そうしたときに増税を焦るのはリスクが高すぎます。

 

秋の消費税増税自体は実施されるとしても、増税額と同額を景気対策に用いることで「実質的に増税を延期する」ことは可能です。ぜひ、そう願いたいものです。

どうして増税は「最低1年待つべき」なのか?

筆者も、いつまでも増税しないで赤字を続けていてよい、とは考えていませんが、少なくとも今次景気が腰折れしないことを確認できるまで、1年程度は待つべきだと考えています。

 

そのうえで10年待てば、いまより容易に増税できるようになるので、願わくばそれまで待つべきだ、と考えています。

 

少子高齢化による労働力不足は今後も深刻化していくでしょうから、10年後には「好景気だと超労働力不足、不景気でも小幅な労働力不足」という時代になるでしょう。

 

そうなると、増税して景気が悪化しても失業が増えないなら、「気楽に」増税しよう、という時代になり、財政再建が容易に進むかもしれないのです。それならば、いま焦ってリスクを冒す必要はないでしょう。

景気がよくなると利益が大幅に増えるメカニズムとは

景気が回復すると企業の利益が大きく増えるのは、不況期にヒマにしていた社員や設備機械等が忙しく働くようになるからです。

 

社員や設備機械が不況期でヒマにしていても、好況期で忙しくしていても、企業のコストは同じです。給料と減価償却費がかかるわけです。それならば、好況期に生産が増えて社員や設備機械が有効活用できるほうが儲かるに違いありません。

 

このことの企業収益に与える効果は、非常に大きなものがあります。数値例を示しておきましょう。

 

レストランが1500円の定食を売っています。材料費(=変動費)は500円です。レストランの固定費は9万円です。

 

客がゼロ人だと、9万円の赤字です。客が1人来ると、収入が1500円、コストが500円増えますから、差し引き赤字が1000円減って89000円になります。客が90人来ると赤字が消えます。100人来ると、1万円の利益が出ます。

 

この店で、客が100人から110人に10%増えると、利益は1万円から2万円に倍増します。これが「景気がよくなると利益が大幅に増えるメカニズム」です。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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