白内障、緑内障…保険適用可能な最先端「レーザー治療」の実際

「ものがぼやけて見える」「目がかすむ」「光がいつもよりもまぶしい」など、気にはなりつつも、見過ごしてしまっている「目」についての悩みはないでしょうか。そんな悩みを抱えたままでは、日々の不安が募るばかりです。本連載では、白内障・緑内障・網膜剥離手術に強みをもつ、はんがい眼科・院長の板谷正紀氏が、眼病の症状やその対処法について解説します。

「レーザー治療」とは、どのようなもの?

急に「あなたの目にはレーザー治療が有効です」といわれても、それがどのような治療なのかわからなければ、不安を感じるのではないでしょうか。しかし、レーザーを使って行う治療は、そこまで心配するものでもありません。

 

レーザー治療には3つのタイプがあり、目的に応じて適切な治療をほどこすことができます。網膜の病気や緑内障の急性発作などの治療で頻繁に用いられ、めざましい効果を発揮している、なくてはならない治療法なのです。

 

では、実際にはどのようなものがあるのでしょうか? 以下で説明しますので、ぜひ参考にしてください。

3つのレーザー治療

レーザーには種類があり、治療の目的によって使いわけます。まず、病変を熱で焼き固める「レーザー光凝固術」、組織を切る「レーザー切開術」の2つがあります。さらに最近では、細胞が焼けない程度の低いパワーで組織を刺激する「閾値下(いきちか)レーザー凝固術」が有効であることがわかってきました。それでは、この3つのレーザー治療について説明しましょう。

 

レーザー治療は、目的に応じて大きく3つにわけられます。

 

① 焼いて病変を固める「レーザー光凝固術」

 

網膜を治療するための治療法なので、網膜光凝固術ともいいます。レーザー光凝固術では「アルゴンレーザー」が主に使われます。

 

アルゴンレーザーは水に吸収されにくく、網膜の土台である色素上皮の茶色いメラニン組織に吸収されやすい性質があります。そのため、目の透明な組織を通過して、網膜だけを熱凝固することができます。この作用を利用して、治療をほどこします。

 

レーザー光凝固術を使って治療する病気としては、網膜裂孔や糖尿病網膜症などがあります。網膜に孔(あな)ができてしまう網膜裂孔は、放っておくと徐々に剥がれていき、網膜剥離になってしまいます。そうなる前に、レーザー光凝固術で網膜を眼底に焼き付け、網膜剥離を防ぎます。

 

また、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症では、血液が流れなくなった範囲の網膜を豆まき状に凝固することで、網膜の病変を焼き固め、症状の進行を食い止めることができます。

 

② ピンポイントで切ることができる「レーザー切開術」

 

切開術で使うレーザーは「YAG(ヤグ)レーザー」、「エキシマレーザー」、「フェムトセカンドレーザー」があります。

 

YAGレーザーは、奥の組織にピンポイントで熱を当てて破壊できる特徴があります。代表的な使い方として、後発白内障を治療するための後嚢切開があります。後発白内障とは、白内障手術後に、また視界がかすんで見えにくくなってしまう症状です。

 

白内障手術では水晶体を眼内レンズに置き換えます。濁った水晶体の中身を取り除き、代わりに眼内レンズを入れる手術です。つまり、水晶体の中身を包んでいたふくろは手術後は透明ですが、時間とともに濁ってくる場合があり、すると視力が低下するのです。これが後発白内障の仕組みです。

 

そこで、YAGレーザーを使用します。濁ったふくろを切って光の通り道を作り、目のかすみを解消するのです。そのほか、急性緑内障発作により、眼圧が急上昇した場合に行う「レーザー虹彩切開術」でも、YAGレーザーを使用することがあります。詳しくは後述しますが、黒目(虹彩)の根元付近に孔を開け、目のなかの水分(房水)の通り道をつくって発作を解除します。

 

ヤグレーザーの手術装置「YC-200Splus」(ニデックより)
ヤグレーザーの手術装置「YC-200Splus」(ニデックより)

 

エキシマレーザーとフェムトセカンドレーザーは、原理は違いますが、2つとも熱を出さずメスのように切れるレーザーです。しかし、メスとは違って、コンピューター制御で設計通りの切開ができます。

 

エキシマレーザーは、レーシック手術で角膜を薄くするために使用します。フェムトセカンドレーザーは、レーシック手術で角膜フラップを作成したり、レーザー白内障手術に使用したりします。

 

フェムトセカンドレーザーとエキシマレーザーを兼ね備えたレーシック用手術機器「wavelight」(Alconより)
フェムトセカンドレーザーとエキシマレーザーを兼ね備えたレーシック用手術機器「WaveLight」(Alconより)

 

③ 焼かずに刺激を与える「閾値下レーザー治療」

 

細胞を“焼く”ことによって固めるタイプのレーザーとは違い、細胞が焼けない程度の低いパワーで治療する方法もあります。それが「閾値下(いきちか)レーザー」です。“凝固一歩手前レーザー”と表現したらわかりやすいでしょうか。

 

閾値下レーザー治療が可能なピュアイエロー・マイクロパルスレーザー光凝固装置「IQ577」(トーメーコーポレーションより)
閾値下レーザー治療が可能なピュアイエロー・マイクロパルスレーザー光凝固装置「IQ577」(トーメーコーポレーションより)

 

閾値下レーザーは黄斑に問題があるときに使います。黄斑浮腫や中心性漿液性脈絡網膜症などの黄斑疾患の治療のために開発されました。黄斑には視細胞が集まり、視力そのものを司っている大事な場所です。ここを熱凝固すると、視力が悪くなります。

 

そこで、焼かない程度のパワーと照射時間で黄斑の土台の色素上皮に刺激を与え、症状を改善するのが閾値下(いきちか)レーザーの役目なのです。色素上皮は黄斑の守り神的役割をしてくれて、黄斑の視細胞が守られるのです。

レーザー治療が必要となる代表的な「8つの病気」

① 糖尿病網膜症(レーザー光凝固術)

 

糖尿病により血糖値の高い状態が続くと、毛細血管が詰まり、血液の流れが悪くなります。網膜への酸素供給量が低減するため、身体は新生血管を作り、酸素の供給量を補おうとするのです。

 

しかし、新生血管は非常にもろく、容易に目のなかへ出血(硝子体出血といいます)します。たちが悪い場合は、網膜表面に、新生血管を取り巻くように厚い膜(増殖膜といいます)を形成し、失明の危機にさらされます。これが増殖糖尿病網膜症です。

 

進行すると、膜が網膜を引っ張って起きる牽引性網膜剥離や、新生血管が房水の出口を破壊する新生血管緑内障を引き起こす可能性もあります。治療の中心は、アルゴンレーザーによって毛細血管に血液が流れなくなった網膜を豆まき状に凝固する「汎網膜光凝固術」です。

 

毛細血管に血液が流れなくなり酸素の供給が減っている分、網膜を部分的に焼いて需要を減らし、新生血管が生えてくるのを防ぎます。いわば「間引き」をするようなものです。

 

「汎網膜光凝固術」は、新生血管が生える前に行えば、予防することができます。しかし生えたあとだと、新生血管はなくならないので、手術が必要になる場合もあります。早期治療が大切です。

 

汎網膜光凝固術を施した網膜
汎網膜光凝固術をほどこした網膜

 

② 網膜裂孔(レーザー光凝固術)

 

網膜裂孔とは、網膜にできた亀裂や孔のことです。網膜は硝子体と接しているのですが、加齢により収縮した硝子体が眼底から離れる(後部硝子体剥離)際に、網膜が引っ張られることで生じるのが一般的です。

 

また、網膜裂孔は進行すると網膜剝離になってしまいます。網膜剥離になった場合、手術で治さないと失明するリスクが極めて高いです。

 

そこで、網膜が剥離する前に、穴のまわりにレーザーを照射し、網膜剥離へ進行しないよう予防する治療をほどこします。これには、網膜の土台を熱凝固して網膜と土台を癒着できるアルゴンレーザーが向いています。

 

網膜裂孔の段階で食い止めることができれば、身体にかかる負担は最小限で済みますので、早めの治療を行いましょう。

 

網膜光凝固術を施した網膜
網膜光凝固術をほどこした網膜

 

③ 網膜中心静脈閉塞症(レーザー光凝固術)

 

高血圧と関係があり、50歳以上の方に起こりやすい病気です。動脈硬化や血管の炎症により、網膜の静脈の根本である中心静脈が閉塞すると、眼底出血や網膜浮腫を引き起こす要因になります。中心静脈ではなく分枝した静脈が閉塞すると、網膜静脈分枝閉塞症となり、比較的軽い症状ですみます。

 

血管が詰まってしまうと、身体はなんとか詰まった先に血液を届けようとして、新しい血管を作り出します。この新しい血管は新生血管といわれ、既存の血管よりも脆く破れやすいため、増殖糖尿病網膜症と同様に、目のなかへの出血(硝子体出血)を引き起こします。

 

網膜中心静脈閉塞症で特に恐いのは、血管新生緑内障が急速に進むことです。こうした合併症を防ぐには、増殖糖尿病網膜症の場合と同様に、アルゴンレーザーを用いて、毛細血管に血液が流れなくなった網膜を豆まき状に凝固する「汎網膜光凝固術」を行います。

 

網膜中心静脈閉塞症により眼底に出血が起きた様子
網膜中心静脈閉塞症により眼底に出血が起きた様子

 

④ 中心性漿液性脈絡網膜症(レーザー光凝固術)

 

網膜を守っている土台の色素上皮に孔が開き、土台の血管網である脈絡膜から血液の水分が漏れ出て、部分的な網膜剥離が起きます。

 

視力低下しても軽度ですが、ものが歪んで見える変視症や、ものが小さく見える小視症の症状を伴います。ストレスの高い状態にある中年期男性に多い病気です。

 

自然治癒することもあるので、まずは経過観察をしますが、自然に改善しない場合はレーザー治療を行います。水分が漏れている個所が、黄斑の中心部から離れている場合は、レーザー光凝固術を行って漏れを止めます。この症状の治療には、アルゴンレーザーを用います。

 

 

黄斑の下部に水がたまり、網膜剥離を起こしている様子
黄斑の下部に水がたまり、網膜剥離を起こしている様子

 

⑤ 網膜細動脈瘤(レーザー光凝固術)

 

高血圧などが原因となり、網膜にある動脈が硬化すると、コブができることがあります。この動脈のコブから血液の水分が漏れて、黄斑がむくむと、視力が低下してしまう可能性があります。この場合、アルゴンレーザーでコブを熱凝固し、漏れを止めます。

 

コブが破裂して出血すると、激しい視力の低下が起こります。その場合は、硝子体手術で出血を取り除きます。

 

⑥ 急性緑内障発作(レーザー切開術)

 

急激に眼圧が上昇し、視神経を障害する病気です。強い吐き気や頭痛を伴います。黒目(虹彩)の前へ行く通路が塞がって、虹彩の後ろに、目のなかの水分(房水)が溜まってしまう状態です。

 

虹彩の根元付近に孔を開け、房水が迂回して虹彩の前へ流れるようにすると、眼圧が下がって発作は治まります。アルゴンレーザーの熱で止血処理したあとに、YAGレーザーで孔を開けます。

 

虹彩にレーザーで孔(あな)を開け、房水の通り道をつくります
虹彩にレーザーで孔(あな)を開け、房水の通り道をつくります。

 

ちなみに、隅角が狭く(狭隅角)、急性緑内障発作や慢性閉塞隅角緑内障になるリスクがある方には、予防の目的でレーザー虹彩切開術を行うこともあります。

 

しかし、慢性閉塞隅角緑内障になるリスクを、完全になくすことはできないので、最近では、白内障手術で予防することが増えています。白内障手術で水晶体の中身を眼内レンズに入れ替えてしまえば、水晶体の圧迫による狭隅角の症状はほぼなくなります。

 

緑内障に対するレーザー治療には、選択的レーザー線維柱帯形成術もあります。この治療法では、房水が目の外に出ていくときに通る、線維柱帯というコーヒーのフィルターのような膜に弱いレーザーを照射し、線維柱帯の房水の流れを改善します。

 

⑦ 後発白内障(レーザー切開術)

 

白内障手術では、混濁した水晶体の中身だけを取り除き、人工眼内レンズに変えます。つまり、水晶体を包んでいるふくろ(水晶体嚢)は、切り取った前嚢の一部以外はそのまま残っている状態です。

 

手術後、その膜が白濁し、再びかすんで、視力が落ちることがあります。これを後発白内障といいます。後発白内障の治療には、YAG(ヤグ)レーザーを使った後嚢切開術を行います。濁った後嚢を切り取り、光を通すようにします。

 

破った水晶体嚢の一部が硝子体に散らばり、視界にモヤモヤしたゴミのようなものが見える飛蚊症の症状を起こすことがありますが、徐々に収まります。ごくまれですが、眼圧上昇や炎症などの合併症を引き起こす可能性もありますので、それを抑える点眼をしっかり行い、術後の経過を診てもらいましょう。

 

 

⑧ 黄斑浮腫(閾値下レーザー治療)

 

黄斑浮腫は、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症で起こしやすい病気です。黄斑部の血管中の水分が漏れ出し、その結果黄斑がむくんで腫れてしまっている状態をいいます。

 

糖尿病網膜症による黄斑浮腫では、毛細血管のコブから水分が漏れることが多いです。その場合、アルゴンレーザーのビームを細くしてコブを凝固し、漏れを止めます。毛細血管自体からの漏れが強い場合は、水分が網膜の土台に吸収されやすくなるよう、アルゴンレーザーなどで、網膜の土台を格子状に間隔を開けて焼きます(グリッド網膜光凝固術)。

 

最近では、網膜を焼かずに済む閾値下レーザーが可能になっています。閾値下レーザーは、視細胞や土台の色素上皮細胞を破壊しない程度の刺激を与えることができます。視力を司る黄斑を焼かずに治療できるのは画期的です。

レーザーを使用した「レーシック手術」

レーシック手術は、フェムトセカンドレーザーで角膜フラップを作成したあと、エキシマレーザーで角膜を必要な分だけ削り、屈折率を弱めて、裸眼視力を回復させる手術です。

 

エキシマレーザーは波長が非常に短く、熱を出さずにピンポイントに組織を蒸散させます。このため、角膜の一部分を安全かつ正確に除去することができます。コンピューター制御されているため、設計通りに行えるのです。

 

レーシック手術はレーザーで行う屈折矯正治療です
レーシック手術はレーザーで行う屈折矯正治療です。

レーザーを使用した「白内障手術」

これまで手技に頼っていた白内障手術の半分を、フェムトセカンドレーザーで行う治療法です。

 

フェムトセカンドレーザーで行う操作は、角膜切開、前嚢切開、核分割、乱視矯正のための角膜弧状切開です。コンピューター制御されているため、設計通りに行うことができます。たとえば、「前嚢切開は直径5ミリ」と決めると、水晶体の中心を、コンパスで描いたような直径5ミリの正円で切開できるのです。

 

レーザー白内障手術ができる機器LenSx(レンズエックス、Alconより)
レーザー白内障手術ができる機器LenSx(レンズエックス、Alconより)

保険診療と自由診療

◆病気を治すレーザー治療は保険診療

 

矯正視力を奪う病気を治療するために始まったレーザー治療。時代とともに、眼科のさまざまな領域で、なくてはならない治療法になってきました。レーザー治療は、保険診療ですのでご安心ください。

 

◆より快適な見え方を実現するレーザー治療は自由診療

 

一方、メガネなしでよく見えるようにするレーシック治療は自由診療です。白内障手術において、老眼も治る多焦点レンズの性能を最大限引き出すために行うレーザー白内障手術も自由診療です。これらは、より快適な見え方を実現することを目的とするため、コンタクトレンズやメガネと同様に自費となります。

 

◆透明な目だから活躍するレーザー治療

 

目は角膜、水晶体、硝子体が透明であるため、レーザーが網膜まで届きます。また、角膜が透明なので、水晶体をレーザーで切ることができます。あるいは、角膜が透明だから、自在に角膜をレーザーで加工できます。レーザーは透明な組織に対して、自由自在に活躍することができるのです。

 

レーザーは、さまざまな医療現場で活躍しています。特に眼科領域にとって、多くの病気を治し、豊かな生活をもたらしてくれる存在といえるのです。

 

★板谷院長のひとことアドバイス

 

目は透明なため、虹彩から網膜までレーザー光が届きます。さまざまな種類のレーザーを用いると、緑内障から眼底疾患まで、実に多くの病気をその場で治療できます。手術のように感染のリスクもなく、安全性が高いことも知っていただきたいです。

 

★まとめ

●レーザー治療には、レーザー光凝固術、レーザー切開術、閾値下レーザー凝固術の3種類があります。

●糖尿病網膜症や緑内障など、失明のリスクがある疾患に大きな効果があります。

●レーザー治療には、目的に応じて保険診療と自費診療があります。

 

 

板谷 正紀

はんがい眼科 院長

 

はんがい眼科 院長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/

著者紹介

連載眼科院長がやさしく解説!「目」に関する不安を解決するための基礎知識

本連載は、「はんがい眼科 目のブログ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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