統計分析による株価分析と、AIによる株価分析の違い
筆者はこれまで、投資業界の現状や、投資業界の周囲にうごめくAI事情について、忖度なしに話をしてきた。今回は、連載の主題である『投資スキル0点でも「100点満点のAI株価解析ソフト」を作れたわけ』に戻って話を進めていく。
「AI株価解析ソフト」という通り、それはAIによって株価を解析し、予想するソフトである。これまでの連載でも伝えてきたが、最もAIの本領が発揮される分野とは、勝つか負けるかの「白黒がはっきりする勝負事」に関係する分野である。そしてチェスや将棋などのゲームの分野だけでなく、投資の分野でもAIは大いに力を発揮する。投資とAIは抜群に相性がよく、「AIを制する者が投資を制する」といっても過言ではないくらいに筆者は考えている。
つまり、株価解析ソフトにおいてAIは絶対に譲れないパーツなのである。
しかし、よく誤解されるので注意してほしいことが1点ある。「AIによる株価解析」と話をすると、「テクニカル分析をはじめとした統計分析」と同じようなものだと思われることが多いのだが、この2つは根本的に違う。
統計分析とは、過去のパターンから未来を予想する分析方法である。しかし、これまでの連載で解説したように、波打つ相場の未来予想ができないことは明らかで、それがわかっている以上、投資の世界における統計分析は「過去の産物」と見なすべきだと筆者は考えている。
それは、ライブドアショックやリーマンショックなど、「過去に経験のない事態となったら、テクニカル分析をはじめとした統計分析はひとたまりもない」というわかりやすい事例からも明らかであろう。
また、何度もいうが、投資の世界には個人投資家に負けさせたい層が存在する。そして彼らはテクニカル分析を用いて個人投資家に負けさせようと企み、彼らの思惑通りになっているのが、現状の投資の世界である。そのように使われているテクニカル分析が、今後、残っていくのだろうか。いや、筆者はそうは思わない。個人投資家も理不尽な事実に気づき始めており、統計分析は投資の世界で通用しなくなり、利用者も減っていくことだろう。
このように、過去から未来は予想ができないことが明らかだ。ここまで話すと、そもそも株価を予測することなどできないと考えるだろう。しかし「AIによる株価解析」は実現している。AIは、何をもって相場を読もうとしているのだろうか。
答えは「今」である。「瞬間、瞬間で判断をしている」といったほうが、イメージしやすいかもしれない。
過去の統計分析から、未来を予想することなんてできない。
⇒しかし「今」はわかる。
⇒AIは今の動きを見て、次にどちらに向かうのかを判断する。
このようなロジックだ。
「AI将棋」や「AIチェス」で例えるとわかりやすいかもしれない。これらは「過去のパターン」に当てはめて、統計的に判断しているのではなく、一手一手という「今」に、最適な判断をし続けることで、人間王者すらも歯が立たない最強の存在になったのだ。
先ほど、ライブドアショックやリーマンショックのような過去に経験のないような想像を超えた値動きが発生したら、統計分析ではとても歯が立たないだろうという話をした。しかし「今を見るAI」は違う。不測の事態に直面しようとも、瞬間、瞬間で「最善の手」を打つことができるのである。
株式相場において、AIが「最適解」を導き出せる理由
また、前回(関連記事:『「雑魚データ」でコストが増大…愚かなAI開発の実態とは?』)で「雑魚データ」の存在について触れた。「AI」を稼働させるためには、AIに学習をさせる「データ」が必要となる。しかし大手金融機関や証券会社が蓄積している有象無象のトレーダーの売買履歴をAI開発のベースにしても、仮にそれらをAIに学習をさせたところで、まともなアウトプットデータは出てこないのは明白である。
そこで、AIにインプットするデータを、優れたトレーダーの売買履歴データのみに限ったならば、どのようなものができあがるのか、イメージしてほしい。さらに、そのトレーダーが何十万人に、何百万人に1人という希代のトレーダーだったならば。そのトレーダーのデータをAIに学習させたら、どのようなアウトプットがされるのか……。
インプットするデータが良質であればあるほど、AIは最適解をアウトプットする。株価解析の精度があがるというわけだ。「AIによる株価解析」が成しえた理由は、そこにある。