今回は、相続トラブルを抱えて売りに出された不動産をスムーズに買い取るための具体的な方法を解説します。※本連載は、弁護士法人Martial Arts代表、弁護士・堀鉄平氏の著書、『弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント』(日本法令)から一部を抜粋し、ワケあり物件(凹みがある状態)を法的知識を駆使して安価で手に入れ売却する「オポチュニティ型」と呼ばれる投資手法を紹介していきます。

 

凹み③相続人の一部に所在不明の者や未成年者がいる

相続人は戸籍で判明したが、相続人の所在が分からないという場合は、事実上遺産分割協議ができません。

 

また、相続人の一部に未成年者がいる場合も、未成年者は財産にかかわる法律行為を自ら行うことができませんので、当然遺産分割協議にも参加できません。そして、基本的に未成年者に代わって法律行為を行うのは親権者である親ですが、遺産分割協議の場合には親権者も遺産分割の当事者に含まれる可能性が高くなります。そうなれば未成年者である子とその親権者で利益が相反することになり、親権者が子の代わりに遺産分割協議を行うことは利益相反行為になってしまうため、親権者は未成年者に代わって遺産分割協議をすることができません。

 

このような場合、後述する不在者財産管理制度や特別代理人の制度を利用して解決することになりますが、手続きにかなりの時間を要することになりますので、買主からは敬遠されることになります。これが凹み③です。

「共有物分割の方法」は現物での分割が原則

(2)必要な法的知識

①共有に関する民法の規定

 

(ⅰ)共同相続の効力

被相続人が亡くなったとき、遺産はただちに相続人のものとなります。相続人が1人だけの場合は、遺産はすべてその人のものになりますが、相続人が複数いる場合は、遺産は相続人全員の共有となります。そして、各相続人の共有持分は、相続分に応じます。

 

<民法>

(共同相続の効力)

第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 

第899条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

 

このように、遺言がない場合や、遺産分割をしない状態では、相続する不動産は共有となりますが(遺言で共有とされることもあります)、その後の遺産分割により、なおも不動産を相続人間で共有することもあります。

 

(ⅱ)共有物の変更、管理、保存行為

そして、共有となってしまうと、共有名義人のうちの誰か1人がその不動産を売却したいと思っていても、他の共有名義人が売却に同意をしてくれない場合には、不動産全体を売却することはできません(民法251条)。

 

<民法>

(共有物の変更)

第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

 

なお、例えば、A・B・Cが共有する建物について第三者と賃貸借契約を締結することは、共有物の管理の問題としてA・B・Cの持分の過半数によって決めることになります(民法252条本文)。

 

<民法>

(共有物の管理)

第252条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

 

共有物の変更や管理と異なり、共有物の保存行為については、各共有者が単独でこれを行うことができます(民法252条ただし書)。保存行為とは、例えば、A・B・Cが共有している土地を不法占拠しているDに対し、その立退きを求めるような行為を言います。このような保存行為は、共有者の共同利益のためのものであるため、単独で行えるとされています。

 

(ⅲ)共有物分割請求

共有物に関しては、複数の共有者が権利を有することから、所有者としての権利が制約されます。

 

この点、遺産分割未了の場合は、遺産分割審判手続によって解決します。

 

他方で、遺産分割を経て共有となった場合には、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」として、共有者には、共有状態を解消する権利が認められています(民法256条1項)。そして、当事者間の協議がまとまらないときは、裁判所に対して分割請求ができるとされています(同法258条1項)。

 

<民法>

(共有物の分割請求)

第256条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

 

(裁判による共有物の分割)

第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

 

2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

 

この点、共有物分割の方法は、現物での分割が原則です(現物分割)。もっとも、現物分割不可または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所が競売を命じ、売却代金を分配するという方法も定められています(換価分割。同法258条2項)。

 

さらに、判例理論によって、物件を共有者の1人の所有にして、ほかの共有者との関係では金銭支払によって精算するという方法も認められています。これが価格賠償による分割です。

 

最高裁判例(最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁、判時1592号59頁)は、「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」としています。

 

②不在者財産管理制度

従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所は、申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。

 

申立人は、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)と検察官です。

 

このようにして選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。

 

③特別代理人の制度

親権者である父または母が、その子との間でお互いに利益が相反する行為(遺産分割協議が典型です)をするには、子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。また、同一の親権に服する子の間で利益が相反する行為や、未成年後見人と未成年者の間の利益相反行為についても同様です。

 

特別代理人は、家庭裁判所の審判で決められた行為(書面に記載された行為)について、代理権などを行使することになります(家庭裁判所の審判に記載がない行為については、代理などをすることができません)。家庭裁判所で決められた行為が終了したときは、特別代理人の任務は終了します。

一部の相続人から共有持分を購入し、自ら共有者となる

(3)凹みの戻し方

凹み②③については、地道に戸籍簿をたどって相続人を確定させ、(2)で述べたように不在者財産管理制度や特別代理人の制度を利用するなどして、相続登記を経たうえで、売買契約を締結します。※1

 

※1 なお、本書執筆時点において、法務省は、遺産分割協議の期限を最長10年とする民法改正案を検討しています。相続開始時から10年を経過するまでに、遺産分割の協議または申立てがない場合は、法定相続分に従って分割されたものとみなされるようです。

 

では、凹み①については、どのように戻していくことができるでしょうか。結論としては、以下の3つの方法があります。

弁護士が実践する 不動産投資の法的知識・戦略とリスクマネジメント

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