消費増税を「1年延期して様子を見るべき」これだけの理由

2019年10月、消費増税が予定されています。すぐにでも増税に踏み切らないと日本の財政が破綻するかのような論調も聞こえてきますが、筆者は「増税はとりあえず1年待つべき」だと説いています。今回は、増税によって起こるリスク、増税を見送ることで起こるリスクを比較してみましょう。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第17回目です。

「財政赤字の放置リスク」と「増税リスク」を比較

筆者は、財政赤字に比較的寛容です。日本の財政は巨額の赤字を続けているけれども、投資家たちが日本国債を積極的に購入していることを考えると、そう簡単に財政が破綻することはないだろう、と考えているからです。

 

もっとも、MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)ほど能天気ではないので、財政赤字は小さいほうがよいとは考えています。財政赤字を放置することに伴うリスクは当然あるからです。

 

そこで、財政赤字を放置した場合のリスクと、緊縮財政政策を採用した場合のリスクを比べて、慎重に判断すべきだ、というのが筆者の基本スタンスです。

消費増税を10年待っても、増える赤字は「誤差の範囲」

消費税を増税すると、数兆円の税収増になりますから、10年間では数十兆円です。一方で、幼児教育の無償化等々の支出も増えますから、財政赤字の減り方はそれほど大きくないのでしょうが、それは置いておきましょう。

 

消費増税を10年待つことのリスクは、現在すでに1100兆円ある政府の借金が、増税をするのと待つので数十兆円だけ変化する、ということです。これは「誤差の範囲」といっても過言ではないでしょう。

 

一方で、10年待てば増税のリスクは格段に低下します。「10年後には少子高齢化による労働力不足が深刻化しているので、増税して景気が悪化しても失業者が増えない経済となっている。したがって、気楽に増税できるはずだ」というわけです。

 

もしかすると、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がり、インフレ抑制のために増税で景気を冷やすような時代になっているかもしれません。そうなれば、増税が財政再建とインフレ対策の一石二鳥となるわけですね。

 

通常の経済では、インフレ対策は金融引き締めで行います。増税には時間がかかるので、増税が実現した頃には景気が次の後退期に入っているかもしれないからです。

 

しかし、少子高齢化による労働力不足はゆっくり着実に進みますから、時間をかけて少しずつ増税していっても間に合います。一方で、金融引き締めによって政府の莫大な借金に対する利払いが急増する心配がなくなります。そこで、緊縮財政がインフレ対策に用いられるようになる、というわけです。

 

そのため、筆者としては増税を10年待つべきだと考えているわけです。しかし、現実的な戦略としては、増税論者を説得する必要がありますから、「10年待て」は有効ではないでしょう。そこで本稿は「1年延期して様子を見るべき」と主張することにします。

増税の強行で「深刻な不況」が起こる可能性も

国内の景気が後退しはじめていると考える人が増えてきました。年明け以降の経済指標は、昨年のものとは様子が異なるように見えます。このまま景気が後退に向かうのか、専門家の間でも意見が別れていますが、「景気は後退しておらず、消費税を増税しても後退しない」と言い切れる専門家は少ないと思います。

 

海外に目を向けると米中貿易戦争が米中冷戦の様相を呈しはじめていて、それが世界経済や日本経済にどのような悪影響を及ぼすのか、先が見通しにくくなっています。

 

米国と中国は、単なる貿易戦争ではなく、覇権を懸けた冷戦に突入したと考えるべきでしょう。したがって、米国は「肉を切らせて骨を断つ」覚悟でしょうし、中国も引き下がるわけに行かなくなりつつあります。今後何が起きるのか、固唾を吞んで見守るしかありません。

 

そうしたなかで、わが国が消費税の増税を強行することには大きなリスクを伴います。増税が景気の腰を折る契機となってしまうかもしれませんし、景気の悪化を加速してしまうかもしれないからです。

 

景気の後退は、「売れないから作らない、だから雇わない、だから給料がもらえないから買えない」という悪循環に陥るものですから、増税によって深刻な不況となり、巨額の景気対策予算が必要ともなりかねません。

増税を1年待っても、リスクは高まらない

このように、今ただちに増税を強行することのリスクは決して小さくありません。一方で、増税をとりあえず1年だけ待って、様子を見てから改めて増税の可否を判断する、という事であれば、それに伴って問題が深刻化するリスクはほとんどないといえるでしょう。

 

増税を1年延期すると、税収が数兆円減ることになります。幼児教育の無償化なども延期されるかもしれませんが、それを考えないとしても、現在すでに1100兆円ある政府の借金に数兆円の影響が出るだけです。

 

これをもって「インフレのリスクが高まる」とか「政府に対する投資家の信認が揺らぐ」とかいうのは、「海の水を一口飲んだら海の水が減る」というのと同じです。間違いではないが、常識人を説得することは到底できないでしょう。

 

1年経った時点で、景気が後退していれば、「あの時に増税しなくてよかった」ということになるでしょうし、景気が後退していなければ、そのときこそ増税を実施すればいいわけですから、いずれにしても待つほうがよさそうです。

 

そう考えると、「増税をとりあえず1年待つべき」という筆者の主張は、まことに説得力があると思うのですが、いかがでしょうか。

 

なお、増税自体を延期すると現場が混乱するということであれば、増税は予定通り実施したうえで、増税額と同額の景気対策を1年間実施しながら様子を見る、という代替案も可能だと思います。

 

この場合、景気対策を中止しても大丈夫か否かを1年後に判断することになるわけですね。

 

今回は以上です。ちなみに、投資家たちが積極的に日本国債を買っている理由については、連載第16回『日本の財政破綻が危惧される一方で「国債」が売れ続ける理由』をご覧下さい。

 

今回は、以上です。

 

 

塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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