G20議長国・日本が実現させた「海洋プラごみ削減」合意

2019年6月15日、16日の2日間にわたって開催された、20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合。大きな関心が寄せられていた議題のひとつに「海洋プラスチックごみ」がありますが、日本は議長国として各国を適切に仲介し、高い成果を出せたといえるのではないでしょうか。今回は、海洋プラごみがはらむ問題をおさらいするとともに、日本による参加国への働きかけについて考察します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第19回目です。

海洋プラごみ問題は、地球規模の環境問題

プラスチックがゴミとなって海に流れ込むと、自然に分解されることなく、半永久的に海中をさまようことになります。これがさまざまな問題を引き起こしているため、「海洋プラごみ問題」として最近とみに注目を集めています。

 

プラごみを大量に食べて死んでしまったクジラが見つかり、話題になったりしていますが、これは氷山の一角でしょう。被害はクジラだけではありません。プラスチックが海岸に流れ着いたら除去の費用がかかりますし、海中に漂っているだけで航行中の船舶の妨げになるかもしれません。

 

さらには、海中を漂っている「マイクロプラスチック」の問題も深刻です。これはサイズが5ミリ以下の微小なプラごみのことで、普通の魚が容易に食べてしまえるものです。

 

さらなる問題は、プラスチックの粒子が海水中の有害な物質を吸着する性質があると懸念されていることです。もしもそうだとすれば、これを食べた魚の体内に有害物質が蓄積されかねません。これは魚にとっても悲劇ですが、それを食べた人間にとっても由々しき問題といえるでしょう。

 

こうした諸問題の源である海洋プラごみですが、分解されないため着実に増え続けていて、世界経済フォーラムの報告書(2016年)によれば、2050年までに海洋中のプラごみの量が重量ベースで海洋中の魚を上回ると予測されているのです。

 

そこで、この問題を何とかしなければならないという機運が盛り上がり、今月開催されているG20でも主要な議題のひとつとされているわけです。

「地球温暖化」と構造が似ている、海洋プラごみ問題

たとえば琵琶湖のプラごみであれば、加害者(プラごみを琵琶湖に捨てる人等々)と被害者が両方とも日本国内にいるため、日本政府が琵琶湖へのプラごみの投棄等を規制すればよいだけです。

 

しかし、海洋プラごみは、加害者と被害者が別の国にいる場合も少なくありません。というより、世界中の人が被害者だといえるでしょう。そこで、海洋プラごみを削減するための国際的なルールのようなものが必要となるわけです。

 

これは、地球温暖化対策の二酸化炭素の排出を抑制する条約などと似ています。各国ともに「自分の国はプラごみ削減努力をしたくないけれども、他国には努力してほしい」と思っているわけですから。

 

これは、プラごみを大量に海洋に流出させている国を「公害企業」のようなものだと考えることもできそうです。公害企業は、他者に迷惑をかけているにもかかわらず、自分は公害を防止するインセンティブをほとんど持っていないので、その点が似ているわけです。

 

普通の公害問題ならば、加害者も被害者も同一国内にいるので、政府が公害を規制すればよいだけの話ですが、国自身が「公害企業」になってしまうと、これを取り締まる「世界政府」が存在しないので、話が面倒なのです。他国が「プラごみの海洋流出を減らせ」と強制することができないわけです。

先進国だけが議論・対策を行っていても…

これまでは、G7など先進国間で議論されたり、先進国が中心となって対策に取り組んで来たりしています。しかし、プラごみの海洋への流出量が特に多いのは中国とインドネシアだといわれているので、両国を巻き込んだ取り組みが必要なわけです。幸い、両国はG20の参加国なので、今月開催されているG20の場で両国を含む各国がしっかりと議論して、合意を形成することができました。

 

世界が注目する場であるため、両国としても頑なな拒否はしづらかったのでしょうし、それに加えて、「G20ではさまざまなことが議論されるため、両国がプラごみ問題で頑なな態度をとると、別の議題で両国の主張が通りにくくなる」といった思惑も、両国の態度を柔軟化させた要因なのかもしれません。

日本もプラごみ問題に積極的に取り組む方針

政府は5月31日、関係閣僚会議で海洋プラごみの削減に向けた行動計画を決めました。日本は現在でも海洋プラごみの流出量が少ないほうだといわれているので、「自分で乾いた雑巾を絞るためにコストをかけるよりは、途上国等に濡れた雑巾を絞ってもらうために資金を援助する方が有効だ」という考え方もあるでしょう。

 

しかし、たとえば中国は、今や米国と覇権争いを繰り広げるほどの大国になっているわけですから、そうした国に日本が援助することが好ましいのかどうか、といった議論も必要でしょう。

 

そうであれば、G20の議長国として、率先垂範して海洋プラごみ問題に取組む姿勢を世界に見せることで、議論をまとまりやすくするべきだ、といったことだったのかもしれませんね。筆者も国民の一人として、プラスチックスマートキャンペーンに協力したいと思います。

日本政府の外交面のプレゼンス向上にも期待

日本はG20の議長国として難しい交渉をまとめたため、外交面でのプレゼンスも高まったと期待されます。

 

今回のG20は、まさに米中が覇権争いの新冷戦を激化させつつあるタイミングで開催されています。したがって、本来であれば米中の合意は容易ではないはずです。しかし、幸いなことに日米関係は極めて良好ですし、日中関係も改善しつつありますから、日本が仲介役となって米中の合意を形成させることができたのでしょう。

 

米中間の貿易戦争や通信等に関する問題はともかくとして、海洋プラごみの削減については、米中が協力する余地があったわけで、日本として両者の仲介に成功したことで、外交面でのプレゼンスは向上したはずです。

 

議長国が日本でよかった、と国際的に評価されていることを期待しましょう。


今回は、以上です。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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