手術時に「断裂リスク」が…チン小帯が弱る3つの原因とは?

本連載では、白内障治療に強みをもつ、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障の基本的な症状や治療法を解説します。今回は、水晶体を支える「チン小帯」が白内障手術に与える影響について見ていきます。

弱ったチン小帯では、手術の衝撃に耐えきれない…

この数十年間で、白内障手術は技術が進歩し、とても安全なものになりました。しかし、目の状態によっては手術が難しくなってしまう場合もあります。その1つが、チン小帯が弱くなってしまっている症例です。

 

◆水晶体を支える働きをするチン小帯

 

水晶体は、黒目(角膜)の奥にあり、角膜とともに光を屈折するレンズの役割を果たしている透明な組織です。チン小帯という伸び縮みする細い筋肉によって、周囲の組織(毛様体)とつながり、支えられています。

 

目の構造
 目の構造

 

白内障手術では、水晶体の中身を砕いて吸引し、そこに人工眼内レンズを入れますが、この人工眼内レンズを支えるため、水晶体のふくろは残します。ふくろはチン小帯で支えることになりますが、患者さんのなかにはチン小帯が弱ってしまっている人もいます。弱ったチン小帯では、人工眼内レンズを支えきれない、手術の衝撃に耐えきれないといった原因により、断裂してしまうことがあります。そのため、手術の難易度がグンと上がってしまうのです。

 

◆チン小帯が弱る3つの原因

 

チン小帯が弱る原因には、主に以下の3つがあります。

 

① 加齢によるもの

 

年を取るにつれて、誰でも若いころに比べて筋力が衰えていきます。チン小帯も筋肉の一種なので、加齢によって衰えが生じます。筆者の経験では、90歳を超えるとほぼ100%、80代ではおよそ50%の患者さんに、チン小帯の衰えがみられます。

 

② 外傷によるもの

 

たとえば、スポーツをしていて目を強くぶつけたことがあるなど、目の外傷を負った経験がある人にも、チン小帯の衰弱がみられることがあります。ぶつかった衝撃によって水晶体が激しく振動し、水晶体の周りを取り囲んでいるチン小帯にも衝撃を伝えてしまうことが原因です。チン小帯は、焦点距離に合わせて伸び縮みする柔らかい組織なので、外傷の影響を受けやすいのです。

 

③ 落屑(らくせつ)症候群によるもの

 

落屑症候群とは、目のなかにフケのようなものができる症状のことです。それが、目のなかを循環する水の出入り口に詰まって眼圧が上がり、緑内障の原因になることがあります。このフケのような物質がある人は、チン小帯が弱くなっている場合が多いです。

 

チン小帯が切れると「硝子体手術」が必要に

◆チン小帯が弱いと手術が困難になる理由と、その場合の治療法

 

チン小帯は、水晶体を支える役割を担う組織です。この部分が弱いと、手術中にチン小帯が切れてしまい、水晶体が目の奥の硝子体に落ちてしまうことがあります(水晶体脱臼といいます)。そうなると、手術が大がかりになるばかりでなく、うまく処置できないと、失明のリスクを招くこともあり得るのです。

 

◆硝子体手術が必要になるため、対応できる医師が限られる

 

チン小帯が弱い人にとって、手術における最大のリスクは、手術を担当している医師が対応できなくなる可能性が高いという点にあります。白内障の手術は、今や5分程度で終わるさほど難しくない手術ですが、手術中に弱ったチン小帯が切れて、水晶体が目の奥の硝子体に落ちた時点で、術式が「硝子体手術」に変わります。

 

ところが現在、眼科の専門領域が細分化されているため、白内障の手術ができても、硝子体の手術はしたことがない医師が多いのです。仮に、硝子体の手術経験のない医師による白内障の手術中に、このような事態が発生すると、医師は患者さんを別の病院に送ろうとするでしょう。受け入れ先がすぐに見つかって、早急に適切な処置をしてもらえればいいですが、最悪の場合、受け入れ先が見つからずに、視力低下を招く恐れもあります。

 

◆チン小帯が弱い場合の治療法

 

チン小帯が弱く、一部が切れてしまっている人の手術では、CTR(水晶体嚢拡張リング)と呼ばれる針金のような器具を、水晶体を包むふくろ(水晶体嚢)のなかに入れて、弱ったチン小帯の働きを補う処置が必要になります。

 

チン小帯が2分の1以上切れている場合は硝子体手術となりますが、2分の1以下の場合にはCTRを使用した手術を行います。この器具を使用することでふくろが広がるため、手術中の水晶体の位置が安定し、チン小帯への衝撃もやわらげることができるのです。

 

HOYA製<CTR>ホック無しタイプ
HOYA製<CTR>ホック無しタイプ
HOYA製<CTR>ホック有りタイプ
HOYA製<CTR>ホック有りタイプ

 

ところが、CTRを扱えるのは、日本眼科学会の定めた講習を受講した眼科医だけなのです。チン小帯が弱い人の白内障手術を行える術者は、眼科医でもごくわずかではないでしょうか。

 

結果、医師が「チン小帯の弱い患者さんの手術はしない」という選択をする事態になってしまうのです。実際に、検査でチン小帯が弱いことがわかった時点で、「うちでは手術ができません」と断られることが多いです。

 

高齢の人や、目を強くぶつけたことのある人、緑内障のある人など、チン小帯が弱る原因を持っている人は、硝子体手術ができる、かつCTRを扱える眼科を探すようにしましょう。

 

 

佐藤 香

アイケアクリニック院長

医療法人トータルアイケア理事

アイケアクリニック銀座院副院長 医師

 

アイケアクリニック院長
医療法人トータルアイケア理事
アイケアクリニック銀座院副院長 医師

獨協医大越谷病院・眼科専門外来として、黄斑外来・緑内障外来・糖尿病レーザー外来・PDT外来・硝子体内注射外来等を担当しながら、栗原眼科にも勤務。
白内障や眼瞼、結膜疾患の手術を中心に担当。その後、八潮中央総合病院眼科医長として、白内障、眼瞼、結膜疾患だけでなく緑内障手術、網膜硝子体手術、硝子体内注射など幅広く手術も行いながら、外来診療では地域住民のかかりつけ医として地域医療にも貢献している。

http://cataract.eye-care-clinic.jp/

著者紹介

連載40代でも発症する目の疾患「白内障」の基礎知識

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