お茶漬けの事例に学ぶ…ブランドを形作る5つのデザイン要素

公認会計士の弓削一幸氏は、心理学や行動経済学に基づくマーケティングやブランディング理論を独自に構築、約100社に及ぶ地方中小企業を経営危機から救済してきた。弓削氏の著書『「事業再生」の嘘と真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して、「お茶漬け」の事例を参考に、ブランドを形作る5つのデザイン要素を紹介する。

「ブランド」は何で作るのか?

その昔、ブランドは広告が作っていました。情報が少なく、情報自体に希少価値があった時代には、マス広告を打ってブランド認知をすればブランドは簡単に作れたのです。しかし、今の時代は広告でブランドなど作ることはできないと思っています。

 

では、何がブランドを作るのでしょうか。それは「顧客とのコンタクトポイント一つひとつにおける素晴らしい体験」です。その機会にどれだけ素晴らしいブランド体験をしてもらうかで、ブランドイメージは大きく変わってきます。

 

コンセプトを開発する能力のみならず、空間デザイナーであったり、グラフィックデザイナーであったり、数々の専門家の才能を活かしながら、全体をコンセプトに沿うようにディレクションする力も事業再生を担う者には求められる時代です。

「お茶漬け」を通じてブランドを作る商品開発事例

I社は地方の名門老舗料亭です。日本伝統の懐石料理を提供するお店ですが、懐石料理ですから茶懐石の流れを汲んでおり、お茶の文化が基礎にあります。

 

I社にはもともとお持たせの商品がいくつか存在していましたが、厨房の職人中心に開発された商品で、パッケージもシンプルな商品でした。「美味しいんだからそれでいいだろう」といった潔い商品です。それでも名店の味として地域の方に愛され、進物等にはよく利用されていました。

 

このお持たせの商品の中にはお茶漬けがありました。私が商品のリニューアルにかかわることになったのですが、商品リニューアルの場合(新商品開発も同じ)、単にパッケージデザインを変えたり、お茶漬けの具材をターゲットごとに変えたりするなど、小手先の改善をしても「売れる」商品になることはありません。

 

ここで、「売れる」とは単に売上が上がるということだけではなく、その商品を買った、もしくは贈答品としてもらった人が、「どれだけ良い経験ができるか」という価値をどのようにして商品に持たせるか、という観点、つまりはブランド体験の観点から商品を作る必要があります。

 

なぜならば、このI社は単に短期的に売上を上げればよいというような会社ではなくて、歴史、提供している商品やサービスの質、社員の量と質、社会に与える価値等を勘案すると、しっかりとブランディングを行い、社会に愛される環境を作り、提供できる価値を未来永劫次世代へと繋いでいかねばならない、そんな社会的使命を持った会社だからです。

 

従ってI社の場合、商品開発も、単なるダイレクトマーケティングの枠組みではなくて、世の中と強い絆を作るブランドマーケティングの枠組みの中で語られる必要があるということです。

お茶漬けの本質から考える

では、具体的に「お茶漬け」という商品をリニューアルする場合、どのような視点から考えればよいでしょうか。商品開発の場合でも、企業のビジョンを作る場合でもそうなのですが、物事の「本質」から考えるという思考方法は結構役立ちます。本質=存在意義です。どのような商品であれサービスであれ、世の中に存在しているということは、誰かに何かしらの価値をもたらしているから、廃れることなく世の中に存在し続けているわけです。

 

では、なぜお茶漬けはこの世の中に存在しているのでしょう。その存在意義=本質=提供価値は何でしょう。この問いを寝ても覚めても延々と、脳みそが汗をかくくらい考え続けるのです。禅問答のような問いですし、答えは一つではありません。管理会計のように数字で因果のロジックが明確で、答えが一つに絞れるような問いでもありません。禅問答のような問いで答えは一つではないのだけれども、ビジネスに役立つ筋の良い答えを見出す必要があります。

 

お茶漬けを食べる時はどのような時かと考えると、次のような場合でしょう。

 

① 飲んで帰宅した後、小腹の空いた時に食べる。


② 家事が忙しくてご飯の準備が十分にできない時に作る。

③ 昼間は旦那も子供もいないので、主婦が自分一人用ランチのために作る。

 

各々の場合のお茶漬けの本質は次の通りです。

 

① 小腹対策簡易ご飯


② 多忙ママ応援簡単ご飯

③ 自堕落推進手抜きご飯

 

お茶漬けの本質は?

 

お茶漬けの本質は、使う人、使うシーンで全く異なってくるのです。では、下記の各々の場合のインサイトは何でしょうか。

 

① 小腹が空いてきたので、何か軽いものでお腹の中を埋めたい。


② 手抜きしていると思わないで。私だってそんな自分が許せないんだから。

③ 自分一人だから何でもいいのよ。誰にも文句言われないし。

 

先ほど、お茶漬けを食べる時はどのような時かと、使用シーンから本質に迫りましたが、今度はお茶漬けを食べない人(ノンユーザー)の食べない気持ち(インサイト)を考えてみましょう。

 

・噛まずに食べるから身体に良くない。

・子供の目が気になる(家事を手抜きする悪い母親だと思われる)。

・姑の目が気になる(家事を手抜きする悪い嫁だと思われる)。

・食べていると、なんだか寂しい感じがする。

・貧乏くさい自分が嫌いになる。

 

これらのインサイトから導かれるお茶漬けの本質は次のようになります。

 

・ジャンクフード

・手抜きご飯

・孤独を感じるご飯

・気分を落ち込ませるご飯

 

このように、お茶漬けの本質は、人によって全く異なってくるのです。

大規模なアンケート調査ではなく、仮説を一人で検証

お茶漬けの本質はこの他にもたくさん考えられますが、これらの本質をよく見てみると、プラスの本質と、マイナスの本質のどちらもがあることに気が付きます。食事とは本来、生物としての人間の食欲を満たすことに加え、楽しいという価値を与えるものですが、お茶漬けには反対に寂寞(せきばく)感を助長するケースもあるということです。

 

そこから、人間には「一人の時間を楽しみたい」という深いインサイトがあるのではないかという仮説が出てきます。すると、そのインサイトに寄り添う商品価値として「一人を楽しむ一人飯」としてのお茶漬けというアイデアに気が付きます。

 

通常はここで量的な市場調査(大規模アンケートなど)を行って、そのアイデアの確信を検証するという方法が採られます。でも、私はそういった量的調査もよほどのことがない限り行いません。ここでするべきことは、アンケートで他の人の意見を聞くことではなく、自分が直観して確信したこと、この場合は「一人の時間を楽しみたい」というインサイトと、「一人を楽しむ一人飯」というアイデアについて、なぜこのようなことを思い付いたのかをただひたすらに一生懸命考えることです。そのような考えに至った理由を明らかにするのです。

 

実際に自分が一人で留守番をした時に、晩ご飯で作ったお茶漬けが美味しかったことを思い出したとします。では、そのお茶漬けをなぜ美味しいと感じたのかを考えると、それはお茶漬けの味そのものが美味しかったというよりも、普段は当たり前のようにいる家族がいないことで、ある種の解放感を感じ取ったからかもしれません。

 

すると、どうやら人が感じる美味しさは「味覚」だけで感じるわけではなく、「味覚」以外の視覚、嗅覚、聴覚、触覚を含めた五感を総動員して感じるようにできているようです。五感全体で「一人で食べるお茶漬けって美味しい」と感じたということです。

 

もう少し具体化してみます。いつもは子供と一緒にご飯を食べるので、知らず知らずのうちに躾(しつけ)の観点から「礼儀正しくきちんとご飯を食べて、実は窮屈な感じがしていた」という自分の無意識の世界に眠るインサイトがあったのかもしれません。その窮屈感から解放されたことで、一人でガツガツと食べるお茶漬けに美味しさを感じたとも考えられるのです。

 

こうして考え続けるなかで、「一人の時間を楽しみたい」というインサイトは有効だと確信しました。そのインサイトに寄り添えるアイデアとして、「一人を楽しむ一人飯」としてのお茶漬けが考えられます。

 

自分の主観の中だけで、「ただの主観」から「考え抜いた主観」に変貌を遂げたのです。「何だ、それは。全く客観性がないではないか。客観的なデータに裏付けされたアイデアでないと売れるわけがないだろう」と突っ込みが入りそうです。その通り、この考え方は全く客観的ではありません。自分の主観の中で考え続けただけです。近代科学の基礎を築いたデカルトの「主観と客観の一致」には程遠く、「科学的」ではありません。

考え抜かれた主観は不確実な客観的裏付けに勝る

この段階では、無意識の世界をさまよって、何とか拠り所となる「気持ち(インサイト)」の一端を意識の世界へ持ち帰って言語化したというレベルの話です。科学的であるはずがないのです。

 

次に、現実の世界、ロジックの世界でこんな記事を目にしたとします。「一人化が進む単身者の食」(キユーピーアヲハタニュース2015年4月14日)。そこでは、20〜69歳の単身者の食にまつわる調査が取り上げられ、「一人ご飯が増えている」という事実がニュースになっていました。こんなニュースを見てしまうと、自分が考えたこと(主観)をバックアップしてくれる強力な援軍が現れたと思いがちですが、本当にそうでしょうか。

 

このニュースの元となった調査は、限られたサンプルの中での結果でしかありません。当然、調査対象者に選ばれなかった人のほうが多いわけですから、このような「なんちゃって客観的事実」のバックアップを受けたところで、自分の「主観」の確実性には何ら影響がないと考えるべきです。それは自らが行うアンケート調査でも同じです。このようにどこまでいっても主観は主観でしかないのですが、自分の主観には自分で考えたという確信、自身の生活者としての経験に裏付けられた確信があるので、よほど他人の意見より信用できるのです。

アイデアを商品コンセプトに落とし込む

さて、このような無意識の世界から引きずり出して言語化したインサイトとそれに寄り添うアイデアを元に商品開発を行っていきます。コンセプトはインサイトに寄り添うアイデアをそのまま採用して「一人の時間を楽しむお茶漬け」です。

 

では、「楽しむ」とはどういう状態を指すのでしょうか。例えば吉本新喜劇を見てゲラゲラお腹を抱えて笑いころげることも「楽しむ」ですし、ホラー映画を見てドキドキすることも、ママ友が数人集まってする井戸端会議も「楽しむ」です。「楽しむ」には多種多様なものがありますから、「楽しむ」を定義する必要があります。

 

ここでは、ブランド提供価値の観点から「季節を楽しむこと」としました。万葉集、及びそれ以降の勅撰和歌集等の中に収められている和歌の中で、ブランドにかかわりのある「花」を取り上げ、乾燥させた花をお茶漬けに入れるというアイデアです。そして関連する和歌を小さな和紙に書き写し、ブランドらしい解釈を添えます。

 

この商品開発は未だ進行中なので、このまま採用されるとは限りませんが、ここで伝えたかったのは、ビジネスにおいて「考える」とはどういうことか、中でも「本質」や「インサイト」を考えるとはどういうことか、それを受けて「商品コンセプト」にどう落とし込むかということです。

ブランドを形作る5つの「デザイン要素」

戦略の本質は「差別化」です。競合他社とどのように違いを作るかが戦略の本質です。
ある時、今までにないコンセプトで「そうそう、こういうのが欲しかったのよ!」といった画期的な商品がローンチされたとします。はっきりと「差別化」ができている商品で、新たなカテゴリーを形成し、世の中を席巻して、企業は競争優位を獲得します。しかし、その競争優位はいったいいつまで続くものなのでしょうか。

 

多くの画期的な商品が新たなカテゴリーを作り出したとしても、しばらくするとそのカテゴリーはよく似た商品で溢れ返ってしまい、その後は、新たな機能を付加するなどして「差別化」が図られます。しかし、その「差別化」は、生活者サイドからすれば意味のない「差別化」であることがよくあります。要するに、永久に競争優位性を享受できる「差別化」というものは実は存在しないのです。

 

特に日本のように、機能も品質も素晴らしい商品で溢れ返っているような成熟した市場での「差別化」は本当に難しいことだと思います。

 

そのような中で生活者に選んで買ってもらうためには、ブランドイメージをデザインすることが本当に重要です。ブランドで「差別化」を図るということです。

 

私が今かかわっているお茶漬けの商品開発では、お茶漬けの本質とは何かを考えるところからスタートしたことは先ほど書いた通りです。商品を開発していく上では、当たり前ですが、企業ブランドのエッセンスを商品のデザインに落とし込む必要があります。商品そのものも企業ブランドを体現する「メディア」ですから、企業のミッションやビジョンの要素もデザインに落とし込めると非常に良い商品が出来上がります。そうした商品デザインを行うためには、「5つのデザイン」をいつも念頭に置くことが大切です。

 

1つ目は、ブランド・ビジョンのデザインです。世界には大小様々な問題が転がっています。中でも日本は後継者不足による一次産業の継続性の問題、日本文化が廃れつつあるという問題、子供の教育格差の問題等、数え上げたらキリがないくらいの課題大国です。そんな中で小さな問題でも構いません。自社のビジネスを通じてその問題を解決できたら、世界はより良い場所になるのです。そういった問題が解決された後の素晴らしい世界を自社のビジョンとして明確に描けているでしょうか。もちろん、ビジョンを実現するためには利益の確保は当たり前ですが、単に利益を求めるだけになっていないでしょうか。

 

2つ目は、ブランド・コンセプト(提供価値)のデザインです。先のSTPフレームワークの話とも重なりますが、他社には真似のできない自社の提供価値を築けているでしょうか。またその価値を今後も提供し続けるための独自の活動を実施できているでしょうか。活動という事実が価値を作るのです。

 

例えば、レストランが「美味しい料理」を提供することなどは基本的価値として当たり前です。「美味しくない料理」では、早晩淘汰されてしまう時代です。

 

そこで、美味しい料理を提供し続けるためには、一次産業の継続性が大きな問題だと捉えて、一生懸命美味しく安全な農作物等を作っている業者を積極的に採用して適正な価格で購入するなどということも、顧客のみならず社会全体への提供価値としてはとても大きなものです。こうした独自の提供価値を考える時代になっています。

 

3つ目は、具体化された商品コンセプトのデザインです。これが、先のブランド・ビジョンや、ブランド・コンセプトとの整合性を持っているかどうか。例えば、先ほどのお茶漬けであれば、三陸沖で獲れた魚を具材として使うことで東北地方の復興を後押しするといった、社会に存在する様々な問題のうちの一つを自社製品で解決するという使命感をも考えるのです。

 

「この商品は世の中の課題解決に役立っている」という意義を持たせることができれば、それは素晴らしい商品と言えます。

 

4つ目は、「ふるまい」のデザインです。例えば白いご飯を食べる場合でも、箸が箸置きに置かれている場合と置かれていない場合では、そのご飯に臨む姿勢が違うことはないでしょうか。箸置きに箸が置かれている場合には、背筋がピンと伸びませんか。これは、私たちが自分の意志で背筋を伸ばしているわけではなく、「箸置きが置かれた環境」が私たちに無意識のうちに背筋を伸ばすように仕向けているのです。このような考え方をアフォーダンスといいます。

 

この考え方を用いて、商品を手に取った人が自社のブランドにふさわしいと考える所作で商品を扱い、実際に口にするとすれば、これはもう究極のブランドデザインであると思うわけです。「自社の商品を使う人が、自社のブランドらしい所作をする」ことができれば、ブランドデザインは完璧なものになります。

 

最後は「見た目」のデザインです。広く一般的に「デザイン」と考えられている狭義のデザインです。商品パッケージや手提げ袋等の視覚的な要素をデザインすることです。私はこのような狭義のデザインができるわけではないので、ここは外部のグラフィックデザイナー等にお願いしますが、丸投げは絶対にいけません。先ほどのコンセプトや、意図するふるまいまで説明してからデザインしてもらうようにしています。

 

今、商品やサービスのデザインで考えるべきはここまで踏み込んだブランドデザインです。きれいで美しいグラフィックデザインで飾ることがデザインであると勘違いしているグラフィックデザイナーもまだまだ多いのですが、コンセプト及びブランドらしさを、使う人に所作で自然と表現させる「ふるまい」までを含めたデザインをするべき時代になってきているのです。

 

 

弓削 一幸

公認会計士

 

株式会社Corporate Solution Management 代表取締役

公認会計士。
京都大学法学部卒業後、民間企業勤務を経て公認会計士試験に合格。
KPMG勤務を経て独立し、株式会社Corporate Solution Managementを設立。
会計的手法のみならず、心理学や行動経済学に基づくマーケティングやブランディング理論を独自に構築、
これまで約100社に及ぶ地方中小企業を経営危機から救済。
金融機関から指名が絶えない屈指の再生請負人。

著者紹介

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中邨 宏季

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、多くのビジネスパーソンが将来のお金や仕事、人間関係の悩みを抱えていると思います。しかし、安易に「ノウハウ」に飛びつくのは危険です。 本書では、29歳の若さで年商10億円のグループ会社をつくりあげた著者が人生を…

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