賃貸物件の修理・リフォーム費用…大家はどこまで負担する?

不動産の賃貸借契約を締結した後、賃借人がさまざまな事情により建物に対して費用を支出することがあります。これらの費用は賃貸借契約において、どのように評価されるのでしょうか。モデルケースを用いてご説明します。※本連載では、投資用不動産業界の健全化を目指す一般社団法人首都圏小規模住宅協会が、正しい知識と公平な情報を紹介します。

「雨漏り」を理由に家賃を払わない賃借人

【今回の執筆者紹介】
竹村鮎子弁護士
練馬・市民と子ども法律事務所
2009年弁護士登録

 

モデルケース①

Aさんは自らが所有する居住用建物を、Bさんに貸しています。しかし、Bさんは建物から雨漏りがするからといって、一向に家賃を払ってくれません。Aさんはどのように対応したら良いでしょうか。また、AさんはBさんに家賃の支払いを求めることができるでしょうか。

 

(1)建物で雨漏りがする場合の法律関係

借りている建物で雨漏りがする場合、修理は大家さんと建物を借りている人、どちらがしなくてはならないでしょうか。

 

賃貸借契約は自分の物を貸す代わりに賃貸料を取るものですから、貸すべきものは、賃貸料に見合うものでなければなりません。したがって、物を貸す人は貸す物が賃貸料に見合うように、維持管理をする必要があります。これを、貸主の修繕義務といいます(民法606条1項)。

 

設例の場合、雨漏りがする建物は居住用として問題ないとはいえませんので、大家さんであるAさんが修理をしなくてはなりません。

 

(2)修理をしなかった場合の法律関係

設例の場合を見てみると、Bさんは「雨漏りがする」ことを理由に家賃の全額を支払っていないようです。Bさんの対応は正しいものでしょうか。

 

この点、賃料は建物を使用する対価ですから、建物の使用ができない時には民法533条の同時履行の抗弁権(契約当事者がお互いに義務を負っている場合(設例の場合、Aさんは建物を修理する義務、Bさんは家賃を支払う義務)一方が自ら負っている義務を履行しない場合、もう一方も自らの義務の履行を拒むことができること)を適用し、賃料を支払わなくても良いと考えられています。

 

したがって、設例の場合「雨漏りがするから家賃を払わない」というBさんの言い分は正しいといえます。

 

しかし、Bさんは家賃の「全額」を支払わないとしていますが、これは問題です。というのも、通常雨漏りは天井の一部分から水が垂れてくるものであり、影響があるのは部屋のごく一部であると言えます。部屋で雨漏りがすることは不便ではありますが、だからといって建物に住めなくなるわけではありません。

 

Bさんは雨漏りがするとはいえ、部屋を使うことができているのですから、その分の家賃は払わなくてはなりません。つまり、Bさんは家賃の「全額」を支払わなくてよいわけではなく、自らの使用に応じた金額は支払わなくてはならないのです。

 

Bさんは、雨漏りの影響を受けずに建物を使用できている部分と、雨漏りのために建物の使用ができない部分の割合を計算し、建物を使用できている部分の割合に応じた家賃をAさんに支払わなくてはならないと考えられます。

 

したがって、AさんとしてはBさんから雨漏りの報告があったら速やかに建物を調査し、必要な修繕を行う必要があります。その上で、雨漏りによって建物の使用ができないのはどの程度かを判断し、建物の使用に問題がない部分についての賃料については、未払賃料であるとしてきちんとBさんに請求しましょう。

 

(3)Bさんが自分で雨漏りを修理していた場合

それではBさんが自分で雨漏りを修理していた場合、どうなるのでしょうか。この場合BさんはAさんに対して、本来ならばAさんが支払うべき費用を支払ったとして、修理費用全額を請求することができます(民法608条1項)。

 

また、Aさんがこれに応じない場合には、Bさんは家賃の支払と相殺することもできますので注意が必要です。

「有益費の償還請求権」のリスクを回避するには?

モデルケース②

Cさんは古い家屋を所有しており、「古民家カフェをやりたい」というDさんとの間で賃貸借契約を締結しました。Dさんはキッチンやトイレなどの水回りをリフォームして、古民家カフェを経営していましたが、この度カフェを閉店することにしたようです。そこでCさんに対して、Dさんから賃貸借契約を終了したい旨の申し入れがあり、水回りのリフォーム工事費用を支払ってほしいと要求されました。

 

(1)Dさんが水回りをリフォームした場合の法律関係

賃借人が賃借物について有益費を支出したときには、賃貸人は賃貸借契約終了の際にその償還をしなくてはならないとされています(民法608条2項)。

 

これは分かりやすく言うと「建物にとってメリットのある費用を賃借人が支払ったときは、賃貸借契約が終了する際に、その費用、または価値が上がったその増加分は賃貸人が賃借人に対して支払わなくてはならない」という意味です。これを一般的には「有益費の償還請求」といいます。

 

(2)有益費とは何か

それでは、Dさんが水回りをリフォームしたことが「建物にとってメリットのある費用」すなわち「有益費」であるといえるでしょうか。「有益費」とは、建物の改良のために要した費用で、かつ建物の価値を客観的に上げるものを指します。

 

一般的には水回りのリフォームは、建物の価値を客観的に高めるものであると言えるでしょう。ただし、もともと用途が居住用であった建物を、カフェ用にリフォームしたとしても、建物の価値を客観的に高めたと判断されない場合があります。

 

他方で、賃貸人の同意を得ないで行った改良であっても、建物の価値を客観的に高めるものである場合には、有益費であると判断されることもあります。

 

また、内装をステンドグラス貼りにしたような場合も、主観的には建物が改良されたかのように思えますが、建物の価値を「客観的に」高めたとは言えないとして、有益費に当たらないとされています。つまり、何が有益費に当たるかは契約の内容や建物の使用状況から判断され、一義的には決められないことに注意が必要です。

 

(3)償還費用はどのくらいか

それではCさんはDさんに償還しなくてはならない「有益費」とはどのくらいなのでしょうか。これについては、民法196条2項で「支出した金額」または「増加額」を償還するものとされています。

 

つまりCさんはDさんに対し、リフォーム工事にかかった費用または建物の価値が上がった価値の増加分のうち、安いほうを支払うことになります。建物の価値の増加分については「現存価値」が基準であるとされ、税務上の減価償却を行って計算することが一般的です。

 

(4)有益費償還請求権のリスク

賃借人から賃貸借契約終了時に「有益費償還請求権」を行使されると、後になって高額の「有益費」を請求される恐れがあります。

 

また、通常償還すべき有益費の支払時期は賃貸借契約終了時ですが、賃貸人から賃借人に対する有益費が高額である場合には、その時点で支払いができないことも考えられます。

 

有益費の支払いができない場合、支払いが済むまで建物の明け渡しが受けられなくなることがあります(民法295条1項本文)ので、これを回避するため賃貸人としては、裁判所に「償還の期限の付与」を請求する必要があります。

 

これにより、償還すべき有益費の支払いを賃貸借契約終了時よりも後にすることができ、賃借人に対して建物の明け渡しを求めることができます。

 

このように、有益費の償還請求権は不動産オーナーにとっては大きなリスク要因ではありますが、この権利は放棄が認められています。不動産オーナーとしては、賃貸借契約終了時に高額の有益費の償還を求められることを予防するため、契約締結時に有益費償還請求権の放棄を条項としておくことを検討するべきでしょう。

 

なお、賃貸借契約において、例えば「原状回復費用は全て賃借人が負担する」などといった原状回復義務についての特約を締結している場合でも、賃借人が有益費償還請求権を放棄したとは解釈されないこともあります。

 

したがって、リスクを回避するためには原状回復の特約がある場合でも、これだけでは十分とは言えません。原状回復の特約と合わせて、有益費償還請求権の放棄についても賃貸借契約書に記載しておくべきであるといえます。

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練馬・市民と子ども法律事務所 弁護士

2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。

著者紹介

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾」を介し、公平な情報をお送りいたします。

著者紹介

連載初心者から上級者まで…知っておくべき「投資用不動産」の基礎知識

本連載は、「不動産投資塾」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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