※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。今回は、借地権者が地主から「底地」を購入する方法について見ていきます。

地主が底地・借地の関係を解消したいと願うケースも…

(3)凹みの戻し方

 

(1)で述べた凹み①については、(2)で述べた法的知識を活用すれば、借地権を消滅させないように工夫することができるかもしれません。

 

すなわち、借地契約の期間が満了する場合でも、建物さえ存在すれば、旧法・新法問わず、地主の更新拒絶には正当事由が必要です(図表1]参照)。そうであれば、借地権者としては、期間満了時点で建物は必ず保有するようにすべきです。

 

したがって、万一、建物が滅失した場合でも、借地権者は建物を再築すべきであり、新法適用物件で残存期間を超えて存続すべき建物を築造するのであれば、地主の承諾ないしは(更新後であれば)裁判所の代諾許可を得るようにすべきということです。

 

また、凹み②についても、(2)で紹介した借地非訟の申立てにより裁判所の代諾許可が得られれば解消します。とはいえ、地主に対する承諾料の支払が必要になってしまいますし、また、借地上の建物を第三者に譲渡する場合に、地主の協力が得られなければ、凹み③の銀行に対する承諾書面の問題は解決されません。

 

そこで、これらすべてを解決する方法として、底地について、借地権者が地主から購入することを検討すべきです。底地を購入すれば、借地人の持っている権利は完全所有権となりますので、凹みは当然なくなります。

 

凹みがあるがゆえに実際の価値よりも価格が低くなっている借地権を購入して、その後底地を買うことができれば、大きな利益を得ることができるでしょう。借地権者が底地を手に入れるためには、以下の4つの方法(凹みの戻し方)が考えられます。

 

戻し方①地主に対して、底地を売ってもらうように交渉する

戻し方②土地を分筆して、底地と借地権を等価交換する

戻し方③地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換する

戻し方④地主→底地買取専門業者→借地人と底地を売買してもらう

 

戻し方①地主に対して、底地を売ってもらうように交渉する

 

この点、地主には、

 

●借地権の凹みはあるものの、借地権は基本的に強い権利であり、借地権者が権利を行使する限り、通例では借地権は消滅しない

●底地は相続評価が高い割には地代が安い

●相続の納税資金が必要である

 

といった懸念があります。

 

したがって、地主としても、底地・借地の関係は解消したいと願うケースも多々あり、条件が合えば売却することに経済合理性を見出すものです。

 

そこで、まずは地主に対して、底地を売ってもらうように交渉すべきです

 

戻し方②土地を分筆して、底地と借地権を等価交換する

 

底地を売ってもらうことができない場合でも、土地を分筆して、底地と借地権を等価交換する方法もあります。土地の所有権を概ね1:1ないしは借地権割合にしたがって地主と借地人が分けます。地主が借地を分筆し、一方の底地を借地権者に譲渡し、他方の借地権を地主が譲り受けます。例えば、100坪の土地について借地権割合が60%だとすると、100坪の土地を60坪と40坪に分筆し、60坪分の底地を借地権者に譲渡し、40坪分の借地権を地主が譲り受けることになります。これにより、借地権者は60坪分の土地については完全所有者となります。ただし、敷地めいっぱいに建物が建っているケースでは、建物を分断するように土地を分筆してしまうと、結局底地・借地の関係は解消できませんので、そのようなケースでは建物を取り壊す前提で土地を分筆することになります。

 

戻し方③地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換する

 

土地を分筆すると狭くなってしまう等の理由で等価交換に前向きになれない場合には、地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換する方法もあります。地主が借地人へ底地を売却する際、代金を現金でもらわず、借地人が別に所有している土地があれば、土地を受け取るというものです。つまり、地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換するのです。

 

この点、地主が借地人へ底地を売却した場合、地主の側はその売却代金に応じた不動産譲渡所得に対して所得税がかかります。そして、この譲渡所得の計算にあたっては、土地の取得費が不明の場合には、譲渡対価の5%相当額のみが取得費として計上できるにすぎないので、地主には、底地の売却により多額の譲渡所得税が発生するのが一般的です。ところが、このような土地と土地の交換の方法をとれば、固定資産の交換の特例(土地や建物といった固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときに、譲渡がなかったものと見なす制度)が使えますので、一定の要件を満たせば、譲渡益が発生しないものとして課税の対象外とすることができます。この節税効果を伝えて地主を説得します(詳しくは税理士にご相談ください)。

 

戻し方④地主→底地買取専門業者→借地人と底地を売買してもらう

 

以上のケースは、いずれも地主と借地権者が協力して底地借地関係を解消するものです。ところが、ケースによっては、地主と借地権者が不仲であるなど、両者で協力して解決できない場合もあります。

 

そのような場合は、苦肉の策として、底地買取専門業者に地主に営業をかけてもらい、底地を買ってもらいます。そしてこの底地買取専門業者が借地人にこの底地を売却します。この場合、底地関係を解消したいと思っている地主にとっては、借地人に直接売却するのは心情的に抵抗がある場合でも、買取業者に対してであれば抵抗なく売却することができる場合があります。地主としては、買取業者ではなく、借地人に直接売却する方が高く売れるのですが、心理的抵抗があって、借地人に売却しないという地主は現にいます。

 

ちなみに、地主が買取業者に売却するよくあるケースは、地主にとって借地人が多数いる場合です。こうした大地主に相続が発生して、相続税の納税のために急いでまとまった現金をつくらねばならないといった事情が生じた場合、すぐに現金で購入してくれる買取業者は貴重です。また、底地は時価よりも相法税評価額のほうが高いケースはよくありますが、これらの底地は急いで換金してしまうほうが相続税の節税面で有利になります。そうした場合、地主は、底地買取専門業者に安くてもいいからまとめ売りしてしまいます。そして、この専門業者は買い取った後、個々の借地人に個別に売却していくのです。地主を生産者、借地人を個人消費者に例えれば、この業者は小売店で、地主から底地をまとめて安く仕入れて、借地人へ個別に利益をのせて販売するというビジネスモデルです。

 

したがって、地主の相続が近かったり、地主が他にも底地を保有しているケースでは、この方法を試してみる価値はあります。

 

最後に、底地借地関係の解消として、地主と借地権者が共同で第三者に売却する方法もあります。通常は、底地だけとか、借地権だけとして売却すると、それぞれに凹みがありますので大幅にディスカウントされてしまうのですが、「底地と借地権を1セットとして=更地として」売却すれば、ディスカウントされないで売却できます。

 

戻し方①~④の方法によって借地権者が底地を手に入れることができない場合は、借地権者は、地主に借地権を売却するか、もしく地主との共同売却によって投下資本の回収を図る方法があります。

 

堀鉄平

弁護士法人Martial Arts/代表 弁護士

 

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